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私の生きる場所、私の空②
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「来たきたキターーーーー!!!」
雲の下からワラワラと涌いてきた黒い機体に、ただでさえ高くなってたテンションがとうとう振り切れた。
追従している小型機ちゃん達を手元のスイッチで対戦闘モードに変え、機銃レバーを握り締め、空中ファイト開始だ。
飛び回る無人敵機を追い、前に回り込んだり背後を取ったり側面にピッタリ着いたり。双つの小型機と共に様々な動きで翻弄しながら、隙を見て撃つ、撃つ、撃つ!!
アクロバティックな動きは得意だけどロブやウォルフほど射撃の精度が高くない(今後の課題だわ~)ので弾丸をバラ撒いてしまうけど、戦っているのは気持ちいい。生きてるって感じがする。
最後の一機を落とすまでに、五分も掛からなかったろう。レーダーが反応しなくなってもブンブン回転しながら飛んでいたら、通信が入った。
『ハミングバード、状況は?』
ウォルフに訊ねられ、我に返る。ハイになっちゃってたけど、これは訓練じゃない。ちゃんとしなきゃ。
「目視できる範囲内の敵機は撃墜し、レーダーにも反応は無し。全方位クリアです」
『了解。上々だな…キャタピラーはどうだ?』
『こっちもクリア。静かなもんだぜ』
『了解。目標は達成したようだが、規定通りこのまま周囲の警戒を続ける。異常が認められないようなら殲滅の報告を本部に―――』
お決まりになっている帰還前の確認中、ザ、と通信にノイズが入った。
偶にある電波の乱れかと思ったけど、どうも違うみたい。しばらく砂嵐のような音が続いた後、男とも女とも判別がつかない加工された音声が、スピーカーから流れてきた。
【ホ、ホ、ホ……ずいぶん荒っぽい戦いぶりをする輩じゃと思ったら、まだ子供のような連中じゃないかえ。その上、弁慶までおるとはのう……これは大収穫じゃ】
奇妙に間延びした、独特な喋り方に、ゾワッと背筋が寒くなる。人間ではなく虫けらに向かって話しかけているような口ぶりだ。
【さて、どうするかのう…ここで潰してやってもいいが、引きずり出して顔を見てやるのも一興か】
『おい、何だお前は。どこから電波が飛んで来てるんだ』
さすがに困惑しているウルフに応えたのはトキワだったが、これはあまり得策ではなかったろう。
『たぶん、撃墜した機体のうちどれかに高性能の通信機が搭載されていたんです。それがまだ生きていて、私達の会話を傍受しているかと』
彼女が話し出すなり、スピーカーの向こうにいる者の気配が変わった。
ひょっとしたらベンケイに乗っているのがトキワなのか確かめたくて、通信に紛れ込んできたのだろうか。
【おお、その声……やっぱりトキワかえ。弁慶を奪いどこに雲隠れしたかと思っていたら、蛮人どもに手を貸しているとは……この裏切り者、一族の恥晒しめ!!】
怒りを隠さない相手に、トキワも黙ってはいない。普段の穏やかな彼女からは想像できないような、激しい口調で言い返す。
『私は何も、恥じるようなことはしていません!!あなた方は私に、何一つ選ぶことを許してくれなかった……自分の人生を生きる為には、こうするしかなかっただけ』
【ホ、相変わらず生意気なことを言いよる娘よ。せっかくお上が后の座を用意するとまでおっしゃり求めてくだすったというに、何がそんなに不満なのじゃ】
『それが嫌だと言ってるんです!戻って入内し一生宮中に閉じ込められるくらいなら、ここで戦って死にます!!』
会話の意味は半分も解らなかったけれど、トキワの覚悟は伝わって来た。私も何か言ってやろうと思ったけど、ウォルフのほうが早かった。
『トキワ、お前は死なせない。誰だか知らないが、盗み聞きしているお前にも渡しはしない。
大切な俺の仲間に、いっさい手出しはさせないぞ』
静かな怒りを滲ませるウォルフに、拍手を送りたくなる。さすが、私の惚れた男。カッコいいじゃん!
顔の見えない相手はしばらく無言だったけれど、やがて高らかに笑い始めた。甲高い、実に不快な声で。
【ホ、ホ、ホ!!これは面白くなってきたわえ。決めた、お主らもう、長くは生きられぬと思え…トキワ、お前は必ず生け捕りにして、お上に捧げてくれるわ。その日を心して待っておれよ】
最後までぞわぞわする喋りを聞かせながら、通信は途切れた。電波を切ったのか、それとも通信機が壊れたのか。
定かではないけれど、確かなことは一つ。
「トキワ…安心して。私もウォルフと同じ気持ちよ。事情は知らないけれど、あなたをさっきの奴には渡さない。絶対に!!」
腹の底から湧いてくる怒りのまま宣言すると、意外にもロブが乗ってきた。さっきの奴の言い分には、思うところあったらしい。
『俺も同意見。ぜーんぜん解んないけどさ、女をモノ扱いする輩は、反吐が出るほど嫌いなんでね。次に会ったらぶっ飛ばしてやる』
『二人とも……ありがとう』
涙を堪えているのか、少し上擦った声でお礼を言ってくれたトキワ。
この子の為なら命を賭けようなんて決意してたら、ふっと笑う気配。たぶんウォルフだ、珍しい。
『意見は揃ったようだな。あの様子じゃ今後、敵がピンポイントで俺達を狙ってくる可能性があるかもしれない。
そうなっても必ず応戦できるよう、各自心構えと、より一層の鍛錬をするように』
いかにもリーダーらしい言葉に、身が引き締まる。三人揃って『了解!!』と答えて、まずは周囲確認のため巡回態勢に入る。
もしも転生できたら…って憧れてた世界とはだいぶ違うし、恋も命運もどうなるか解らなくて不安もある……けど、まあ楽しいからヨシってことにしましょ!!
これからの展開にワクワクしながら私ことアイリスは、〝ハミングバード〟の高度を上げ、大空に舞い上がった。
雲の下からワラワラと涌いてきた黒い機体に、ただでさえ高くなってたテンションがとうとう振り切れた。
追従している小型機ちゃん達を手元のスイッチで対戦闘モードに変え、機銃レバーを握り締め、空中ファイト開始だ。
飛び回る無人敵機を追い、前に回り込んだり背後を取ったり側面にピッタリ着いたり。双つの小型機と共に様々な動きで翻弄しながら、隙を見て撃つ、撃つ、撃つ!!
アクロバティックな動きは得意だけどロブやウォルフほど射撃の精度が高くない(今後の課題だわ~)ので弾丸をバラ撒いてしまうけど、戦っているのは気持ちいい。生きてるって感じがする。
最後の一機を落とすまでに、五分も掛からなかったろう。レーダーが反応しなくなってもブンブン回転しながら飛んでいたら、通信が入った。
『ハミングバード、状況は?』
ウォルフに訊ねられ、我に返る。ハイになっちゃってたけど、これは訓練じゃない。ちゃんとしなきゃ。
「目視できる範囲内の敵機は撃墜し、レーダーにも反応は無し。全方位クリアです」
『了解。上々だな…キャタピラーはどうだ?』
『こっちもクリア。静かなもんだぜ』
『了解。目標は達成したようだが、規定通りこのまま周囲の警戒を続ける。異常が認められないようなら殲滅の報告を本部に―――』
お決まりになっている帰還前の確認中、ザ、と通信にノイズが入った。
偶にある電波の乱れかと思ったけど、どうも違うみたい。しばらく砂嵐のような音が続いた後、男とも女とも判別がつかない加工された音声が、スピーカーから流れてきた。
【ホ、ホ、ホ……ずいぶん荒っぽい戦いぶりをする輩じゃと思ったら、まだ子供のような連中じゃないかえ。その上、弁慶までおるとはのう……これは大収穫じゃ】
奇妙に間延びした、独特な喋り方に、ゾワッと背筋が寒くなる。人間ではなく虫けらに向かって話しかけているような口ぶりだ。
【さて、どうするかのう…ここで潰してやってもいいが、引きずり出して顔を見てやるのも一興か】
『おい、何だお前は。どこから電波が飛んで来てるんだ』
さすがに困惑しているウルフに応えたのはトキワだったが、これはあまり得策ではなかったろう。
『たぶん、撃墜した機体のうちどれかに高性能の通信機が搭載されていたんです。それがまだ生きていて、私達の会話を傍受しているかと』
彼女が話し出すなり、スピーカーの向こうにいる者の気配が変わった。
ひょっとしたらベンケイに乗っているのがトキワなのか確かめたくて、通信に紛れ込んできたのだろうか。
【おお、その声……やっぱりトキワかえ。弁慶を奪いどこに雲隠れしたかと思っていたら、蛮人どもに手を貸しているとは……この裏切り者、一族の恥晒しめ!!】
怒りを隠さない相手に、トキワも黙ってはいない。普段の穏やかな彼女からは想像できないような、激しい口調で言い返す。
『私は何も、恥じるようなことはしていません!!あなた方は私に、何一つ選ぶことを許してくれなかった……自分の人生を生きる為には、こうするしかなかっただけ』
【ホ、相変わらず生意気なことを言いよる娘よ。せっかくお上が后の座を用意するとまでおっしゃり求めてくだすったというに、何がそんなに不満なのじゃ】
『それが嫌だと言ってるんです!戻って入内し一生宮中に閉じ込められるくらいなら、ここで戦って死にます!!』
会話の意味は半分も解らなかったけれど、トキワの覚悟は伝わって来た。私も何か言ってやろうと思ったけど、ウォルフのほうが早かった。
『トキワ、お前は死なせない。誰だか知らないが、盗み聞きしているお前にも渡しはしない。
大切な俺の仲間に、いっさい手出しはさせないぞ』
静かな怒りを滲ませるウォルフに、拍手を送りたくなる。さすが、私の惚れた男。カッコいいじゃん!
顔の見えない相手はしばらく無言だったけれど、やがて高らかに笑い始めた。甲高い、実に不快な声で。
【ホ、ホ、ホ!!これは面白くなってきたわえ。決めた、お主らもう、長くは生きられぬと思え…トキワ、お前は必ず生け捕りにして、お上に捧げてくれるわ。その日を心して待っておれよ】
最後までぞわぞわする喋りを聞かせながら、通信は途切れた。電波を切ったのか、それとも通信機が壊れたのか。
定かではないけれど、確かなことは一つ。
「トキワ…安心して。私もウォルフと同じ気持ちよ。事情は知らないけれど、あなたをさっきの奴には渡さない。絶対に!!」
腹の底から湧いてくる怒りのまま宣言すると、意外にもロブが乗ってきた。さっきの奴の言い分には、思うところあったらしい。
『俺も同意見。ぜーんぜん解んないけどさ、女をモノ扱いする輩は、反吐が出るほど嫌いなんでね。次に会ったらぶっ飛ばしてやる』
『二人とも……ありがとう』
涙を堪えているのか、少し上擦った声でお礼を言ってくれたトキワ。
この子の為なら命を賭けようなんて決意してたら、ふっと笑う気配。たぶんウォルフだ、珍しい。
『意見は揃ったようだな。あの様子じゃ今後、敵がピンポイントで俺達を狙ってくる可能性があるかもしれない。
そうなっても必ず応戦できるよう、各自心構えと、より一層の鍛錬をするように』
いかにもリーダーらしい言葉に、身が引き締まる。三人揃って『了解!!』と答えて、まずは周囲確認のため巡回態勢に入る。
もしも転生できたら…って憧れてた世界とはだいぶ違うし、恋も命運もどうなるか解らなくて不安もある……けど、まあ楽しいからヨシってことにしましょ!!
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