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リリー・アルシェのザック宅改良計画②
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ジェンナが言った通りリリーは嫁にいくのではなく、ザックがデッケンの家へ婿入りするのだから、彼は苗字と一緒に後継者としての権利と義務も継ぐことになる。
つまり、いずれ父が領主を引退したあかつきには、二人で故郷の城へ戻り、領主夫妻としてデッケン領を共同統治していかなければならない。
そうなるのが十年、いや二十年後なのか、それともあと数年しか残っていないのかは、神のみぞ知るところだが、どうせなら出来る限りあの家で、普通の夫婦として暮らしてみたい。
裕福な家に生まれ親元でぬくぬくと育ってきた小娘でしかない自分だが、ザックの妻として家を仕切り、持てる力を尽くして居心地のいい空間を作っていけば、“幸せな日々”というやつを手に入れられるのではないだろうか。
ザックと、使用人たちと、そしていつか生まれるはずの子供達と。
助け合い、笑い合い、時々は喧嘩したりなんかして、賑やかな家庭を築ければ、それ以上のものは要らない、なんて。
そんな風に思っていたりする。
子供…って。さすがに先走りすぎね。
お父様のこと責めてられないわ。
いろいろと考えすぎて恥ずかしくなり、気を紛らわせようとまだ寂しげにしているジェンナへ何か声をかけようとしたら、馬車が止まった。
そっとカーテンを持ち上げて外を確かめると、もう家の前に着いていた。
こうなると早く料理に取り掛かりたくなって、リリーは市で買った物が入っている籠を持ち上げる。
「みんなと離れて寂しいのは私も同じだけど、永遠のお別れってわけじゃないんだから、あまり落ち込まないでね、ジェンナ。
いずれはザック様と故郷へ戻ることになるだろうし、結婚した後もお父様の様子を見にお屋敷にはちょくちょく顔を出すから。
しばらくはお互いに心細いでしょうけど、時間が経てばきっと慣れていくはずよ。
さ、降りてお料理しましょ。今夜は腕を振るうから、厳しめに味見して感想ちょうだいね」
「……お嬢様の作ったものなら、何でも美味しいですよ。
厨房の料理番と比べても遜色ないくらい、お上手なんですもの」
元よりリリーを説得できるとは思っていなかったジェンナは、苦笑して残りの籠を持ち上げる。
二人が馬車から降りると、すぐにいつもの門番が入り口を開いてくれた。
「お帰りなせぇ、お嬢さん、ジェンナさん」
「お~、いろいろ買ってきたねぇ」
「ええ、今日の夕飯の材料なの。チキンを焼いてシチューを煮るから、二人もたくさん食べてね」
「ああ、いいね。そりゃあ楽しみだ」
いつも通り、家族同然の使用人たちと他愛ない会話をして、いつも通り庭を横切る。
玄関前のステップを昇り切り、そのまま館へ入って料理番から厨房を借りるのも、いつも通りと行きたかったのだけど、今日は違った。
「お、お待ちくだせえ!!殿様の許可なしに入ってはならねぇだ!!」
「うるさい!!たかが番兵どもが、この私に指図をするな!!」
何やら急に、背後が騒がしくなった。
訛っている方は門番の二人に違いないが、もう片方は……?
尊大な喋り方と硬質な声に、聞き覚えがある。
あるけど、まさか……
サッと機敏な動きで振り返ったリリーは、こちらに向かってくる二人の人物を見て驚いた。
慌てふためく門番を振り切り、つかつかと歩いてくるのは、かつて婚約者であったレナードと、その父である侯爵その人だった。
つまり、いずれ父が領主を引退したあかつきには、二人で故郷の城へ戻り、領主夫妻としてデッケン領を共同統治していかなければならない。
そうなるのが十年、いや二十年後なのか、それともあと数年しか残っていないのかは、神のみぞ知るところだが、どうせなら出来る限りあの家で、普通の夫婦として暮らしてみたい。
裕福な家に生まれ親元でぬくぬくと育ってきた小娘でしかない自分だが、ザックの妻として家を仕切り、持てる力を尽くして居心地のいい空間を作っていけば、“幸せな日々”というやつを手に入れられるのではないだろうか。
ザックと、使用人たちと、そしていつか生まれるはずの子供達と。
助け合い、笑い合い、時々は喧嘩したりなんかして、賑やかな家庭を築ければ、それ以上のものは要らない、なんて。
そんな風に思っていたりする。
子供…って。さすがに先走りすぎね。
お父様のこと責めてられないわ。
いろいろと考えすぎて恥ずかしくなり、気を紛らわせようとまだ寂しげにしているジェンナへ何か声をかけようとしたら、馬車が止まった。
そっとカーテンを持ち上げて外を確かめると、もう家の前に着いていた。
こうなると早く料理に取り掛かりたくなって、リリーは市で買った物が入っている籠を持ち上げる。
「みんなと離れて寂しいのは私も同じだけど、永遠のお別れってわけじゃないんだから、あまり落ち込まないでね、ジェンナ。
いずれはザック様と故郷へ戻ることになるだろうし、結婚した後もお父様の様子を見にお屋敷にはちょくちょく顔を出すから。
しばらくはお互いに心細いでしょうけど、時間が経てばきっと慣れていくはずよ。
さ、降りてお料理しましょ。今夜は腕を振るうから、厳しめに味見して感想ちょうだいね」
「……お嬢様の作ったものなら、何でも美味しいですよ。
厨房の料理番と比べても遜色ないくらい、お上手なんですもの」
元よりリリーを説得できるとは思っていなかったジェンナは、苦笑して残りの籠を持ち上げる。
二人が馬車から降りると、すぐにいつもの門番が入り口を開いてくれた。
「お帰りなせぇ、お嬢さん、ジェンナさん」
「お~、いろいろ買ってきたねぇ」
「ええ、今日の夕飯の材料なの。チキンを焼いてシチューを煮るから、二人もたくさん食べてね」
「ああ、いいね。そりゃあ楽しみだ」
いつも通り、家族同然の使用人たちと他愛ない会話をして、いつも通り庭を横切る。
玄関前のステップを昇り切り、そのまま館へ入って料理番から厨房を借りるのも、いつも通りと行きたかったのだけど、今日は違った。
「お、お待ちくだせえ!!殿様の許可なしに入ってはならねぇだ!!」
「うるさい!!たかが番兵どもが、この私に指図をするな!!」
何やら急に、背後が騒がしくなった。
訛っている方は門番の二人に違いないが、もう片方は……?
尊大な喋り方と硬質な声に、聞き覚えがある。
あるけど、まさか……
サッと機敏な動きで振り返ったリリーは、こちらに向かってくる二人の人物を見て驚いた。
慌てふためく門番を振り切り、つかつかと歩いてくるのは、かつて婚約者であったレナードと、その父である侯爵その人だった。
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