本日私は姉を卒業します!

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
13 / 27

12

しおりを挟む
「大丈夫ですか?」

アンジェリカは顔を上げ、声の主を確認した。そして制止する。まるで時が止まった様な感覚に陥った。

心臓が煩いくらい高鳴って、頭がぼうっとする。これは…何?

「どこか痛みますか?」

返事をしないアンジェリカに少年は心配そうな表情で覗き込んでくる。

「だ、大丈夫ですっ…」

アンジェリカは我に返り慌てて離れようとしたが、少年が離してくれない…。

「あ、あの。本当に大丈夫ですから、その」

恥ずかし過ぎて早く離れたい。きっと今自分の顔は真っ赤に染まっているだろう。

「顔が赤いですね…体調が優れないのでは」

「へ⁈」

少年は屈んでアンジェリカの額に自分の額をぴったりとくっ付けた。思わず声が上擦り変な声が出てしまう。

「やっぱり…かなり熱い。ダメですよ、こんな体調でで走り回っては」

注意するのはそこなのね…。なんだかこの感覚ロランに似てる気がする…。

「さぁ、此方へ。善は急げですよ」

アンジェリカが考える間も無く少年に抱きかかえられて連れて行かれた。アンジェリカは呆然としながらも未だに顔を赤らめていた。







「申し訳ございません…」

レネーは部屋に戻って来たディルクに深々と頭を下げた。アンジェリカが部屋を飛び出し、直ぐに後を追ったが思った以上に足が早かった…。

しかも門へ向かうかと思いきや、向かう方向が予想不可能な程にめちゃくちゃで途中で見失ってしまった。侍女達にも声を掛け城中探させたが何処にもいない。

念の為門番にも尋ねたが、見ていないと言う。常識的に考えればまだ城の中にいる筈だが、兎に角見当たらない。


「…はぁ。ロラン、君本当に余計な事を言ってくれたね」

ディルクは頭を抱える。そんなディルクを余所にロランもぐもぐと焼き菓子を頬張っていた。それは美味しそうに…。そんなロランの姿を見てディルクはため息しか出ない。

「別に隠していてもいつかはバレるんだから、隠す意味ないよ」

この弟は…。まるで悪びれる事もしない。…ロランの辞書に謝罪と言う文字はない。昔から謝っている姿を見た記憶がなかった。

「そうかも知れないけどね。誤解のない様に、折を見て僕から話すつもりだったんだよ」

当事者でない第3者から話を聞いて誤解をされたくなかった。折角どうにか丸め込んでアンジェリカをここまで連れて来て、1年という期間だけだがディルクの側にいるという事の約束も取り付けた。なのにこれでは台無しだ。

アンジェリカは恐らく城の何処に隠れている筈。門番からの証言では見かけていないと言う。ならば後は外へ出るには塀を越えるしかないが。この城の異様に高い塀を上って脱出するのは無理がある。

「はぁ…」

今侍女や兵達に城中を探させている。そう見つかるのに時間は要さないだろう。だが見つかってからが厄介だ。

今ディルクはアンジェリカからの信用が地に落ちているに違いない。彼女の中でのディルクは多分無類の女好きの節操のない最低な王太子、と言う風な評価だろう…。

1度失った信頼を回復させるのはかなり厳しい。相当な事がない限りは取り戻せないだろう。

やはりあの時ロランを部屋に残して置くべきではなかった。完全に自分の軽率さが招いた結果だ。甘かった…。

「ディルク様?何方へ…」

「僕も探して来るよ。彼女は僕の大切な女性ひとだからね、人任せにはしたくない」

意外なディルクの言葉にレネーは驚いた。あのどこまでも女性に無関心だったディルクが1人の女性の為に苦悩し、心配をしている。アンジェリカへのディルクの想いが本物なのだと感じせざるを得なかった。





しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。

銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」  私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。 「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」  とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。  なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。  え?どのくらいあるかって?  ──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。  とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。  しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。  将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。  どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。  私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?  あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 需要が有れば続きます。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~

サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――

婚約したら幼馴染から絶縁状が届きました。

黒蜜きな粉
恋愛
婚約が決まった翌日、登校してくると机の上に一通の手紙が置いてあった。 差出人は幼馴染。 手紙には絶縁状と書かれている。 手紙の内容は、婚約することを発表するまで自分に黙っていたから傷ついたというもの。 いや、幼馴染だからって何でもかんでも報告しませんよ。 そもそも幼馴染は親友って、そんなことはないと思うのだけど……? そのうち機嫌を直すだろうと思っていたら、嫌がらせがはじまってしまった。 しかも、婚約者や周囲の友人たちまで巻き込むから大変。 どうやら私の評判を落として婚約を破談にさせたいらしい。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

婚約破棄の裏事情

夕鈴
恋愛
王家のパーティで公爵令嬢カローナは第一王子から突然婚約破棄を告げられた。妃教育では王族の命令は絶対と教えられた。鉄壁の笑顔で訳のわからない言葉を聞き流し婚約破棄を受け入れ退場した。多忙な生活を送っていたカローナは憧れの怠惰な生活を送るため思考を巡らせた。

邪魔しないので、ほっておいてください。

りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。 お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。 義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。 実の娘よりもかわいがっているぐらいです。 幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。 でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。 階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。 悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。 それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

嫌われ令嬢は戦地に赴く

りまり
恋愛
 家族から疎まれて育ったレイラは家令やメイドにより淑女としてのマナーや一人立ちできるように剣術をならった。  あえて平民として騎士学校に通うようレイラはこの国の王子さまと仲良くなったのだが彼は姉の婚約者だったのだ。  

処理中です...