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辺境伯令嬢、ガーデンパーティーで侯爵令息から婚約破棄される

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「リリー・アルシェ嬢。たいへん申し訳ないが、君との婚約は今日をもって破棄とさせてもらう」



「はあ……」




おととい縁談がまとまったばかりの婚約者から、唐突に破棄宣言を食らい、リリー・アルシェ・デッケンは他に言葉が見つからなかった。

さっきまで将来の夫となる予定だった相手、レナードとは一週間くらい前に顔合わせしたばかりでよく知らないし、当然だけど愛情とか恋慕みたいな感情なんていっさい無いからさしてショックではないのだけど、今ここで言うことなのかしら、とは疑問に思う。

なにしろ真っ昼間の、王都のど真ん中に建てられた大きなお屋敷の庭で開かれている、貴族や名士が大勢集まった華やかなガーデンパーティーの最中である。

主催者である大富豪の小父おじ様は令息の突然の行動にオロオロしているし、招待客達も年配の紳士淑女は心配げにこちらを見守っているが、若い人達は興味津々といった感じで好奇の目を向けてくる。

……まあ、気持ちはわかるわ。こんな愉快な見世物、滅多にないものね。

「本当に君には申し訳ないが、僕には君を愛することはできない……僕の心はもう、永遠にこのミレーヌのものなんだ。
他の女性を生涯の伴侶にするなんてことは、絶対に出来はしない……」

一応、悲愴な表情を作って語る婚約者、いや元婚約者かしら?の横には、若く美しい赤毛の女性がぴったりと寄り添い、勝ち誇ったような笑みをこちらへ向けてくる。

あれが王都一の美女と噂の男爵令嬢、麗しのミレーヌ様ですか。確かに評判通り、美しい方。
顔立ちが整っているのはもちろん、露出度が高くぴったりした紫色のドレスが強調している体の線も、見事なこと。

胸は大きく腰は細く、メリハリのある体つきに、口元のほくろが何とも色っぽい。
金髪碧眼でハンサムなレナード様とは、とてもお似合いだわ。

それに比べて、私ときたら。

女にしてはやけに背は高いし、髪も目も地味な茶色で容姿も平々凡々。
おまけに痩せっぽちで胸なんか絶壁、ぺったんこ……あ、ダメ。落ち込んできたわ。

魅惑の男爵令嬢と比べたら貧弱でお色気ゼロな自分を嘆き俯いていると、“せっかく素敵な侯爵家ご令息と婚約できたのに、こんなのってあんまりだわ”と悲しんでいるとでも誤解したのか、レナードはどんどん饒舌になっていく。

「どうかわかってほしい、リリー・アルシェ。
しょせん君と僕は親同士が勝手に決めた婚約者なんだから、結婚したところでお互いに幸せになれるとは思えないんだ。
いくら大金を積まれても、僕の心は買えないとお父上に伝えてくれ。僕らの愛は決して、薄汚い金の力で引き裂けるようなものではないのだから……」

ミレーヌ嬢のくびれた腰を抱きながら真実の恋に溺れる自分に酔い、ベラベラと愛を語るレナードを見ていると、さすがに腹が立ってくる。

お金お金って、まるで我が家が大金ちらつかせてあなたとの結婚を買い取ろうとしたようなこと言ってますけど、先に申し込んできたのは侯爵家そちらじゃなくて?

確かに私の父、デッケン伯爵は東方の辺境伯に過ぎず、王都で代々国王家の側近を務めてきたあなたのご実家である侯爵家よりはずいぶん格下ですけれど、それでも一応貴族だし、領主ですの。

バカみたいにある広い土地を活かして、お祖父様の代から始めた果樹生産とお酒造りが当たって、こう言っちゃ何だけど、うなるほどお金もありますの。

一方であなたのご自慢の侯爵家は大した領地も家業もなく、貴族年金以外にはまともな収入もないのに家族みんな贅沢がやめられなくて、ただでさえ家計は火の車だっていうのにお父上の現侯爵様は、自称貴族の妙な外国人から持ちかけられた怪しすぎる儲け話にまんまと乗って、案の定騙され出資金だけ持ち逃げされて、多額の借金だけが残ったと聞いてますけど?

私との結婚は、いわば起死回生のラストチャンス。
美男と誉れ高くも七人兄弟の四男でしかないあなたを、大金持ちの辺境伯の一人娘である私に婿入りさせて、父から援助を受ければ借金も返せるし贅沢な生活も続けられる、と。
そういう目論みだったんじゃなくて?

うちの父は良く言えば豪快、悪く言えば能天気な性格だから

『そろそろお前の結婚相手を探さねえとな、って思ってたからちょうどいいや。
侯爵家なら家柄には申し分ないし、あの令息が婿にくれば顔のいい孫が生まれるだろ』

なんてお気楽な理由で縁談を受けちゃって。
私も特に好きな人とかいないし、お父様が賛成ならまあいいか、くらいの気持ちしか無かったから破棄でもいいのですけど、それにしてもこんな、大勢の野次馬がいる所でわざわざ晒し者にしなくても……
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