13 / 58
きっかけ~小学校編~
13
しおりを挟む
次の日、私と両親は小学校に来ていた。昨日は金曜日だったので、今日は本来、学校は休みのはずだった。だが、そんなことで控えるような両親ではない。もちろん、突然土曜日に学校に赴いても、担任が休みであると言われたら意味がない。
その点は心配がいらなかった。両親は昨日の電話で、明日の土曜日に学校に行くと伝えていたからだ。学校に行くと、担任は学校に来ていた。さすがに土曜日で休みというわけにはいかなかったのだろう。
加害者の女と家族も呼びだしていたそうだが、彼女たちが来ることはなかった。それは想定内でもあったので、私は両親に家に乗り込もうと伝えた。両親もそれに賛成した。
しかし、それを遮ったのは担任だった。彼女の親が市議会議員ということで、事件を極力抑えたいようだ。しかし私たちにそんなことは関係ない。だって、4月には別の場所にいるのだから。ここで何をしようが、次の生活に支障が出ることはない。
彼女の家はすでに把握している。個人情報保護が騒がれているが、小学生の私がクラスメイトの住所を知りたいといえば、すぐに教えてくれた。
先生の制止は無視して、すぐに私たち家族は彼女の家に向かう。家の前のインターフォンを押すと、ちょうど女が出た。
「別府えにしです。昨日のことで両親も交えていろいろ話し合いましょう。」
まさか昨日の今日で自分の家まで押しかけてくるとは思っていなかったのだろう。女はあわてて、インターフォンから離れたようだ。すると、ドアがガチャリと開いて、中から彼女の両親とみられる男女が出てきた。
母親らしき女が私たちに声をかける。
「休日のこんな朝早くに何の用事ですか。」
「用事なんて一つしかないでしょう。自分の娘から聞いていないのですか。クラスメイトの顔を殴ってしまったことを。」
両親はすぐに本題に入った。まず、先に話しかけたのは父親だった。それに答えたのは女の父親だと思われる男性だ。
「知りませんね。娘はそんな野蛮なことはしませんよ。証拠はあるのですか。」
「私の娘の顔を見てください。この通り、ひどいでしょう。誰がやったのだと思いますか。なんとあなたの娘さんですよ。さて、この落とし前、どうつけてくれますか。」
父親は初対面でも遠慮というものを知らないようだ。その言葉に今度は母親が加勢した。
「そんな物騒なことを言ってはいけませんよ。それにしても可哀想に。女の顔は命というほど大事なのに。それを知らない人はいるはずないのに。いや、いましたね。目の前。なんて非常識な娘さんでしょう。」
「なんですか。さっきから私の娘に対しての暴言の数々。許してはおけませんぞ。」
両親の言葉にカチンときたらしい。私の娘といっているので、父親で間違いないようだ。女の父親が怒り出す。私は大人のやり取りを静かに見守ることにした。女ははらはらと私と自分の両親の様子を見ていた。
「許すも何も。悪いのはそのクソガキでしょうが。どうしたら、言葉より先に手が出る野蛮な娘に育つのでしょうかね。親の顔が見てみたいですね。いや、目の前にそのくそ親がいましたね。」
「こんのくそ野郎があ。」
どうやら娘も娘ならその親も同様に言葉より先に手が出るようだ。さすがに女性に手を出すのははばかられたようで、父親に手を上げようとする。
手を挙げた瞬間、「ぴろんっ。」という音がどこからか聞こえた。
「全く、子供が子供なら親も親。まさに蛙の子は蛙で嫌になってしまうわね。」
そういってスマホを掲げていたのは私の母親だった。さっきの音はスマホのカメラの音だったようだ。
「さて、この写真からだとあなたが無理やり私の旦那に手を出そうとしているように見えますが、どうしましょうか。この写真と、これまでの会話を録音したものをネットにアップでもしましょうか。もちろん、私たちの声は加工しますよ。」
その言葉が決定的となった。女の両親は急に慌てふためいた。こんな傷害事件の様子を世間に知られてしまったらやばいことは、普通に考えればわかることだ。
先ほどの強気な態度とは一変、へこへこと私たちに謝りだした。自分の娘にも頭を下げるように伝えて、3人そろって謝罪しだした。女の父親は自分の娘が悪くないと主張していたが、最後まで母親の方は最初に用件を聞いただけで、その後は無言だった。もしかしたら、家でも父親が権力を振りかざしているのかもしれない。
それにしても、3人が謝ってくる様子は本当に滑稽だった。笑いがこみあげてきて仕方ない。今まで、権力で何とかしてきて、自分が不利になることはなかったのだろう。他人を馬鹿にするからこうなるのだと心がスカッとした。
私に対する傷害事件はあっけなく幕を閉じた。このことを公にしたくない彼女たちの意見もあり、私も警察沙汰にまでする必要はないと両親に伝えた。両親は納得いかない様子だったが、私が必死に頼み込むと、えにしがいいなら構わないと最後には納得してくれた。
大人たちの平和的な話し合いが行われた後、私は女と二人きりで外で遊んでくると私の両親と女の両親に伝えた。おびえたような顔をした女の手を引き、努めて明るい笑顔で外に連れ出す。
「二人きりで今回のことを話し合いたいと思って。やっぱり、自分たちで起きた出来事だもの、自分たちが納得いくまで話し合わないと。そうでしょう、お父さん、お母さん。」
「そうねえ。確かに私たち大人が無理やり割り込んだようなものだもの。二人で話し合うことは必要ね。」
「そんなことはしなくて……」
「何か言いましたか。」
女の父親にスマホを見せつける私の母親の圧力に負けたのだろう。否定の言葉は途中でしりすぼみになって、最後まで口にすることはなかった。
女を連れだした私は、通学路にある公園までたどり着いた。そこにあるベンチに腰かけて、彼女にある提案をした。
その提案内容に眉をひそめた女だったが、それでも、私の両親のことを思い出したのだろう。文句を言いたそうな顔をしながらも、私の提案に頷いた。
女との話を終えて、家に帰ると、両親は何度も警察に言わなくてもいいのか何度も言われた。
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくても、私はこの手でやられた仕返しをするつもりだから。」
その言葉に頼もしくてよろしい、と褒められてしまった。
「いじめられて泣き寝入りはダメ。私たちにすぐに相談すること。どうしても許せないなら、正当防衛といって、やり返しなさい。」
昔から両親に言われていることだ。確かにいじめられて自殺しても何も意味がない。どうせ、すぐに他人の心から私の存在はすぐに消え去ってしまう。死に損という奴だ。
両親の言葉に従うことにしよう。やられたら、やり返すの精神である。
その点は心配がいらなかった。両親は昨日の電話で、明日の土曜日に学校に行くと伝えていたからだ。学校に行くと、担任は学校に来ていた。さすがに土曜日で休みというわけにはいかなかったのだろう。
加害者の女と家族も呼びだしていたそうだが、彼女たちが来ることはなかった。それは想定内でもあったので、私は両親に家に乗り込もうと伝えた。両親もそれに賛成した。
しかし、それを遮ったのは担任だった。彼女の親が市議会議員ということで、事件を極力抑えたいようだ。しかし私たちにそんなことは関係ない。だって、4月には別の場所にいるのだから。ここで何をしようが、次の生活に支障が出ることはない。
彼女の家はすでに把握している。個人情報保護が騒がれているが、小学生の私がクラスメイトの住所を知りたいといえば、すぐに教えてくれた。
先生の制止は無視して、すぐに私たち家族は彼女の家に向かう。家の前のインターフォンを押すと、ちょうど女が出た。
「別府えにしです。昨日のことで両親も交えていろいろ話し合いましょう。」
まさか昨日の今日で自分の家まで押しかけてくるとは思っていなかったのだろう。女はあわてて、インターフォンから離れたようだ。すると、ドアがガチャリと開いて、中から彼女の両親とみられる男女が出てきた。
母親らしき女が私たちに声をかける。
「休日のこんな朝早くに何の用事ですか。」
「用事なんて一つしかないでしょう。自分の娘から聞いていないのですか。クラスメイトの顔を殴ってしまったことを。」
両親はすぐに本題に入った。まず、先に話しかけたのは父親だった。それに答えたのは女の父親だと思われる男性だ。
「知りませんね。娘はそんな野蛮なことはしませんよ。証拠はあるのですか。」
「私の娘の顔を見てください。この通り、ひどいでしょう。誰がやったのだと思いますか。なんとあなたの娘さんですよ。さて、この落とし前、どうつけてくれますか。」
父親は初対面でも遠慮というものを知らないようだ。その言葉に今度は母親が加勢した。
「そんな物騒なことを言ってはいけませんよ。それにしても可哀想に。女の顔は命というほど大事なのに。それを知らない人はいるはずないのに。いや、いましたね。目の前。なんて非常識な娘さんでしょう。」
「なんですか。さっきから私の娘に対しての暴言の数々。許してはおけませんぞ。」
両親の言葉にカチンときたらしい。私の娘といっているので、父親で間違いないようだ。女の父親が怒り出す。私は大人のやり取りを静かに見守ることにした。女ははらはらと私と自分の両親の様子を見ていた。
「許すも何も。悪いのはそのクソガキでしょうが。どうしたら、言葉より先に手が出る野蛮な娘に育つのでしょうかね。親の顔が見てみたいですね。いや、目の前にそのくそ親がいましたね。」
「こんのくそ野郎があ。」
どうやら娘も娘ならその親も同様に言葉より先に手が出るようだ。さすがに女性に手を出すのははばかられたようで、父親に手を上げようとする。
手を挙げた瞬間、「ぴろんっ。」という音がどこからか聞こえた。
「全く、子供が子供なら親も親。まさに蛙の子は蛙で嫌になってしまうわね。」
そういってスマホを掲げていたのは私の母親だった。さっきの音はスマホのカメラの音だったようだ。
「さて、この写真からだとあなたが無理やり私の旦那に手を出そうとしているように見えますが、どうしましょうか。この写真と、これまでの会話を録音したものをネットにアップでもしましょうか。もちろん、私たちの声は加工しますよ。」
その言葉が決定的となった。女の両親は急に慌てふためいた。こんな傷害事件の様子を世間に知られてしまったらやばいことは、普通に考えればわかることだ。
先ほどの強気な態度とは一変、へこへこと私たちに謝りだした。自分の娘にも頭を下げるように伝えて、3人そろって謝罪しだした。女の父親は自分の娘が悪くないと主張していたが、最後まで母親の方は最初に用件を聞いただけで、その後は無言だった。もしかしたら、家でも父親が権力を振りかざしているのかもしれない。
それにしても、3人が謝ってくる様子は本当に滑稽だった。笑いがこみあげてきて仕方ない。今まで、権力で何とかしてきて、自分が不利になることはなかったのだろう。他人を馬鹿にするからこうなるのだと心がスカッとした。
私に対する傷害事件はあっけなく幕を閉じた。このことを公にしたくない彼女たちの意見もあり、私も警察沙汰にまでする必要はないと両親に伝えた。両親は納得いかない様子だったが、私が必死に頼み込むと、えにしがいいなら構わないと最後には納得してくれた。
大人たちの平和的な話し合いが行われた後、私は女と二人きりで外で遊んでくると私の両親と女の両親に伝えた。おびえたような顔をした女の手を引き、努めて明るい笑顔で外に連れ出す。
「二人きりで今回のことを話し合いたいと思って。やっぱり、自分たちで起きた出来事だもの、自分たちが納得いくまで話し合わないと。そうでしょう、お父さん、お母さん。」
「そうねえ。確かに私たち大人が無理やり割り込んだようなものだもの。二人で話し合うことは必要ね。」
「そんなことはしなくて……」
「何か言いましたか。」
女の父親にスマホを見せつける私の母親の圧力に負けたのだろう。否定の言葉は途中でしりすぼみになって、最後まで口にすることはなかった。
女を連れだした私は、通学路にある公園までたどり着いた。そこにあるベンチに腰かけて、彼女にある提案をした。
その提案内容に眉をひそめた女だったが、それでも、私の両親のことを思い出したのだろう。文句を言いたそうな顔をしながらも、私の提案に頷いた。
女との話を終えて、家に帰ると、両親は何度も警察に言わなくてもいいのか何度も言われた。
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくても、私はこの手でやられた仕返しをするつもりだから。」
その言葉に頼もしくてよろしい、と褒められてしまった。
「いじめられて泣き寝入りはダメ。私たちにすぐに相談すること。どうしても許せないなら、正当防衛といって、やり返しなさい。」
昔から両親に言われていることだ。確かにいじめられて自殺しても何も意味がない。どうせ、すぐに他人の心から私の存在はすぐに消え去ってしまう。死に損という奴だ。
両親の言葉に従うことにしよう。やられたら、やり返すの精神である。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ソレゾレをツレヅレに。
shu-ha
青春
とある高校の生徒たちが織り成す徒然な日々-
中身のない男子同士の雑談
イラつくほどウブなカップル
部活に青春を捧ぐ先輩後輩
男子よりどこかリアルなガールズトーク
それぞれの他愛もない日常を描く
どこにでもありがちなユッルユル短編連投小説。たまに中編も?
惑星ラスタージアへ……
荒銀のじこ
青春
発展しすぎた科学技術が猛威を振るった世界規模の大戦によって、惑星アースは衰退の一途を辿り、争いはなくなったものの誰もが未来に希望を持てずにいた。そんな世界で、ユースケは底抜けに明るく、誰よりも能天気だった。
大切な人を失い後悔している人、家庭に縛られどこにも行けない友人、身体が極端に弱い妹、貧しさに苦しみ続けた外国の人、これから先を生きていく自信のない学生たち、そして幼馴染み……。
ユースケの人柄は、そんな不安や苦しみを抱えた人たちの心や人生をそっと明るく照らす。そしてそんな人たちの抱えるものに触れていく中で、そんなもの吹き飛ばしてやろうと、ユースケは移住先として注目される希望の惑星ラスタージアへと手を伸ばしてもがく。
「俺が皆の希望を作ってやる。皆が暗い顔している理由が、夢も希望も見られないからだってんなら、俺が作ってやるよ」
※この作品は【NOVEL DAYS】というサイトにおいても公開しております。内容に違いはありません。
色づく世界の端っこで
星夜るな
青春
両親に捨てられた過去を持つ少年が、高校生になったときある部活に引き込まれる。そこから少年の世界は色づく。ことを描いた作品です。(制作の過程で内容が変わる場合があります。)
また、話のタイトルの番号がありますが、書いた順番です。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
星をくれたあなたと、ここで会いたい 〜原価30円のコーヒーは、優しく薫る〜
藍沢咲良
青春
小さな頃には当たり前に会っていた、その人。いつしか会えなくなって、遠い記憶の人と化していた。
もう一度巡り会えたことに、意味はあるの?
あなたは、変わってしまったの──?
白雪 桃歌(shirayuki momoka) age18
速水 蒼 (hayami sou) age18
奥手こじらせ女子×ツンデレ不器用男子
⭐︎この作品はエブリスタでも連載しています。
亡国の少年は平凡に暮らしたい
くー
ファンタジー
平凡を目指す非凡な少年のスローライフ、時々バトルなファンタジー。
過去を隠したい少年ロムは、目立たないように生きてきました。
そんな彼が出会ったのは、記憶を失った魔法使いの少女と、白い使い魔でした。
ロムは夢を見つけ、少女は画家を目指し、使い魔は最愛の人を捜します。
この世界では、不便で、悲しくて、希少な魔法使い。
魔法と、魔法使いと、世界の秘密を知った時。3人が選択する未来は――
人生負け組のスローライフ
雪那 由多
青春
バアちゃんが体調を悪くした!
俺は長男だからバアちゃんの面倒みなくては!!
ある日オヤジの叫びと共に突如引越しが決まって隣の家まで車で十分以上、ライフラインはあれどメインは湧水、ぼっとん便所に鍵のない家。
じゃあバアちゃんを頼むなと言って一人単身赴任で東京に帰るオヤジと新しいパート見つけたから実家から通うけど高校受験をすててまで来た俺に高校生なら一人でも大丈夫よね?と言って育児拒否をするオフクロ。
ほぼ病院生活となったバアちゃんが他界してから築百年以上の古民家で一人引きこもる俺の日常。
――――――――――――――――――――――
第12回ドリーム小説大賞 読者賞を頂きました!
皆様の応援ありがとうございます!
――――――――――――――――――――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる