ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち

折原さゆみ

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 翔琉君の両親、つまりあの男とREONAさんの浮気調査をしなくてはいけないが、そればかりに気を取られていてはいけない。自分の仕事のこともやっていかなければならない。彼らのことを考えつつも、私は仕事の方も通常通りにこなしていた。

 柚子が突然、私の家に押し掛けてきた日、彼女が私との関係を知ったきっかけなどは、本人から聞くことは叶わなかった。いきなり私との関係を主張してきたくせに、どこで私のことを知りえたのかを話そうとしなかった。翔琉君経由だとは思うのだが、正確なところはわからない。

 それにしても、柚子と翔琉君はとうとう恋人同士になってしまったらしい。興奮して話している柚子は気づいているのかいないのか、私に言葉をぶつけている最中に、恋人から秘密を聞かされたと口にしていた。私の予想していたことが現実となってしまった。これから、私たちの関係はどうなってしまうのだろうか。




「CMの方ですが、とても良い出来になっていますよ。新刊の発売日前から、世間に放映されるみたいですので、楽しみにしていてくださいね」

 新刊の方は、無事出版される運びとなった。15年前の話の続巻ということで、昔の作風を壊さないように、それでいて、彼女たちの後世に生きる人たちを書くという難題だったが、思いのほか私の中にイメージが膨らみ、担当編集者とともに悩みつつも、楽しく執筆することができた。

「CMの件ですが、REONAさんと神永さんとは、先生は親しいんでしたよね?確か、この作品の前作で、彼らは先生のアニメ化作品に出演していたと」

「いきなりですね。一度、彼らとは仕事で付き合いがありましたので、まったくの赤の他人ということはありませんが、それに毛が生えたくらいですよ。この話は、加藤さんはすでに知っていたと思いますけど、それがどうかしましたか?」

 私は担当編集の加藤さんから、CMの完成の報告を聞くために、出版社に足を運んでいた。電話やメールでの報告でもいいのに、なぜか出版社に来て欲しいと言われたため、仕方なく出版社に出向いていた。出版社の応接間で私たちは話をしていた。

 CMの出来を聞いていたのだが、不意に彼女がにやにやと嫌な笑みを浮かべて、一つの質問をしてきた。まさか彼女に本当のことを話すわけにはいかないので、当たり障りのない返答をするが、すでにこの話は、彼女も知っている。わざわざ聞いてくる意味がわからない。

「えええ、そんなはずはないと思いますよ。少なくとも、彼らは先生が思っているより、親しくなれていたと思っているみたいですけど」

 意外そうな顔をされても、反応に困ってしまう。そして、さらに困るような言葉を続ける。

「特にREONAさんの方が先生に興味を示されていて。なんだか先生に相談があるみたいで、連絡先を教えて欲しいと言っていましたけど?先生方は連絡先を交換していらっしゃらないのですか?」

「いえ、先ほどもお話しした通り、仕事上の付き合いで何度か会う機会はありましたし、お話しすることもありましたが、ただそれだけです。連絡先を交換するほどの個人的なことはありません」

 いや、これは嘘だ。REONAさんに対しては、私はファンだったので、初対面の際にサインをねだっているし、彼に至っては、連絡先を交換はもちろん、男女の仲にまで発展している。

 とはいえ、それももう、15年も前の話で、あの後、柚子の妊娠が発覚してすぐにスマホの番号もメールアドレスも変更した。一人で彼女を育てるという決意を固めるためだ。最終的に妹の深波に頼ってしまったが、それでも自分一人の力で何とかしようと努力した。あの男の力は借りないと決めていた。

「そんなこと言っても、深刻そうな顔をしていたので、つい教えてしまいました。きっと、先生に連絡があると思いますから、連絡が来ても怒らないでくださいね、私が教えたことにしていいですから」

「はあ、ワカリマシタ。ですが、今後、人の個人情報を勝手に他人に教えないでくださいね」

 出版社から帰宅すると、どっと疲れが出てすぐにベッドに倒れこむ。スマホを確認しようかと思ったが、それすらも面倒で、ごろりと仰向けに転がって目を閉じると、すぐに眠気が襲う。私はそのまま意識を失うように眠ってしまった。
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