ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち

折原さゆみ

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「沙頼さんは、どうして小説家になろうと思ったの?」

 私と柚子は改めて机に向き直って座る。しばらく沈黙が続いたが、先に話題を振ってきたのは柚子だった。唐突な質問だったが、小説家として本を出版してからよく質問される内容だったので、特に考えることなく答えを口にした。

「私は昔からコミュ障なところがあって、将来、まともに働けないかなと思ったんだ。そこで思いついたのが、小説家になればいいという考えだった」

 幸い、昔から小説を書くことはやっていた。大学生時代も時間を見つけては小説を書いていた。大学3年生になり、周りが就職活動を始める中、私は就職活動になかなか真剣に打ち込めなかった。そして、大学4年生になり、周りがどんどん就職活動を終え、卒業後の進路を決めていく中、私はある決断をした。

「就職活動に身が入らなくて、それで小説賞に自分の作品を応募して小説家になれるなんて、そんな都合のいいことがあるんだね」

「まあ、こればっかりは運だよね。もちろん、就職活動はある程度はしていたんだけど、どれも面接で失敗して。小説コンテストに応募してそれで金賞を取れたのは、今思えば、とんでもなく幸運だったと思うよ」

 小説家になれば、多少のコミュ障でも何とかなるのではないかと考えた。前々から小説投稿サイトに小説を投稿していた。そこのサイトで行われたコンテストに本格的に応募しようと思い立った。ここで賞を取れたらいいなと思っていたが、その作品がまさか、将来、あんな展開を引き起こすとは思ってもみなかった。



「私は、そのおかげで今、この職業で、一人で生活を送ることができているから、小説家になれてよかったよ。結婚という一大イベントには乗ることができなかったけど、柚子や双子の近くで深波の子供たちを眺めてられて、自分の子供がいるようでうれしい」

 私の説明を柚子は黙って聞いている。柚子の質問に答えたのだから、今度は私が彼女に質問する番だ。

「柚子は、どうして深波が本当のお母さんじゃないって思ったの?深波と柚子は似ているでしょう?それに、深波は柚子のことを愛しているよ」

「知ってるよ。でも、でも、翔琉が」

「翔琉?柚子の片思い相手だよね。彼が何を」

「私のお母さんを侮辱した!」

 突然、翔琉という名前がでてきたが、彼がらみで下手な発言は、自らの秘密を暴露することになりかねない。慎重に言葉を続けると、堰を切ったように柚子が話し出す。

「翔琉が、沙頼さんの作品のファンだって話はして、両親もファンだから会いたいっていう話は沙頼さんにしたよね。そうしたら、お母さんが沙頼さんだったらいいなって話になったの」

「はあ」

「私もそれは思ったんだ。でも、沙頼さんは、お母さんみたいに家事はあまり得意じゃないし、ずぼらだし、子供の面倒なんて見られそうにないよって言ったの。そうしたら」

 ずいぶんとひどい言われようであるが、ここは反論する場面ではない。とりあえず、柚子の話を最後まで黙って聞くことにした。
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