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やる気出ない日々に現れた、あなたは誰?
⑤
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カノンが呼び止めた時のように、ビクッと肩を上下させたタリサが振り返り、連られてカノンもそちらに目をやると、使用人の格好をした小柄な老婆がムスッとした顔で立っていた。
「もう休憩の時間は、とっくに終わっていますよ。
早く部屋に戻って、刺繍の続きをなさって下さい」
「は…はい」
鷹のように鋭い目で睨みつけ、タリサを震え上がらせるその顔には、何となく見覚えがある。
確か城一番の古株で、侍従長や使用人頭も敵わないという筆頭小間使いだとか……
それにしても随分、領主の家族に対して偉そうじゃなくて?
使用人の態度としてどうなのかと引っ掛かるカノンと違い、タリサは素直に従う。
ベンチに座るカノンにペコッと頭を下げると、離れの入り口へ向かって歩き出した。
「ねえ、明日もこの時間に会える?また一緒にお喋りしましょ」
足早に立ち去ろうとする背中に声をかけると、タリサは足を止めて振り向き、ちょっと笑って……ついでにごく小さく頷いたように、カノンには見えた……またすぐ歩き出す。
建物の陰に回ってタリサの姿が見えなくなると、さっそくその場に残っていた老婆がジロリと睨んできた。
「困りますね、子爵様」
低い声音に、猛禽めいた恐ろしげな表情。
並の小娘ならこの眼力に当てられればたちまち震えあがるのだろうが、生憎とカノンは並の小娘じゃない。
涼しい顔で受け流し、すっとぼける。
「困るって、どうして?年の近い女の子同士、楽しくお話してただけじゃない」
睨まれていてもまったく動じる様子のないカノンに、老婆はおや?と思ったようだが、気を取り直して眉を顰め、いっそう厳しい表情を作った。
「それが困ると言っているのです。あの方は本来、この城に居てはならぬお方……
王都からの大切なお客様と、関わり合いになるべきではございません」
ふん、要するに私生児と余所者、どっちもお荷物なんだから余計なことせず大人しくしてろってことか。
特に私は分不相応にも王妃の座に着いて国まで盗もうとした超危険人物。
不遇な私生児を唆して悪巧みでもされたら溜まったもんじゃないってね。
例えばあのおバカで小憎らしいマルグリットを追い落として、素直で可愛いタリサを令嬢に据えてやるとか……
うーん、面白そうだけど、そんなことしたら罪もないタリサが領民から憎まれちゃうだろうし、私への圧力ももっと大きくなって、今以上のド僻地へ飛ばされるか、今度こそ殺されるかもな。
そんなのは詰まんないからやめとこーっと。
……それはそれとして、この思い上がったバァさんには、一つお灸を据えてやんないとね。
「私、あなたの言ってること、よくわかんないわぁ」
不思議そうに小首を傾げるカノンに、老婆は蔑むような視線を送る。
察しの悪い娘だと馬鹿にしているのだろうが、続くカノンの言葉は決して愚かなものではなかった。
「私生児といったって、タリサはクローベル公からご子息の嫡出として認められてるし、苗字を名乗るのも許されてるんでしょ?
立派な領主の一族じゃない。どうしてお城に居ちゃいけないのかしら」
老婆はやれやれと言いたげな顔で、案の定「あの方の母上は……」などと呟いてきたので、すかさず毅然とした態度で「母親の話はしていない!!」と被せる。
「母親は旅芸人だか吟遊詩人だか知らないけど、タリサのご父君はクローベル家当主のご次男エミール様で、マルセル様やマルグリット嬢と同じクローベル公直系の孫よ。
たかが小間使いごときに、邪魔者扱いされる謂れはない!!」
「もう休憩の時間は、とっくに終わっていますよ。
早く部屋に戻って、刺繍の続きをなさって下さい」
「は…はい」
鷹のように鋭い目で睨みつけ、タリサを震え上がらせるその顔には、何となく見覚えがある。
確か城一番の古株で、侍従長や使用人頭も敵わないという筆頭小間使いだとか……
それにしても随分、領主の家族に対して偉そうじゃなくて?
使用人の態度としてどうなのかと引っ掛かるカノンと違い、タリサは素直に従う。
ベンチに座るカノンにペコッと頭を下げると、離れの入り口へ向かって歩き出した。
「ねえ、明日もこの時間に会える?また一緒にお喋りしましょ」
足早に立ち去ろうとする背中に声をかけると、タリサは足を止めて振り向き、ちょっと笑って……ついでにごく小さく頷いたように、カノンには見えた……またすぐ歩き出す。
建物の陰に回ってタリサの姿が見えなくなると、さっそくその場に残っていた老婆がジロリと睨んできた。
「困りますね、子爵様」
低い声音に、猛禽めいた恐ろしげな表情。
並の小娘ならこの眼力に当てられればたちまち震えあがるのだろうが、生憎とカノンは並の小娘じゃない。
涼しい顔で受け流し、すっとぼける。
「困るって、どうして?年の近い女の子同士、楽しくお話してただけじゃない」
睨まれていてもまったく動じる様子のないカノンに、老婆はおや?と思ったようだが、気を取り直して眉を顰め、いっそう厳しい表情を作った。
「それが困ると言っているのです。あの方は本来、この城に居てはならぬお方……
王都からの大切なお客様と、関わり合いになるべきではございません」
ふん、要するに私生児と余所者、どっちもお荷物なんだから余計なことせず大人しくしてろってことか。
特に私は分不相応にも王妃の座に着いて国まで盗もうとした超危険人物。
不遇な私生児を唆して悪巧みでもされたら溜まったもんじゃないってね。
例えばあのおバカで小憎らしいマルグリットを追い落として、素直で可愛いタリサを令嬢に据えてやるとか……
うーん、面白そうだけど、そんなことしたら罪もないタリサが領民から憎まれちゃうだろうし、私への圧力ももっと大きくなって、今以上のド僻地へ飛ばされるか、今度こそ殺されるかもな。
そんなのは詰まんないからやめとこーっと。
……それはそれとして、この思い上がったバァさんには、一つお灸を据えてやんないとね。
「私、あなたの言ってること、よくわかんないわぁ」
不思議そうに小首を傾げるカノンに、老婆は蔑むような視線を送る。
察しの悪い娘だと馬鹿にしているのだろうが、続くカノンの言葉は決して愚かなものではなかった。
「私生児といったって、タリサはクローベル公からご子息の嫡出として認められてるし、苗字を名乗るのも許されてるんでしょ?
立派な領主の一族じゃない。どうしてお城に居ちゃいけないのかしら」
老婆はやれやれと言いたげな顔で、案の定「あの方の母上は……」などと呟いてきたので、すかさず毅然とした態度で「母親の話はしていない!!」と被せる。
「母親は旅芸人だか吟遊詩人だか知らないけど、タリサのご父君はクローベル家当主のご次男エミール様で、マルセル様やマルグリット嬢と同じクローベル公直系の孫よ。
たかが小間使いごときに、邪魔者扱いされる謂れはない!!」
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