59 / 63
58
しおりを挟む「成る程ね、話は分かったよ」
今朝ヴォルフラムが執務室へと行く途中、廊下でロイドに挨拶をされた。此処までは何時もと何ら変わりない光景だ。だがヴォルフラムが通り過ぎようとすると「ヴォルフラム殿下、大事なお話があります」と呼び止められたのだ。
ヴォルフラムは、午前に終わらせなくてはならない仕事があるので、取り敢えず昼休憩の時に話を聞くと彼には伝えた。
昼を少し過ぎた頃、ロイドが執務室へとやって来た。大事な話と言っていたので、予め人払いをしており、部屋にはヴォルフラムとロイドの二人きりだ。そして今に至る。
話を始めた彼は、開口一番に「姉の……」と口にした。まあ、詳しい内容は分からないが大方ユスティーナの話だと言う事は察しが付いていた。
昔から彼女を見守っていたので、必然的に彼の事も良く知っている。
ロイドは昔から姉であるユスティーナが、大好きな様で異性の兄弟姉妹にしてはやたら距離が近い様に思っていた。簡単に言えば姉依存だ。昨日の今日だ。きっとユスティーナから自分との話を聞いて、不満の一つでも言いたいのかも知れない。
そんな風に軽く考えていたが、ロイドはヴォルフラムの予想外の発言を披露してくれた。ある程度の姉依存なら、別段気にする事もないが……流石のヴォルフラムもロイドの話を聞き頭痛がして来た。
世の弟と言うものは、莫迦ばかりなのか?
そんなつまらない事を考えてしまう程、呆れた。ロイドを呆れ顔で見遣りながら、ヴォルフラムは実弟であるレナードを思い出す。これまで二人が似ているなどと感じた事は一切無かったが、急にあの愚弟と同類に見えてきた。
「驚かないんですね」
「まあ、知っていたからね」
ユスティーナとロイドが血縁関係にない事は無論疾うの昔に知っていた。ただ本人等がその事実を知っているかどうかまでは知らなかったが……ユスティーナが知らないという事だけは予想通りだ。
「そうですか……それでは、姉と婚約解消して下さるんですね」
「……悪いがそれは出来ない相談だ。君の言いたい事は分かったが、彼女を手放すつもりは微塵も無い」
そう言った瞬間、彼は目を見開いた後顔を顰めた。
「何故ですか……。姉の幸せを想うなら、僕に任せるべきです。僕は姉の事なら何でも知っている。姉の好きな食べ物、曲目、色、本、その他何だって分かっています。僕達はずっと一緒に過ごして来たんだ……誰より姉の理解者は僕だ。だから姉を一番幸せに出来るのは僕なんだ」
「話にならないね。大体、以前彼女を王太子妃にして欲しいと自分で言ってきた事を忘れたのかい」
「……あの時はまだ真実を知らなかったんですから、あの約束は無効です」
「随分と都合の良い話だね」
「何とでも仰って下さって結構です。兎に角、姉とは婚約を解消して下さい!僕が姉さんを幸せにするんだ!」
今にも噛み付いて来そうなくらい声を荒げるロイドに、ヴォルフラムは大きなため息を吐いてみせる。
「じゃあさ、聞くけど。ユスティーナが君に幸せにして貰いたいって言ったの?」
「そ、それは……」
「言ってないよね?君が今話した事は全て君の独りよがりで、そこに彼女の気持ちは全くと言っていい程反映されていない」
「っ……」
「そもそもだよ。ユスティーナは君と血の繋がりがないとは知らないんだろう?オリヴィエ公爵も本人には話すなと言っているのに、その事実を彼女に告げるつもりかい?傷付くと分かりながら……」
彼は拳を握り締め、唇を噛んでいる。
「世の中には知らない方が幸せな事は沢山ある。彼女にとってその事実は、それに当て嵌まるんじゃないかな。ロイド、君はユスティーナの幸せじゃなく、自分自身の幸せを望んでいるだけだ。頭を冷やせ。本来なら王太子であるこの僕にこんなふざけた話をしたんだから、オリヴィエ家に抗議したい所だが、君は彼女の大切な弟であり僕にとっても将来の義弟だからね。特別に、今聞いた事は忘れてあげるよ。但し、二度はない。僕から彼女を奪おうとするなら、何処の誰だろうと容赦はしない。僕としては将来のオリヴィエ公爵を損失するのは本意ではないからさ、この事は今直ぐ忘れろ」
ロイドはそれでも納得出来ないのか、不満そうな表情を浮かべながら、簡単な謝罪を述べて部屋から去って行った。
「やれやれ、困ったものだ。……ユスティーナ、出でおいで」
独り言つと、開け放たれた扉へと声を掛けた。
30
お気に入りに追加
5,121
あなたにおすすめの小説

婚約者の不倫相手は妹で?
岡暁舟
恋愛
公爵令嬢マリーの婚約者は第一王子のエルヴィンであった。しかし、エルヴィンが本当に愛していたのはマリーの妹であるアンナで…。一方、マリーは幼馴染のアランと親しくなり…。

【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!

【完結】トレード‼︎ 〜婚約者の恋人と入れ替わった令嬢の決断〜
秋月一花
恋愛
公爵令嬢のカミラ・リンディ・ベネット。
彼女は階段から降ってきた誰かとぶつかってしまう。
その『誰か』とはマーセルという少女だ。
マーセルはカミラの婚約者である第一王子のマティスと、とても仲の良い男爵家の令嬢。
いつに間にか二人は入れ替わっていた!
空いている教室で互いのことを確認し合うことに。
「貴女、マーセルね?」
「はい。……では、あなたはカミラさま? これはどういうことですか? 私が憎いから……マティスさまを奪ったから、こんな嫌がらせを⁉︎」
婚約者の恋人と入れ替わった公爵令嬢、カミラの決断とは……?
そしてなぜ二人が入れ替わったのか?
公爵家の令嬢として生きていたカミラと、男爵家の令嬢として生きていたマーセルの物語。
※いじめ描写有り

旦那様は離縁をお望みでしょうか
村上かおり
恋愛
ルーベンス子爵家の三女、バーバラはアルトワイス伯爵家の次男であるリカルドと22歳の時に結婚した。
けれど最初の顔合わせの時から、リカルドは不機嫌丸出しで、王都に来てもバーバラを家に一人残して帰ってくる事もなかった。
バーバラは行き遅れと言われていた自分との政略結婚が気に入らないだろうと思いつつも、いずれはリカルドともいい関係を築けるのではないかと待ち続けていたが。

私を運命の相手とプロポーズしておきながら、可哀そうな幼馴染の方が大切なのですね! 幼馴染と幸せにお過ごしください
迷い人
恋愛
王国の特殊爵位『フラワーズ』を頂いたその日。
アシャール王国でも美貌と名高いディディエ・オラール様から婚姻の申し込みを受けた。
断るに断れない状況での婚姻の申し込み。
仕事の邪魔はしないと言う約束のもと、私はその婚姻の申し出を承諾する。
優しい人。
貞節と名高い人。
一目惚れだと、運命の相手だと、彼は言った。
細やかな気遣いと、距離を保った愛情表現。
私も愛しております。
そう告げようとした日、彼は私にこうつげたのです。
「子を事故で亡くした幼馴染が、心をすり減らして戻ってきたんだ。 私はしばらく彼女についていてあげたい」
そう言って私の物を、つぎつぎ幼馴染に与えていく。
優しかったアナタは幻ですか?
どうぞ、幼馴染とお幸せに、請求書はそちらに回しておきます。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?
青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。
エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・
エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・
※異世界、ゆるふわ設定。

【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる