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「やっぱり、売れっ子の小説家はいい場所に住んでいるんだね」

 私がマンションの自分の部屋に翔琉君を招き入れると、彼はぼそりとつぶやいた。

「別に大したことないでしょ。それで、いったい私に何の用事があるのかな。それとも、両親が何か私について言っていた?」

 彼をリビングに案内し、イスに座るよう勧めると、おとなしく席に着く。ちらりと彼の様子をうかがうも、私の質問に答えず沈黙を保っている。仕方なく、飲み物でも出そうかとキッチンに向かう。


「どうぞ。まずは喉が渇いたでしょ」

「どうして、先生は僕のことを家に招いたの?僕が高校生だから、警戒しなくてもいいと思った?僕、もう立派な男だと思うけど」

彼の前に冷たい麦茶の入ったコップを置くと、急に不機嫌そうに言葉を吐きだした。これは、私が女として警戒しろと言われているのだろうか。そんなことを言われても、警戒する必要を感じない。翔琉君の正面のイスに腰かける、素直に自分が考えていることを伝えることにした。

「私に女性としての魅力があって、翔琉君は私を襲いたいとでも言いたいのかい?それとも、翔琉君は男子高校生で、だれかれ構わず発情する動物にでもなった?もし、そうだとするのなら、私はやめておいた方がいい。年齢も親子ほど離れているし、襲ったところで後悔する未来しか思いつかない」

「変な人だね、先生って。そもそも、僕みたいな男を家に上げて何もしない先生の方がどうかしているよ」

「私が年下の男子を襲う?それはないね。私はそういう、ふしだらなことで痛い目に遭っているから、二度とそんなことはしない。それで、翔琉君は私を襲いたい?私は襲われるために君を家に呼んだわけではないんだけど」

「はは」

 お互いの視線が合うと、なんだか面白くもないのに、笑えてしまう。ふふふと笑いがこみ上げてくると、なんだか今までの会話がどうでもよくなってくる。私の笑いが伝線したのか、翔琉君も今までの真面目な表情を崩し、年相応の子供っぽい表情で笑い出す。

 笑い顔を眺めながら、あの男の笑う姿を思い浮かべる。あまり、あの男と息子は似ていない気がした。あの男の笑い方はもっと、色気のある笑い方だったが、目の前の彼の息子の笑い方は、ただの男子高校生の素直な笑い方だった。まあ、あの男と出会った時には、男はすでに20歳を越えた大人だったので、高校生の頃の笑い方など想像するしかない。それでも、きっと、子供のような年相応の笑いにはならないだろうと予測できた。

「おかしいね。オレ、学校ではあんまり笑わないんだ。家でもそうだよ。それなのに、先生のどうでもいいこと聞いていたら、つい笑えてきた。それだけでも家に上がる価値があったよ」

「一人称がオレになっているよ。高校でうまくいっていないの?両親とも仲が悪いの?」

 翔琉君がそんなにも笑わない生活を送っていると知り、つい興味本位で質問してしまう。自分の質問に肯定されてしまったら、どうしようかということも考えていない、後先考えないぶしつけな質問である。口にしてから初めて気づいたが、すでに口から出てしまった言葉は戻せない。私はただ、彼の回答を待つだけである。

「いつもはオレって言っているけど、両親とか他人の前だと僕にしているよ。僕が笑わないことがそんなに不思議?僕に興味でも持ってくれた?」

「質問に返さないでくれる?まあ、興味を持ったと言えばそれまでだけど、なんだか、翔琉君を放っておけないからかな。どうにも、君の両親についていろいろ思うことがあるから余計に」

「本当!思うところって何?やっぱり、あいつらはやばい奴ってこと?」

「ずいぶんと食いつきがいいけど、もしそれが両親の侮辱とかだったらどうするの?」

 突然の食いつきぶりに驚くが、彼の方は気にしていないらしい。それどころか、私にとんでもない相談を持ち掛けてきた。
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