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5不穏な気配①
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あれから、私は暇さえあれば、柚子から借りた写真を眺めている。渡してくれた写真には柚子はもちろん、柚子と今年1年を共にするクラスメイトが40人ほど映っていた。
「これが翔琉だよ。そして、これが私の担任。それから、お母さんが、これも一緒に見せた方がいいよって」
一枚は入学式のクラス写真、もう一枚は、深波が気を聞かせてくれたのか、あの男の妻である元アニソン歌手のREONAと一緒に、校門横の入学式の看板前で取られた翔琉君の写真だった。
「たまたま、翔琉たちの近くにいたのが私たちで、お母さんが彼らの写真を撮ったんだよ。それで、無理を言って写真をもらったんだって」
「私の妹、おそるべし……」
妹のおかげで、翔琉君のお母さんの今を知ることができた。彼女は息子の妊娠が確定すると、芸能界を引退すると発表した。そのため、今ではメディアで彼女を見かけることはない。写真の中のREONAさんは、実年齢よりもかなり若く見えた。さすが元芸能人と言えよう。その隣に映る翔琉君も、彼らの遺伝を受け継いでいた。写真の中のREONAさんの表情は作り物のような笑顔、息子もむっつりとしていて、どうにも仲が良くなさそうな雰囲気を醸し出していた。
桜は散りかけだったらしく、地面に桜の花びらが散乱していたが、それが春らしさを演出しているとも言えた。
「これって、どう考えても、何も起きないわけないよねえ?」
柚子や深波の言う通り、あの男の息子はイケメンだった。声は確認することはできないが、顔は父親だと言えるだろう。サラサラの色素の薄い焦げ茶色の髪に、ぱっちりとした二重、身長はそこまで高いとも言えなかったが、これから伸びるのだろう。母親の血もしっかりと受け継いでいて、意志の強そうな瞳がそっくりだった。ここまで似ているのなら、声は良いに決まっているし、歌もうまいに違いない。
写真を見ながら、そのたびに大きなため息がこぼれてしまう。悪く言えば、一夜の過ちでできた子供と、本妻の子供。父親と血のつながった兄妹を私は目の前で見ることになるのだ。もしかしたら、私の将来の旦那になりうる存在だった男の子供と会うのだ。気分が乗るわけがない。
話はそれだけでは終わらなかった。私の運命がどんどん悪い方向に転がっているように錯覚してしまう。
「私の叔母さんが小説家をしているって話になって、翔琉が沙頼さんの作品のファンだって教えてくれたの。そうしたら、翔琉の両親もファンなんだってさ。なんでも、沙頼さんのアニメ化もした作品の悪役をお父さんが、お母さんはOP(オープニング)を歌ったとか言っていたよ。そこで二人は知り合って愛を深めて、めでたく結婚という流れになったみたい」
「ああ、そういうこともあったねえ。もう、15年も前のことだから、すっかり忘れていたよ。彼らにも息子ができて、その息子が柚子と出会うなんて、人の縁とは面白いものだねえ」
「なんか、棒読みなんだけど、その時何かあったの?普通、そんな有名人二人と仕事をしたんなら、もっと嬉しそうにするでしょ」
私の遠い目をしながらの発言に、柚子が不思議そうに首をかしげている。確かに自分の作品がアニメ化されて、大物二人に作品に出てもらえるというのは、とてもうれしいものだ。その当時を嬉しそうに回想するのは普通だともいえる。
しかし、そんな嬉しそうに当時を懐かしむことができない事情が、私にはあるのだ。
「これが翔琉だよ。そして、これが私の担任。それから、お母さんが、これも一緒に見せた方がいいよって」
一枚は入学式のクラス写真、もう一枚は、深波が気を聞かせてくれたのか、あの男の妻である元アニソン歌手のREONAと一緒に、校門横の入学式の看板前で取られた翔琉君の写真だった。
「たまたま、翔琉たちの近くにいたのが私たちで、お母さんが彼らの写真を撮ったんだよ。それで、無理を言って写真をもらったんだって」
「私の妹、おそるべし……」
妹のおかげで、翔琉君のお母さんの今を知ることができた。彼女は息子の妊娠が確定すると、芸能界を引退すると発表した。そのため、今ではメディアで彼女を見かけることはない。写真の中のREONAさんは、実年齢よりもかなり若く見えた。さすが元芸能人と言えよう。その隣に映る翔琉君も、彼らの遺伝を受け継いでいた。写真の中のREONAさんの表情は作り物のような笑顔、息子もむっつりとしていて、どうにも仲が良くなさそうな雰囲気を醸し出していた。
桜は散りかけだったらしく、地面に桜の花びらが散乱していたが、それが春らしさを演出しているとも言えた。
「これって、どう考えても、何も起きないわけないよねえ?」
柚子や深波の言う通り、あの男の息子はイケメンだった。声は確認することはできないが、顔は父親だと言えるだろう。サラサラの色素の薄い焦げ茶色の髪に、ぱっちりとした二重、身長はそこまで高いとも言えなかったが、これから伸びるのだろう。母親の血もしっかりと受け継いでいて、意志の強そうな瞳がそっくりだった。ここまで似ているのなら、声は良いに決まっているし、歌もうまいに違いない。
写真を見ながら、そのたびに大きなため息がこぼれてしまう。悪く言えば、一夜の過ちでできた子供と、本妻の子供。父親と血のつながった兄妹を私は目の前で見ることになるのだ。もしかしたら、私の将来の旦那になりうる存在だった男の子供と会うのだ。気分が乗るわけがない。
話はそれだけでは終わらなかった。私の運命がどんどん悪い方向に転がっているように錯覚してしまう。
「私の叔母さんが小説家をしているって話になって、翔琉が沙頼さんの作品のファンだって教えてくれたの。そうしたら、翔琉の両親もファンなんだってさ。なんでも、沙頼さんのアニメ化もした作品の悪役をお父さんが、お母さんはOP(オープニング)を歌ったとか言っていたよ。そこで二人は知り合って愛を深めて、めでたく結婚という流れになったみたい」
「ああ、そういうこともあったねえ。もう、15年も前のことだから、すっかり忘れていたよ。彼らにも息子ができて、その息子が柚子と出会うなんて、人の縁とは面白いものだねえ」
「なんか、棒読みなんだけど、その時何かあったの?普通、そんな有名人二人と仕事をしたんなら、もっと嬉しそうにするでしょ」
私の遠い目をしながらの発言に、柚子が不思議そうに首をかしげている。確かに自分の作品がアニメ化されて、大物二人に作品に出てもらえるというのは、とてもうれしいものだ。その当時を嬉しそうに回想するのは普通だともいえる。
しかし、そんな嬉しそうに当時を懐かしむことができない事情が、私にはあるのだ。
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