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ディルクは、中庭で座り込んでいた。
少し焦り過ぎた……アンジェリカに、嫌われたかも知れない。だが、どうしても抑えられなかった。
アルフィオに触れられたと考えただけで、怒りとも嫉妬ともいえる感情が湧き上がってきた。今も、苛々とする。……アルフィオが赦せない。
「あら、ディルク様。如何なさいましたの」
またか、とディルクは大きなため息を吐いた。意外と神経が図太いようだ。
「……シャルロッテ嬢、何故こちらに?」
「勿論、ディルク様のお姿が見えましたので、参りましたわ」
先程は、怯えた様子だった筈だ。だが、今のシャルロッテはいつも通りの様子で、笑みすら浮かべている。どういうつもりなのか、ディルクには全く理解出来ない。
「シャルロッテ嬢、この際ですのでハッキリ言わせて頂きます。僕は貴女のような女性は好まない。寧ろ嫌いだ」
八つ当たりだった。いやしかし、シャルロッテもアルフィオに加担しているかも知れない故、シャルロッテに対しても怒りはある。だが、少々言い過ぎか……もうどちらでもいい。ディルクは自暴自棄になっていた。
一瞬だけシャルロッテの笑顔が引き攣るが、直ぐに元の笑みに戻る。
「随分と、ハッキリと仰られるのですね」
「今までは、我慢していたんですよ。でも、僕はアンジェリカが好きなんです。彼女を妃にしたい、いや彼女しか妃にしたくない」
まるで幼子のような物言いに、シャルロッテは半ば呆れた。ここまでくると、シャルロッテもディルクに苛立ちを覚えてくる。
「全く相手にされてませんのに、妃にしたい?それは、ただの独り善がりですわ。……そもそも、私だって、ディルク様の妃になりたいと心から望んでなどございません!政略結婚などの話でなければ、誰がディルク様なんかと……あ」
そこまで話すと、シャルロッテは口を押さえた。かなり動揺しながら、視線を逸らしている。
「……貴女は本心では僕なんかと、結婚したくないと?」
「…………い、いえ、その」
「公爵家の為、か」
シャルロッテはディルクの問いには、答えなかった。だが、ディルクはそれを肯定と受け止めた。
その瞬間、ディルクは如何に自分が不甲斐ないか感じた。シャルロッテは、公爵家令嬢として自らに課せられた義務を果たそうと努力している。それに比べて、自分は……。
言葉がなかった。自分は王太子としての責務を果たしているのだろうか……。無論、仕事は確りとこなしている。だが、それだけだ。妃の事も、弟達の事もそうだ。妃はアンジェリカ1人にすると、勝手に決めた。弟達とは、国の為に良好な関係を築かなければならないが、現状は真逆だ。本来ならば兄として、王太子として、自分から歩み寄るべきだろう。だが努力すらしていない。
「私、ディルク様のそのような所嫌いではありません」
「シャルロッテ嬢……」
「私は、家の呪縛からは逃れられません。ですが、ディルク様は、これまでのしきたりや慣習を壊そうとなされていますでしょう?そんなディルク様は、嫌いではありません。寧ろ私
は好きですわ」
意外なシャルロッテの言葉に、ディルクは呆然とした。幼い頃から彼女を知っていた筈なのに、まるで初めて彼女と出会った様な不思議な感覚になる。
「ですが、ディルク様。私は、諦めません。必ずディルク様の妃になってみせます!だから、ディルク様も、諦めてはいけません」
矛盾していると、シャルロッテは笑った。……あの瞬間、ディルクが怖いと思った。まるで知らない人に見えた。そして、今目前の幼子の様なディルクの姿を見て思った。今までの彼とはまるで違う、本当の彼を垣間見た気がしたと。
そして、それを嬉しく感じる自分がいる。
シャルロッテは、これまでの義務的なディルクへの感情が、それとは違うモノに変わっていくのを感じた。これが、恋なのだろうか……。
「さあ、ディルク様、参りましょう。アンジェリカ様の元へ」
以前までは、公爵家の為にと王太子妃になりたかった。でも今は王太子妃ではなく、ディルクの妻になりたい……1人の女性として。
その一方で、ディルクにも諦めて欲しくない。彼にも幸せになる権利はある筈だ。
屈託のない笑顔を浮かべて、シャルロッテはディルクに手を差し出した。女性から男性に手を差し出すなどはしたない。だが、今はそんな事はどうでも良かった。
ディルクは呆気に取られたが、次の瞬間笑みを浮かべると、その手を取った。
少し焦り過ぎた……アンジェリカに、嫌われたかも知れない。だが、どうしても抑えられなかった。
アルフィオに触れられたと考えただけで、怒りとも嫉妬ともいえる感情が湧き上がってきた。今も、苛々とする。……アルフィオが赦せない。
「あら、ディルク様。如何なさいましたの」
またか、とディルクは大きなため息を吐いた。意外と神経が図太いようだ。
「……シャルロッテ嬢、何故こちらに?」
「勿論、ディルク様のお姿が見えましたので、参りましたわ」
先程は、怯えた様子だった筈だ。だが、今のシャルロッテはいつも通りの様子で、笑みすら浮かべている。どういうつもりなのか、ディルクには全く理解出来ない。
「シャルロッテ嬢、この際ですのでハッキリ言わせて頂きます。僕は貴女のような女性は好まない。寧ろ嫌いだ」
八つ当たりだった。いやしかし、シャルロッテもアルフィオに加担しているかも知れない故、シャルロッテに対しても怒りはある。だが、少々言い過ぎか……もうどちらでもいい。ディルクは自暴自棄になっていた。
一瞬だけシャルロッテの笑顔が引き攣るが、直ぐに元の笑みに戻る。
「随分と、ハッキリと仰られるのですね」
「今までは、我慢していたんですよ。でも、僕はアンジェリカが好きなんです。彼女を妃にしたい、いや彼女しか妃にしたくない」
まるで幼子のような物言いに、シャルロッテは半ば呆れた。ここまでくると、シャルロッテもディルクに苛立ちを覚えてくる。
「全く相手にされてませんのに、妃にしたい?それは、ただの独り善がりですわ。……そもそも、私だって、ディルク様の妃になりたいと心から望んでなどございません!政略結婚などの話でなければ、誰がディルク様なんかと……あ」
そこまで話すと、シャルロッテは口を押さえた。かなり動揺しながら、視線を逸らしている。
「……貴女は本心では僕なんかと、結婚したくないと?」
「…………い、いえ、その」
「公爵家の為、か」
シャルロッテはディルクの問いには、答えなかった。だが、ディルクはそれを肯定と受け止めた。
その瞬間、ディルクは如何に自分が不甲斐ないか感じた。シャルロッテは、公爵家令嬢として自らに課せられた義務を果たそうと努力している。それに比べて、自分は……。
言葉がなかった。自分は王太子としての責務を果たしているのだろうか……。無論、仕事は確りとこなしている。だが、それだけだ。妃の事も、弟達の事もそうだ。妃はアンジェリカ1人にすると、勝手に決めた。弟達とは、国の為に良好な関係を築かなければならないが、現状は真逆だ。本来ならば兄として、王太子として、自分から歩み寄るべきだろう。だが努力すらしていない。
「私、ディルク様のそのような所嫌いではありません」
「シャルロッテ嬢……」
「私は、家の呪縛からは逃れられません。ですが、ディルク様は、これまでのしきたりや慣習を壊そうとなされていますでしょう?そんなディルク様は、嫌いではありません。寧ろ私
は好きですわ」
意外なシャルロッテの言葉に、ディルクは呆然とした。幼い頃から彼女を知っていた筈なのに、まるで初めて彼女と出会った様な不思議な感覚になる。
「ですが、ディルク様。私は、諦めません。必ずディルク様の妃になってみせます!だから、ディルク様も、諦めてはいけません」
矛盾していると、シャルロッテは笑った。……あの瞬間、ディルクが怖いと思った。まるで知らない人に見えた。そして、今目前の幼子の様なディルクの姿を見て思った。今までの彼とはまるで違う、本当の彼を垣間見た気がしたと。
そして、それを嬉しく感じる自分がいる。
シャルロッテは、これまでの義務的なディルクへの感情が、それとは違うモノに変わっていくのを感じた。これが、恋なのだろうか……。
「さあ、ディルク様、参りましょう。アンジェリカ様の元へ」
以前までは、公爵家の為にと王太子妃になりたかった。でも今は王太子妃ではなく、ディルクの妻になりたい……1人の女性として。
その一方で、ディルクにも諦めて欲しくない。彼にも幸せになる権利はある筈だ。
屈託のない笑顔を浮かべて、シャルロッテはディルクに手を差し出した。女性から男性に手を差し出すなどはしたない。だが、今はそんな事はどうでも良かった。
ディルクは呆気に取られたが、次の瞬間笑みを浮かべると、その手を取った。
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