ラノベ作家と有名声優が犯した一夜の過ち

折原さゆみ

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「お菓子を食べていく時間くらいはあります」

「ありがとう。どれを食べようか」

 予定はないとのことだったが、お菓子の効果はあったようだ。私とお菓子を食べながら話をしてくれる気になったようだ。

 机にもらったお菓子の箱を置くと、彼女の目は箱にくぎ付けとなった。今年、高校生になったと聞いていたが、やはり、若い子は甘いものに目がないらしい。かくいう私も若くはないが、甘いものは好きだ。

 担当編集の加藤さんは京都に旅行に行ってきたらしく、箱の中身は生八つ橋だった。味がいろいろあり、どれを食べようかと考えている間に、柚子は自分の食べたい味の袋を勝手に開け始めた。王道の抹茶を選んだようだ。

 私から一緒にお菓子を食べようと言った手前、勝手に開けたことを指摘することはしない。私も期間限定っぽい薄桃色の桜味の袋を開封して一緒に食べ始める。

しばらく二人で生八つ橋を味わい、無言の時間が続いた。



「今年から高校生になったんだよね。確か、市外の高校に電車通学だって深波から聞いたけど」

「そうです。お母さんが通っていた高校にしました」

「そっか。お母さんの通った高校ね」

 柚子が深波のことを「お母さん」と呼ぶたびに、胸がつきりと痛みを訴える。自分で決めたことなのに、どうにもいまだに傷がいえることはない。後悔はしていないが、どうにもやるせない気持ちになってしまう。

もし、彼女を自分の娘として育てることができたなら。私、私の夫、彼女にとっては本当の父親と、三人で仲良く暮らせていただろうか。そんなことが頭をよぎること早15年。妹の娘、私の姪となる少女は、今年の春、高校生となった。

「早いものだねえ。もう、柚子も高校生か」

「なんだか、沙頼さんの言い方、おばあさんみたいですね」

「失礼な。私はあなたのお母さんと3歳しか変わらないんだけど」

 その後も、たわいない話、彼女の家族の日常、私の日常などを話しているうちに、目の前のお菓子がどんどん減っていく。生八つ橋の他には、硬いほうの八つ橋にかもサブレ、チョコやクッキーなどが置かれていた。お菓子を食べ終わる頃合いで、柚子の方から別れを切り出してきた。

「ごちそうさまでした。私たちの家族の分はどれですか?」

「深波たちの分はこっちに分けてあるよ。柚子たちとおいしくいただきましたって、加藤さんにお礼を言っておくね」

「私たち家族の分も感謝していましたと伝えてください。ありがとうございました」

 もう、彼女を引き留めるすべは持っていない。今度こそ、素直に送り出すことにした。

「じゃあね。高校生活頑張ってね」

「はい。沙頼さんもお仕事頑張ってください」
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