ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち

折原さゆみ

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「それで、先ほどから言葉を途中で止めているようですが、何か私に伝えにくいことでもあるのですか?」

 翔琉君もREONAさんも途中で言葉を止めていた。それからとか、そしてとかその後に続く言葉を想像するがわからない。


「翔琉はまだ、言っていないわよね」

「言おうとしたら、母さんが会話に入ってきたんだろ」

「いざ、言葉にしようとすると、緊張するっていうか」

「離婚はすぐにできたのに、一番重要なことは言えないなんて、おかしいね」

「だって」

 なにやら、ぼそぼそと二人が会話している声が聞こえてくる。何か二人にとって重要なことを私に伝える必要があるらしい。このままだとグダグダして、いつまでたっても話が進まない。

「何を言いたいんですか?もう、大抵のことには驚きませんから、さっさと用件を話してください」

「いえ、実はもう、先生には私の気持ちは伝えているんです。でも、先生は覚えていないから、改めて言うのは、なんだか気恥ずかしくて」

「REONAさんの気持ちですか?」

「そうです。ほら、私の元旦那と三人で先生の家で話をしたでしょう?その時には断られてしまいましたが、私はあの時の言葉を実行したいです」

 REONAさんとの会話を振り返る。男とREONAさんと私の三人での会話はいろいろ衝撃的な内容で、ところどころ記憶があやふやとなっている。そこから何か思いだせる言葉はないだろうか。

「覚えていらっしゃらないですか?私はあなたに気持ちを伝えると同時に、あることを提案しました」

 告白されたことは覚えている。私のことを好きだと言われたことは、記憶にしっかりと残っている。冗談だと思いたかったが冗談ではなく、現在の私の頭を悩ませている。それ以外に言われたことといえば。

『私と一緒に暮らしてくれませんか?』

「思い出したみたいですね」

 私が息をのむ音で、記憶に残っていたことを察したREONAさんが、電話越しに微笑む様子が頭に浮かぶ。

「いや。それはお断りしましたよね。一緒に住むなんて、そ、それは私と、ど、同棲するということですよ」

「同棲。なんだかいけない響きですね。構いませんよ。そもそも、こちらからお願いしていることですから」

「か、翔琉君はどうするんですか?REONAさんが引き取るのでしょう?二人の暮らしに私なんかが割り込んで」

「僕は先生と一緒に住んでもいいですよ。母さんの意見に賛成です」

 私の反論を封じ込めるように、翔琉君が電話に代わり、はっきりと私の同棲の反対意見をつぶしていく。息子の翔琉君を使って、彼女たちとの同棲を阻止しようとしたが、無駄に終わった。

 何か他に、彼女たちとの同棲を否定できる材料はないものだろうか。

「先生に拒否する権利はありませんよ」

 私の心の内を読んだかのように、REONAさんの声がスマホ越しに聞こえる。翔琉君に反論の余地を失われてから黙っていたのに、どういうことか。他人の心の内を読む能力でもあるかのようだ。

「あきらめなって。母さんは結構しつこいんだよ。僕も、先生を手放すつもりはないし」

『どうする、先生?』

 二人の悪魔のようなささやきに、私の決心は一瞬にぶるが、それでもここで首を縦に振ってはいけないと本能が告げている。もし、彼らとの同棲を了承してしまえば、私の平穏な日常の崩壊が待っている。今までの悠々自適の一人暮らし生活に終止符が打たれるのだ。



「REONAさんたちとの同棲に合意します。これから、よろしくお願いします」

 心の内とは裏腹に、私の口からは自然と言葉がつづられていく。結局のところ、私は心の奥底では、一人暮らしに寂しさを感じていたのだ。一人寂しく静かに暮らすことが嫌だった。だから、平穏な日常を捨ててでも私は、彼女たちの提案を飲むことにした。

「よく言えました。後のことは任せて下さい。もちろん、先生にも柚子さんにも、妹さん家族にも迷惑をおかけしないことを約束します」

「ありがとう、先生」


 私の選択が間違っていなかったかどうかは、未だにわからない。しかし、彼女たちのことを嫌いではないし、むしろぐいぐい責められることに、自分が愛されているなと浮かれてしまう。そんな軽い女なのだと改めて自覚させられた。
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