43 / 62
③
しおりを挟む
「あら、タイミングがいいわね。ちょうど柚子が出る組が始まったわ」
ここから抜け出すタイミングを失くしてしまった。まさか、ここで彼らにまた会うとは最悪だ。柚子の応援はもちろんしたかったが、彼らに再び会いたくはなかった。
柚子の応援をしたいという気持ちは、翔琉君の両親の再登場により失われていく。柚子には悪いが、彼女の応援をせずに、今すぐ家に帰りたくなった。
しかし、深波や翔琉君に応援していけばという言葉を思い出す。彼らは私の姿を見て嬉しそうに微笑んでいた。そんな彼らを裏切ってもいいものだろうか。
抜け出すタイミングは逃したが、そもそも今日の本来の目的は、柚子たちの応援がメインで、それに翔琉君の両親との話し合いが含まれていた。そう思うことにして、私はそのままこの場に残り、柚子の応援に専念することにした。
「ゆずー!」
柚子の方も、翔琉君に負けず劣らず運動神経はいいようだった。網をくぐり、袋を足に入れて飛び跳ね、どんどん他の競技者との距離を離していく。このままいけば、ぶっちぎりの一位を取りそうだ。
思わず、周りの応援も気にせず、大声で彼女のことを呼んでしまう。自分の娘とは世間には言えないけれど、彼女は私の娘であることに変わりはない。そんな彼女が一生懸命競技に取り組む姿に感動してしまった。
私の娘はそのまま一位でゴールした。私の声は聞こえただろうか。聞こえなくてもいい。今日はとてもいいものを見せてもらった。これで、心置きなく家に帰ることができる。今度こそ家に帰ることができると、校庭に背を向けたが、まだまだ私は高校から出られないらしい。
「あ、あの先生、その」
「いやいや、柚子はすごいですね。ああ、翔琉君もすごかったですよ。ああああ、急に具合が悪くなってきました。よくなったと思ったのですが、これはもう、おとなしく家に帰るしかありませんね。ほら、ちょうど昼休憩になりますよ、翔琉君たちは親子水入らず、ゆっくりと昼食を食べたらどうですか?柚子も深波と一緒にお弁当を食べるといいよ」
REONAさんの申し訳なさそうな声にひるんでいてはいけない。私は何とか家に帰る言い訳を早口で話しながら、一歩一歩校庭から距離を取っていく。彼らの後ろには競技を終えた柚子が、私たちの方に向かって歩いてきていた。
「ああ、思い出しました。具合が悪いというのは本当ですけど、今日は担当者さんと打ち合わせしなくてはいけない用事もありました。あああああ、電話もかかってきていました。全く、編集者さんは。ということで皆さん、今日はこれにて失礼させていただきます!」
編集者の加藤さんには悪いが、彼女のせいにして、私はその場にいる彼らの反応をうかがうことなく、彼らを背に一気に走り出す。追いかけてきたら、追い付かれてしまうほどののろまな走りだと自覚しているが、それでも重たい足を懸命に動かして、必死に校門に向かって走った。
校門を抜けて、駅まで何とか走り続けていたが、後ろから誰かが追ってくる気配はない。駅までは歩いて10分ほどかかる。そこを走ってきたのだから、改札を抜けて駅のホームに着くころには、身体中から汗が吹き出し、来ていた服がびっしょりと濡れてしまった。息も切れ切れで、はたからみたら、変なおばさんにしか見えないだろう。駅の構内掲示板を見ると、次の電車は15分後に来るらしい。
「はああ。ちょっと、ベンチに座って休もう」
私はそのままベンチに座って息を整え、電車がやってくるとそのままそれに乗って、家に帰った。
家に帰った私はすぐに、汗でぬれた身体をさっぱりさせるために、シャワーを浴びることにした。シャワーを浴びている最中に、改めて今日のことを振り返るが、どうにも身体的にも、精神的にも限界だったので、頭の中に靄がかかり、私の脳みそは考えることを拒否していた。
「今日はもう、休もう。うん、いったん寝よう」
ようやく身体がさっぱりした私は、カバンからスマホを取り出したが、画面を見る気力は湧かず、そのままベッドに倒れこむ。そしてそのまま、夢も見ることなく、夕方までぐっすりと寝てしまった。
ここから抜け出すタイミングを失くしてしまった。まさか、ここで彼らにまた会うとは最悪だ。柚子の応援はもちろんしたかったが、彼らに再び会いたくはなかった。
柚子の応援をしたいという気持ちは、翔琉君の両親の再登場により失われていく。柚子には悪いが、彼女の応援をせずに、今すぐ家に帰りたくなった。
しかし、深波や翔琉君に応援していけばという言葉を思い出す。彼らは私の姿を見て嬉しそうに微笑んでいた。そんな彼らを裏切ってもいいものだろうか。
抜け出すタイミングは逃したが、そもそも今日の本来の目的は、柚子たちの応援がメインで、それに翔琉君の両親との話し合いが含まれていた。そう思うことにして、私はそのままこの場に残り、柚子の応援に専念することにした。
「ゆずー!」
柚子の方も、翔琉君に負けず劣らず運動神経はいいようだった。網をくぐり、袋を足に入れて飛び跳ね、どんどん他の競技者との距離を離していく。このままいけば、ぶっちぎりの一位を取りそうだ。
思わず、周りの応援も気にせず、大声で彼女のことを呼んでしまう。自分の娘とは世間には言えないけれど、彼女は私の娘であることに変わりはない。そんな彼女が一生懸命競技に取り組む姿に感動してしまった。
私の娘はそのまま一位でゴールした。私の声は聞こえただろうか。聞こえなくてもいい。今日はとてもいいものを見せてもらった。これで、心置きなく家に帰ることができる。今度こそ家に帰ることができると、校庭に背を向けたが、まだまだ私は高校から出られないらしい。
「あ、あの先生、その」
「いやいや、柚子はすごいですね。ああ、翔琉君もすごかったですよ。ああああ、急に具合が悪くなってきました。よくなったと思ったのですが、これはもう、おとなしく家に帰るしかありませんね。ほら、ちょうど昼休憩になりますよ、翔琉君たちは親子水入らず、ゆっくりと昼食を食べたらどうですか?柚子も深波と一緒にお弁当を食べるといいよ」
REONAさんの申し訳なさそうな声にひるんでいてはいけない。私は何とか家に帰る言い訳を早口で話しながら、一歩一歩校庭から距離を取っていく。彼らの後ろには競技を終えた柚子が、私たちの方に向かって歩いてきていた。
「ああ、思い出しました。具合が悪いというのは本当ですけど、今日は担当者さんと打ち合わせしなくてはいけない用事もありました。あああああ、電話もかかってきていました。全く、編集者さんは。ということで皆さん、今日はこれにて失礼させていただきます!」
編集者の加藤さんには悪いが、彼女のせいにして、私はその場にいる彼らの反応をうかがうことなく、彼らを背に一気に走り出す。追いかけてきたら、追い付かれてしまうほどののろまな走りだと自覚しているが、それでも重たい足を懸命に動かして、必死に校門に向かって走った。
校門を抜けて、駅まで何とか走り続けていたが、後ろから誰かが追ってくる気配はない。駅までは歩いて10分ほどかかる。そこを走ってきたのだから、改札を抜けて駅のホームに着くころには、身体中から汗が吹き出し、来ていた服がびっしょりと濡れてしまった。息も切れ切れで、はたからみたら、変なおばさんにしか見えないだろう。駅の構内掲示板を見ると、次の電車は15分後に来るらしい。
「はああ。ちょっと、ベンチに座って休もう」
私はそのままベンチに座って息を整え、電車がやってくるとそのままそれに乗って、家に帰った。
家に帰った私はすぐに、汗でぬれた身体をさっぱりさせるために、シャワーを浴びることにした。シャワーを浴びている最中に、改めて今日のことを振り返るが、どうにも身体的にも、精神的にも限界だったので、頭の中に靄がかかり、私の脳みそは考えることを拒否していた。
「今日はもう、休もう。うん、いったん寝よう」
ようやく身体がさっぱりした私は、カバンからスマホを取り出したが、画面を見る気力は湧かず、そのままベッドに倒れこむ。そしてそのまま、夢も見ることなく、夕方までぐっすりと寝てしまった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる