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「話は終わった?」
リビングのドア越しに深波の声が聞こえた。はっとしてスマホで時刻を確認すると、すでに柚子と二人きりになってから、30分以上が経過していた。柚子の本音を聞くことはできたが、肝心の対策が話し合えていない。それに彼女に助言もできていない。とはいえ、これ以上、私たちがリビングを占領していては深波たちが困ると思い、いったん、私は自分の家に帰ることにした。
「終わってはないけど、柚子から大体話は聞いた。いったん、家に帰るわ。自分の仕事のこともあるし、何より、あの男が私の作品のCMを務めることになったから、その対策もしなきゃだしね」
「うわ、そんな大事なことがあったのに、急に呼びだしてごめんね。でもさ、これっていい機会なのかもね。あの男のことは気になるとは思うけど、仕事は頑張ってね。また、何かあったら連絡する」
「うん」
ドア越しからの深波からの声に軽い口調で答えると、リビングに入っていいと判断したのか、ドアを開けて入って彼女が入ってきた。後ろには、深波の本当の息子たち、双子が立っていた。
「ねえ、沙頼さんはどうして、こんなにもうちの母親と親しいの?ていうか、どうしてこんなにも俺たち家族に介入しているの?」
「リン!」
柚子は私との会話が疲れたのか、放心状態でイスに座ったままだったが、そのままにすることにした。荷物を持ってリビングを出て玄関に向かうと、後ろから深波の実の息子に声をかけられた。双子の兄、凛だ。その声をたしなめるように、深波が大声を出すが、私は正直に答えることにした。先ほど答えられなかったことを口にする。
「あんたたちが愛おしいからだよ。私には結婚して家庭を持つことはできなかったから、なんだか羨ましくて、つい理想を求めて口を出してしまうんだ。もし、迷惑だと思うのなら、そうだな。君らも高校生になったから、そろそろ私も家族離れでもしよう。うん、これは神様がくれた良い機会かもしれない。うんうん」
「お義姉さん。僕は別に迷惑には思っていませんよ」
「お父さんの言う通り、リンが暴走しているだけ」
凛の言葉に義弟と双子の弟の玲が私を擁護してくれるが、凛はなおも言葉を続けた。
「レイ!でもさ、おかしいだろ。家族の問題に姉妹とは言え、ここまで介入するのは。もしかして」
「そこまでにしなさい!リン。お姉ちゃん、とりあえず、今日のところは呼びだしてお茶も出さずに悪いけど、帰ってもらえる?後日、お菓子でも持って家に伺わせてもらうね」
「お菓子はうれしい。じゃあ、私もいろいろ考えるから」
私は深波家族の視線を背中に受けながら、玄関を出た。玄関を出たら、深波が外まで見送りに来てくれた。
「ねえ、CMの話だけど、大丈夫なの?あの男が起用されるなんて。編集者さんはお姉ちゃんの秘密を知らないの?」
先ほどとは打って変わって、真剣な表情で私にCMの件を問い詰めてくる深波に、私は苦笑する。
「前の編集が異動になって、新しく私の編集になったから、あの男と私との関係を知らないんだよ。あの男の起用も、私が喜ぶと思って、頑張って交渉したらしいよ。まったく、無知っていうのは、時に残酷なことをするものだね」
「会って、大丈夫なの?ていうか、もしかして、もう」
「うん、そのまさか。打ち合わせに行ったら、いきなりそいつが現れた。しかも、隣に奥さんも連れて。相変わらず、図太い神経しているよね。普通、奥さんがいて、しかも彼女、その時すでに妊娠していたのに、他の女に手を出すなんてさ。そこで話が終わったならいいけど、15年ぶりに再会というときに、わざわざ夫婦同伴で、のこのこ私の前に現れるとか、ありえないでしょ」
つい、他人の玄関前だというのに、ぺらぺらと今日会ったことを話してしまう。玄関から深波以外が出てくる気配はなかった。
「それで、柚子の問題も、ここで一気に何とかしようと意気込んでいたわけか。具体的に彼らに何か復讐でもしたらどう?あの男に復讐する権利は、お姉ちゃんにはあると思うけど」
「ううん、それだけど。あの男に復讐して、ぼこぼこにしたい気持ちはもちろんあるよ。確かにそれはいいかもしれない。柚子から、あの男の息子の話は聞いているよね」
「うん」
「それだけど。ああ、でもこの話は長くなりそうだから、明日にでもしようかな。外に長くいても家族に怪しまれるでしょ」
「そうだね。わかった。家に着いたら連絡頂戴!」
今度こそ、私は家に帰ることにした。深波に別れの挨拶をすると、駅に向かって歩き出す。歩きながら、空を見上げると、雲っているのか星一つ見えない暗い夜空だった。星も月も見えない暗い空に、今日会ったことを思い出しながら歩いていると、憂鬱な気分が倍増してしまう。
「どうしたら、柚子のこと、あの男のことをうまく解決、ううん、私の中で折り合いをつけることができるんだろうか」
駅に着く直前、ロータリーを歩いていると、ぼすんと誰かにぶつかってしまう。考えごとをしているというほどでもなかったが、前を向いて歩きつつも、ぼうっと歩いていたのかもしれない。
「すいません。少し考え事をして、ぼうっと歩いていました」
「いえいえ、こちらこそ、後ろから歩いているあなたに気付かず、立ち止まっていて邪魔でしたよね」
「えええ!翔琉君。本物だよね」
「どうして僕の名前を」
今日は本当に、いろいろな人に出会う日となった。
リビングのドア越しに深波の声が聞こえた。はっとしてスマホで時刻を確認すると、すでに柚子と二人きりになってから、30分以上が経過していた。柚子の本音を聞くことはできたが、肝心の対策が話し合えていない。それに彼女に助言もできていない。とはいえ、これ以上、私たちがリビングを占領していては深波たちが困ると思い、いったん、私は自分の家に帰ることにした。
「終わってはないけど、柚子から大体話は聞いた。いったん、家に帰るわ。自分の仕事のこともあるし、何より、あの男が私の作品のCMを務めることになったから、その対策もしなきゃだしね」
「うわ、そんな大事なことがあったのに、急に呼びだしてごめんね。でもさ、これっていい機会なのかもね。あの男のことは気になるとは思うけど、仕事は頑張ってね。また、何かあったら連絡する」
「うん」
ドア越しからの深波からの声に軽い口調で答えると、リビングに入っていいと判断したのか、ドアを開けて入って彼女が入ってきた。後ろには、深波の本当の息子たち、双子が立っていた。
「ねえ、沙頼さんはどうして、こんなにもうちの母親と親しいの?ていうか、どうしてこんなにも俺たち家族に介入しているの?」
「リン!」
柚子は私との会話が疲れたのか、放心状態でイスに座ったままだったが、そのままにすることにした。荷物を持ってリビングを出て玄関に向かうと、後ろから深波の実の息子に声をかけられた。双子の兄、凛だ。その声をたしなめるように、深波が大声を出すが、私は正直に答えることにした。先ほど答えられなかったことを口にする。
「あんたたちが愛おしいからだよ。私には結婚して家庭を持つことはできなかったから、なんだか羨ましくて、つい理想を求めて口を出してしまうんだ。もし、迷惑だと思うのなら、そうだな。君らも高校生になったから、そろそろ私も家族離れでもしよう。うん、これは神様がくれた良い機会かもしれない。うんうん」
「お義姉さん。僕は別に迷惑には思っていませんよ」
「お父さんの言う通り、リンが暴走しているだけ」
凛の言葉に義弟と双子の弟の玲が私を擁護してくれるが、凛はなおも言葉を続けた。
「レイ!でもさ、おかしいだろ。家族の問題に姉妹とは言え、ここまで介入するのは。もしかして」
「そこまでにしなさい!リン。お姉ちゃん、とりあえず、今日のところは呼びだしてお茶も出さずに悪いけど、帰ってもらえる?後日、お菓子でも持って家に伺わせてもらうね」
「お菓子はうれしい。じゃあ、私もいろいろ考えるから」
私は深波家族の視線を背中に受けながら、玄関を出た。玄関を出たら、深波が外まで見送りに来てくれた。
「ねえ、CMの話だけど、大丈夫なの?あの男が起用されるなんて。編集者さんはお姉ちゃんの秘密を知らないの?」
先ほどとは打って変わって、真剣な表情で私にCMの件を問い詰めてくる深波に、私は苦笑する。
「前の編集が異動になって、新しく私の編集になったから、あの男と私との関係を知らないんだよ。あの男の起用も、私が喜ぶと思って、頑張って交渉したらしいよ。まったく、無知っていうのは、時に残酷なことをするものだね」
「会って、大丈夫なの?ていうか、もしかして、もう」
「うん、そのまさか。打ち合わせに行ったら、いきなりそいつが現れた。しかも、隣に奥さんも連れて。相変わらず、図太い神経しているよね。普通、奥さんがいて、しかも彼女、その時すでに妊娠していたのに、他の女に手を出すなんてさ。そこで話が終わったならいいけど、15年ぶりに再会というときに、わざわざ夫婦同伴で、のこのこ私の前に現れるとか、ありえないでしょ」
つい、他人の玄関前だというのに、ぺらぺらと今日会ったことを話してしまう。玄関から深波以外が出てくる気配はなかった。
「それで、柚子の問題も、ここで一気に何とかしようと意気込んでいたわけか。具体的に彼らに何か復讐でもしたらどう?あの男に復讐する権利は、お姉ちゃんにはあると思うけど」
「ううん、それだけど。あの男に復讐して、ぼこぼこにしたい気持ちはもちろんあるよ。確かにそれはいいかもしれない。柚子から、あの男の息子の話は聞いているよね」
「うん」
「それだけど。ああ、でもこの話は長くなりそうだから、明日にでもしようかな。外に長くいても家族に怪しまれるでしょ」
「そうだね。わかった。家に着いたら連絡頂戴!」
今度こそ、私は家に帰ることにした。深波に別れの挨拶をすると、駅に向かって歩き出す。歩きながら、空を見上げると、雲っているのか星一つ見えない暗い夜空だった。星も月も見えない暗い空に、今日会ったことを思い出しながら歩いていると、憂鬱な気分が倍増してしまう。
「どうしたら、柚子のこと、あの男のことをうまく解決、ううん、私の中で折り合いをつけることができるんだろうか」
駅に着く直前、ロータリーを歩いていると、ぼすんと誰かにぶつかってしまう。考えごとをしているというほどでもなかったが、前を向いて歩きつつも、ぼうっと歩いていたのかもしれない。
「すいません。少し考え事をして、ぼうっと歩いていました」
「いえいえ、こちらこそ、後ろから歩いているあなたに気付かず、立ち止まっていて邪魔でしたよね」
「えええ!翔琉君。本物だよね」
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