21 / 47
19新学期の前に
しおりを挟む
新学期を明日に控え、双子は母親がいる家に戻っていた。母親がミツキを自分の夫の偽物だと勘違いして、包丁で刺そうとした日から、一週間が経過していた。あの日、逃げた先で結城彰人と出会い、双子は決意を新たにしていた。
「俺は、お前たちが憎い。俺たちの家庭を崩壊させた女の息子だ。でも、崩壊させたのはお前たちの母親であって、ヒナタやミツキじゃない。そう、オレは、お前たち双子はあの女の二人の息子だ。」
結局、あの日は彰人の好意に甘えて、双子は彰人の部屋に泊まらせてもらった。彰人は、自分の思いを双子に包み隠さずに話すことにした。それを聞いて、彰人が自分たちを双子と認識していることがわかった。それだけで、今の双子にとって、彰人は信用できる人物だった。
「そういえば、僕たちを間違えなかったのは、彰人さんが初めてだよな。」
「そうそう。あいつ、おれたちのこと、一度だって間違えたことがないよな。ある意味、恐ろしい奴。」
「夏休みが始まるまではここに居てもいいぞ。」
泊めてもらった次の日、彰人は双子を心配して、夏休みまでの残りの一週間も自分の部屋に泊まっていかないかと双子に提案した。双子は彰人の好意を断った。
再び母親の居る家に戻った双子は、また、母親が包丁を持って現れたらと不安で仕方がなかったが、それでも、自分の家に戻ることに決めていた。
改めて、自分の家の前までやってきた双子は、インターホンを鳴らす前に、祖父からもらった電話で、家に連絡することにした。
「もしもし。やっと帰ってきたのね。今までどこに行っていたの。」
電話がつながってすぐに、母親は相手がだれかわかったように話し出す。やはり、彼女は、双子が祖父から渡された携帯電話の番号を知っていたのだ。予想できたこととは言え、改めて、母親の狂気に触れた気がした。
「もしもし、かあさん。僕、ヒナタだけど、もうすぐ新学期が始まるから、そろそろ家に戻った方がいいかと思って。」
「もしもし、ミツキだけど、おれたち、宿題とかしっかりやったから、家に入れてくれれば母さんの家事の負担を減らせると思うよ。」
電話はつながったが、母親の気分次第で、いつ通話が切られてもおかしくない状況だ。双子はまず、電話で、自分たちが実の息子であることをはっきりとさせようと考えていた。
「ふうん。匠さんったら、今度は私の息子になりきるつもりね。気が早いんだから。仕方ない。それで、二人なのは、どうしてかしら。」
どうやら、うまく食いついたようだ。いまだに父親と思い込んでいるようだが、この際、目をつむることにする。とりあえず、自分たちが双子で、中学生だと認識してくれればいい。
「双子の設定なんだ。ほら、母さん、いやあずさは、子供は二人くらい欲しいと言っていただろう。双子なら、一気にその願いをかなえられるだろう。」
「なるほど。それはいい考えね。確かに私は、子供は二人ほど欲しいと思っていたわ。匠さんは何でもお見通しね。ということは、匠は今、二人で一つということよね。」
「そ、そうだよ。だから、一人をひどい目にあわせたり、差別したりしたら、オレはこの世から消えてしまうからね。」
「そうなのね。わかった。外は暑いから、いったん中に入って、詳しい話を聞きましょう。」
双子は必死に会話をつなげていた。そして、無事に双子は家に入れてもらえることになった。
家に入って、双子は異臭に顔をしかめた。廊下には埃がたまり、うっすらと積もっていた。リビングに向かうと、そこには、空き缶や食べ終わった弁当の容器が散乱していた。空き缶をよく見ると、ほとんどがアルコールだった。
「ごめんなさいね。あなたがいなくて、私、寂しくて仕方なくて。そういえば、匠さんって、今は呼ばない方がいいのかしら。」
「そうだね。僕はヒナタ。」
「俺はミツキ。」
双子は部屋の状況を見て、心が痛んだ。それでも、怒りを抑えることはできない。最愛の夫が亡くなって、悲しいのは理解できる。理解はできるが、そこから目を背けて、現実逃避を決めるのはいかがなものか。息子もいるというのに、一人現実逃避を決め込んでいる。さらには、自分たち息子に父親の姿を見ている。
「わかった。でも、似すぎていて、どちらがどちらかわからないから。何か目印でも欲しいところね。」
ヒナタとミツキは顔を見合わせる。あたりを見渡し、何か身につけられるものはないかと探していると、床に赤いリボンが落ちていた。とっさにそれを拾い、ヒナタは右の手首に巻き付ける。
「この赤いリボンを手首にしているのが、兄のヒナタ。」
「じゃ、じゃあ何もつけていなくて、メガネをかけているのが、弟のミツキだ。」
ヒナタの提案に慌てて、ミツキも近くにあったメガネを装着する。それは、父、匠が愛用していたメガネだった。どうして、この場にあるのかわからなかったが、これで目印になるだろう。
母親の顔をうかがうと、母親はなぜか涙を流していた。
「ああ、やっぱり、匠さんね。でも、今は息子だったわ。わかった。赤いリボンとメガネね。覚えたわ。」
双子は安堵した。まずは、この家で双子として生活はできるようにした。残る課題は山済みだが、一つずつ地道に解決していけば、何とかなりそうだと双子は思っていた。
「俺は、お前たちが憎い。俺たちの家庭を崩壊させた女の息子だ。でも、崩壊させたのはお前たちの母親であって、ヒナタやミツキじゃない。そう、オレは、お前たち双子はあの女の二人の息子だ。」
結局、あの日は彰人の好意に甘えて、双子は彰人の部屋に泊まらせてもらった。彰人は、自分の思いを双子に包み隠さずに話すことにした。それを聞いて、彰人が自分たちを双子と認識していることがわかった。それだけで、今の双子にとって、彰人は信用できる人物だった。
「そういえば、僕たちを間違えなかったのは、彰人さんが初めてだよな。」
「そうそう。あいつ、おれたちのこと、一度だって間違えたことがないよな。ある意味、恐ろしい奴。」
「夏休みが始まるまではここに居てもいいぞ。」
泊めてもらった次の日、彰人は双子を心配して、夏休みまでの残りの一週間も自分の部屋に泊まっていかないかと双子に提案した。双子は彰人の好意を断った。
再び母親の居る家に戻った双子は、また、母親が包丁を持って現れたらと不安で仕方がなかったが、それでも、自分の家に戻ることに決めていた。
改めて、自分の家の前までやってきた双子は、インターホンを鳴らす前に、祖父からもらった電話で、家に連絡することにした。
「もしもし。やっと帰ってきたのね。今までどこに行っていたの。」
電話がつながってすぐに、母親は相手がだれかわかったように話し出す。やはり、彼女は、双子が祖父から渡された携帯電話の番号を知っていたのだ。予想できたこととは言え、改めて、母親の狂気に触れた気がした。
「もしもし、かあさん。僕、ヒナタだけど、もうすぐ新学期が始まるから、そろそろ家に戻った方がいいかと思って。」
「もしもし、ミツキだけど、おれたち、宿題とかしっかりやったから、家に入れてくれれば母さんの家事の負担を減らせると思うよ。」
電話はつながったが、母親の気分次第で、いつ通話が切られてもおかしくない状況だ。双子はまず、電話で、自分たちが実の息子であることをはっきりとさせようと考えていた。
「ふうん。匠さんったら、今度は私の息子になりきるつもりね。気が早いんだから。仕方ない。それで、二人なのは、どうしてかしら。」
どうやら、うまく食いついたようだ。いまだに父親と思い込んでいるようだが、この際、目をつむることにする。とりあえず、自分たちが双子で、中学生だと認識してくれればいい。
「双子の設定なんだ。ほら、母さん、いやあずさは、子供は二人くらい欲しいと言っていただろう。双子なら、一気にその願いをかなえられるだろう。」
「なるほど。それはいい考えね。確かに私は、子供は二人ほど欲しいと思っていたわ。匠さんは何でもお見通しね。ということは、匠は今、二人で一つということよね。」
「そ、そうだよ。だから、一人をひどい目にあわせたり、差別したりしたら、オレはこの世から消えてしまうからね。」
「そうなのね。わかった。外は暑いから、いったん中に入って、詳しい話を聞きましょう。」
双子は必死に会話をつなげていた。そして、無事に双子は家に入れてもらえることになった。
家に入って、双子は異臭に顔をしかめた。廊下には埃がたまり、うっすらと積もっていた。リビングに向かうと、そこには、空き缶や食べ終わった弁当の容器が散乱していた。空き缶をよく見ると、ほとんどがアルコールだった。
「ごめんなさいね。あなたがいなくて、私、寂しくて仕方なくて。そういえば、匠さんって、今は呼ばない方がいいのかしら。」
「そうだね。僕はヒナタ。」
「俺はミツキ。」
双子は部屋の状況を見て、心が痛んだ。それでも、怒りを抑えることはできない。最愛の夫が亡くなって、悲しいのは理解できる。理解はできるが、そこから目を背けて、現実逃避を決めるのはいかがなものか。息子もいるというのに、一人現実逃避を決め込んでいる。さらには、自分たち息子に父親の姿を見ている。
「わかった。でも、似すぎていて、どちらがどちらかわからないから。何か目印でも欲しいところね。」
ヒナタとミツキは顔を見合わせる。あたりを見渡し、何か身につけられるものはないかと探していると、床に赤いリボンが落ちていた。とっさにそれを拾い、ヒナタは右の手首に巻き付ける。
「この赤いリボンを手首にしているのが、兄のヒナタ。」
「じゃ、じゃあ何もつけていなくて、メガネをかけているのが、弟のミツキだ。」
ヒナタの提案に慌てて、ミツキも近くにあったメガネを装着する。それは、父、匠が愛用していたメガネだった。どうして、この場にあるのかわからなかったが、これで目印になるだろう。
母親の顔をうかがうと、母親はなぜか涙を流していた。
「ああ、やっぱり、匠さんね。でも、今は息子だったわ。わかった。赤いリボンとメガネね。覚えたわ。」
双子は安堵した。まずは、この家で双子として生活はできるようにした。残る課題は山済みだが、一つずつ地道に解決していけば、何とかなりそうだと双子は思っていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?
ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。
しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。
しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる