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しおりを挟む『あれ、姉さん、何処か行くの?』
屋敷を出る直前、入れ違いで帰ってきた弟のロイドとすれ違ったが、ユスティーナは急いでいたので足を止める事なく一言だけ返した。
『ちょっと暫く出掛け来るから』
『は?暫く出掛けるって何処に……え、姉さん⁉︎』
困惑する弟の声を尻目にユスティーナは馬車に乗り込んだ。
と言った筈が馬車に揺られる事、既に十日余り……。
『遠い……』
村と聞いて多少の距離は覚悟したが、思った以上に遠かった……。
『ユスティーナ様、もう直ぐ村に到着する様です』
侍女のエルマはユスティーナが心配だと言って付いて来てくれた。一応護衛を兼ねた侍従等数人を連れているので平気ではあったが、正直エルマが来てくれて心強かった。
『ここが、ロジェ村』
着いたのは森に隣接した閑散とした小さな村だった。人の姿が全くない。ユスティーナは暫く村の中を見て回る。
『ユスティーナ様、何だか不気味ですね……』
『……誰か、いないのかしら』
エルマが身体を縮こませながら後ろから付いて来る。確かに不気味なくらいに静か過ぎる。人がいないのもおかしい。
『旅の方々でしょうか』
『⁉︎』
そんな時、一人の初老と思われる男に話しかけられた。
お茶のいい香りが部屋に漂う。老爺に案内され彼の家へと通された。
『どうぞ』
『ありがとうございます。あの、貴方は……』
『私はこの村の村長を務めております、ハドリーと申します。それでお嬢さん方は、この様な辺鄙な村に何の御用ですかな』
『ルネ様と仰る女性に会いに来ました』
その日はもう夕刻であった為、明日案内すると言われたユスティーナ達は、村長の家に泊めて貰える事になった。夕食をご馳走して貰い、床に入ると旅の疲れが出たのか、隣のエルマからは直ぐに寝息が聞こえてきた。だがユスティーナは中々寝付けずにいた。此処まで来てなんだが、今更ながらに不安になってきた。ヴォルフラムの事を知りたい、だがその反面知るのが怖いとも思う。
そう思ってしまうくらい私はもう、彼の事が……。全ての真実を知った時、彼を嫌いになってしまうかも知れない事が、怖い。どんな彼でも受け入れる事が出来る程、きっと私は強くない。事実がどうであろうと、どんな彼でも受け入れ赦し愛せるくらい、もっと強くなりたいのに……ー。
翌朝、まだ空が白む中、ユスティーナは目を覚ました。結局余り眠れなかった。だが頭は妙に冴えている。隣を見ると、エルマはまだぐっすりと眠っていた。起こさない様に静かに起き上がり部屋を出る。
家の中は物音一つしなく、隣の部屋の侍従等もハドリーもまだ眠っている様だ。
外の空気を吸おうとユスティーナは家を出た。朝の澄み切った冷たい空気に触れ、少し身体を震わすと、何となく森の方へと歩いて行った。
「……」
一人で森へ入るのは危険だと頭で分かりつつも、足は勝手に森の中へと踏み出す。何故か分からないが、行かなくちゃ、そう思ったからだ。
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