本日私は姉を卒業します!

秘密 (秘翠ミツキ)

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アンジェリカは揺れる馬車の中、ひたすらに窓の外の景色を眺めていた。アンジェリカが国外追放を受けてから数日が経った。



「お父様、お母様。今日までお世話になりました」

アンジェリカは両親にそう述べ頭を下げた。


「アンジェリカ…」

母が一言だけ私の名を呼んだ。たったそれだけ…それが最後に交わした言葉だ。両親は背を向ける私にそれ以上声を掛ける事はなかった。最後まで興味ないんだなと、可笑しくなる。

別に悲しくも寂しくもない。ケジメとして挨拶をしたに過ぎないのだから。







「退屈そうだね」

不意に声を掛けてきたのはディルクだった。アンジェリカの正面に腰掛け爽やかに笑いかけてくる。

「そうですね…こんなに長い時間馬車に揺られる事は今までなかったので。正直どう過ごして良いものか分かりかねます」

もう5日程こうして馬車に揺られ、何をするでもなく同じような景色ばかりを眺めている。こんなに長い間移動した経験がないアンジェリカはこの時間をどうやって過ごしたらいいのかと持て余していた。

アンジェリカは向かい側のディルクを見遣ると、彼は読書をしている。無論アンジェリカも字の読み書きは出来るし読書もする。

だがディルクが手にしている本の表紙を盗み見ると…かなり難しそうだ。暇潰しにでも借りて読んでみようかと思ったが…自分には理解出来そうにない。

「あぁ、アンジェリカも読んでみる?」

アンジェリカの視線を受け、ディルクは本を差し出す。

「い、いえ。私には少し難しいかと思いますので…」

経済、倫理、とかの文字が見えた。

「ディルク様は、勉強家なんですね」

「そうでもないよ。どちらかと言うと勉強家ではなく野心家の方が近いかな」

野心家…?それは一体どういった意味なのだろう。アンジェリカは意外な言葉に眉を潜める。

「まあ、僕の話は置いといて。アンジェリカ、君はこれからどうする?」

此処まで連れてきておいて今更どうするか問うディルクにアンジェリカは呆れた。

「どうとは…。私に決定権はありませんので」

アンジェリカは大袈裟にそっぽを向いた。その姿にディルクは笑う。

「アンジェリカ、そんなに拗ねないでよ」

「拗ねてなどいません」

「僕は無理強いは好きじゃない」

その言葉数日前のご自分に聞かせてあげて下さい!と言いたい。

国外追放を受けた日、国へ帰るディルクはアンジェリカを有無も言わせず一緒に馬車に乗せた。一見して優しそうに見えるのにかなり強引だった。人攫い一歩手前くらいには…。


そう言えば…帰り際ディルクが国王に挨拶を述べたが、何処と無く険悪な雰囲気だったのを思い出す。とても友好国である様には見えなかった。アンジェリカは自分に責任を感じた。だがまさかディルクが自分を妃になどと言い出すとは思いもしなかった為、多少は不可抗力だと思う…。

それにしても、晴れて国外追放され自由の身になった筈だったのに。今度は隣国の王太子に捕まってしまった。本当についていない…。何故こんな事に。


「アンジェリカ、君を僕の妃に迎えたい気持ちに嘘偽りはない。でも君がそれを望まないなら僕は潔く諦めるよ」

「ディルク様…」

意外にも潔く諦めると言うディルクは誠実な人に見える。不覚にもアンジェリカは少しときめいてしまった。

「本来なら君を閉じ込め、自ら僕のものになりたいと嘆願するくらい可愛がってあげたいところなんだが…我慢するよ」


「……」

さっきのときめきは、忘れよう。全然全くもって潔くないし誠実でもない。やはり腹黒いやこれではただの変態だ。

「アンジェリカ、僕に機会チャンスを与えて貰いたい。10年いや9年だけでもいい、僕の側にいて欲しい。その間に絶対に僕の事を好きにさせて見せるから」

長いな……。

ディルクの言葉にアンジェリカは苦笑した。普通ならひと月から半年くらいではないのか。せめてどんなに長くても1年が限度だろう。大体そんなに長い時間一緒にいたら好きじゃなくとも情くらい湧きそうだ。

白い目でアンジェリカはディルクを見ていた。それに気付いたディルクの声は段々と消え入る様に小さくなる。

8年、7年、6年……と削っていき最終的には1年で折れた。

「分かりました。では1年の間だけディルク様の側にいさせて頂きます。宜しくお願い致します」


アンジェリカは丁寧に頭を下げた。




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