ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち

折原さゆみ

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「どうぞ」

「お前、オレとの間に子供ができたことを隠していたらしいな」

 男の目の前にお茶が入った湯呑みをおくが、それには目もくれず、男はそのまま会話を続ける。自分の分のお茶も机に置き、椅子に座って話を聞く態勢を整える。温かいお茶を口に含み、返答する。

「そのことについては、神永さんに迷惑をかけたくはなかったし、それを後悔したことはありません」

「なぜ、子供をおろさなかった?」


「おろした方があなたには都合が良かったからですか?まあ、そうですよね。だってその当時はREONAさんも」

「お前のせいだ!」

「ひっ」

 いったい、何が男の怒りを爆発させたのだろうか。私の家に上がってから、一人称が普段は使わない「オレ」になっていたが、話している様子からまだ理性が残っていた。

しかし、今、私を見つめる目は怒りに満ちていた。バンとリビングのテーブルを勢いよくたたいた男は、さらに言葉を続けて私を追い詰める。

「お前のせいで、あの女に別れを切り出された。お前さえ子供をおろしていれば、こんなことにはならなかった。どうしてくれる?」

 どうしてくれると問われても、私にはどうしようもない問題だ。

「だが、子供のことは別に今となってはどうでもいい。お前、子供を妹に預けているんだってな。懸命な判断だ」

「そんな話を私にして、何が目的ですか?神永さんがREONAさんと離婚して、私と結婚してくれるとでもいうのですか?」

 自分で発した言葉だというのに、吐き気がする。こんなクズ男、昔の何も知らないきれいな私だったらいざ知らず、年を取っていろいろ学習した私が結婚などするはずがない。これは単なる上辺だけの言葉であり、男を挑発させる言葉だ。


「ほう、お前はまだオレのことが好きということか。確かお前は、オレの大ファンだと言っていたからな。そうかそうか」

 この男は実は相当なバカ男なのだろうか。自分にどれだけ自信があるのか知らないが、相当うぬぼれている。ナルシストとはこういう奴を指すのだと、実地で初めて知った。

「その回答は、私と結婚してくれるということですか?」


「どうだろうな。それはお前次第だな。お前と結婚するためには、あの女と離婚しなくてはいけないのは、お前もわかっているはずだ」

「REONAさんと離婚したいですか?」

「先ほどから質問ばかりしているな」

「結婚相手のことをしっかりと調べたいと思うのは当然です。それが既婚者なら、離婚しているかどうかも重要な問題です。そうでもないと」

「そうでもないと、どうなる?不倫になるとでもいうのか」

「そうだとしたら、離婚をしてくれるんですか?」

「お前に指図されるいわれはないな。お前ら女は、オレら男の言いなりになっていればいい。大体、お前は15年前から気に入らなかった。まあ、優しい言葉で誘ったら、すぐにころりと騙されたから、オレはお前をただの女だと認識できた。それなのに」

 ここで男は言葉を止めて、私を見つめてくる。じっと見つめられた私も負けじとにらみ返そうとしたが、失敗に終わった。イケメン耐性がないので、見つめ続けていたら自然消滅してしまいそうだった。すぐに目をそらし、別のことを考える。そろそろ、彼女を呼んでもいいころだろうか。

「まったく、嫌になる。こんな女のどこがいいのか……。あいつも……」

 私が目をそらして別のことを考え始めても、男は特に気にすることなく、途中で止めた言葉の続きを口にする。最後の方はぼそぼそと独り言のようにつぶやいているので、何を言っているのかわからなかった。


 よくわからない言葉をつぶやく男を無視して、ポケットに忍ばせていたスマホをゆっくりとテーブルに置く。机に置かれたスマホに目を向けた男に、にっこりと微笑みかけた。

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