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13体育祭当日①

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 そうと決まれば、次はどうやってあの男の不倫の証拠をつかむかということである。あの男は超有名声優で、私は作家ではあるが超人気作家というわけでもない。アニメ化も果たしたことはあっても、一部のファンにとどまっているだろう。

 そんな二人の接点は数少ない。数少ない私の作品のCMは、すでに打ち合わせの段階を終えて、私のあずかり知らぬところで進行されている。おそらく、この件であの男と会うことは難しいだろう。


「いよいよ、明日が柚子の体育祭本番か」

 柚子たちの学校では、10月の初めに体育祭を行うそうだ。平日に行われることになっている体育祭だが、保護者に関しては応援に行ってもいいことになっている。仕事を休んで自分の子供の雄姿をカメラやビデオに残したい保護者も多いと聞く。

「もしもし、深波?深波は明日、柚子たちの雄姿を見に行くの?」

 考えても何も良いアイデアが浮かばないので、とりあえず、妹に明日はどうするのか聞くことにした。とはいえ、電話で応援に行くと張り切っていたが念のための確認だ。

「当然、私は行くわよ。お姉ちゃんも、そんなに緊張しなくても、明日は柚子たちの応援をしつつ、REONAさんに話を聞くくらいの軽い気持ちでいったらいいんじゃないの?」

「そうは言っても、私はそこまで神経が太くない」

「いや、それは嘘。普通、自分を捨てた男の息子と奥さんを自分の家に招かないでしょう?その時点で、お姉ちゃんの神経は繊細じゃないと思うけど」

「ううん、そんなものかな」

 軽い気持ち。深波との電話で少しだけ糸口が見えた気がした。



 次の日は、雲一つない快晴だった。天気予報でも一日晴れと伝えていて、雨の心配はなさそうだ。柚子は晴れ女だなとしみじみしながら、彼女たちの応援をするため、出かける支度をしていた。

「ブーブー」

 化粧を終えて、着替えを済ませて家を出ようとしたところで、鞄に入れたスマホが振動する。ダイレクトメールか何かで、特に見る必要はないと思い、私はそのままスマホを確認することなく家を出た。

『メッセージだけ失礼します。REONAですが、私の夫が翔琉や柚子さんの体育祭の応援に行くことになりました。詳しいことは後で電話を入れます』

 それがREONAさんからの大事な連絡だということも知らず、私は柚子たちが通う高校に向かっていた。高校までは電車を使ったが、今日に限って、高校に着くまでスマホをいじらなかったことを後悔した。


 

「応援に来てくれたんですね。先生が来てくれてうれしいです。僕のこと、応援してくださいね」

「翔琉は沙頼さんとは赤の他人でしょう?ねえ、私の応援をしてね。私、これでも陸上部に入っていて、短距離が専門だからね!しっかりと活躍して見せるから!」

 高校に入るのは久しぶりだ。先生や学校関係者、保護者にでもならない限り、大人になって高校に赴く用事などまずない。学校までは電車と徒歩で行くことにした。深波は車で近くのスーパーの駐車場に停めると言っていて、一緒に乗っていかないかと誘われたが、丁重にお断りした。実は彼女、運転があまり上手ではない。それに、学校に着くまでに一人でいろいろ考えておきたかった。

 校門の前で学校を眺めながら、放心していると、後ろから次々と保護者らしき大人たちが校門を通り抜けていく。彼らの年齢は私と同じくらいか、私の年齢プラスマイナス5歳くらいか。彼らは皆、自分の子供たちの雄姿を見に来たのだ。その中に、祖父母でもない、保護者でもない私がこの場にいるのは、場違いに感じた。

 そんなときに、なぜか校門前に彼らが現れた。別に何時頃に学校に着くとも言っていないのに、あの男の血を引く二人の子供が、私の目の前に姿を見せた。二人は私が場違いであるということを微塵も思っていない様子で、私に校内に入るよう促した。私が動こうとしないことにしびれを切らしたのか、右腕には柚子、左腕には翔琉君が引っ付き、無理やり私を高校の中に引っ張っていく。

「ねえ、私はあんたたちの保護者でも何でもないでしょう?それなのに、どうして本当の保護者が来たみたいにうれしそうなの?あと、どうしてこんなところにい」

「あらあら、両手に華とはこのことかしら?アラフォーにもなって、高校生を両手に侍らすなんて、お姉ちゃん以外に見たことないわあ!」

「み、深波!それに後ろにいるのは」

「翔琉。女性の腕をそんな風に強く引っ張るものではありませんよ。先生、メールを見てくださらなかったんですね」

「オレは女性をそんな風にお前を育てた覚えはないぞ!」

 どうやら、今日の私が会わなくてはいけない人物が、体育祭が始まる前に勢ぞろいしてしまったらしい。このままでは体育祭を楽しむ余裕はなさそうだ。
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