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しおりを挟むレナードの事は想定内だったが、ジュディットはヴォルフラムの想定以上の行動を起こした。逆恨みをしたジュディットが、ユスティーナに何か仕掛けてくるとは考えていた。故に彼女を見張る為にラルエット家の門前には兵士を配備させていたが、所詮一介の兵士など信用ならないので、それとは別にヴォルフラムの直属の侍従に見張らせていた。故にジュディットが兵士らを上手く誑し込み屋敷を出た報告は既に知っていた。別段驚く様な話でもない。だがまさかユスティーナ自身を狙うのではなく、教会に火をつけるとは流石のヴォルフラムも驚いた。
レナードといい、本当に愚かで莫迦で助かる。自ら自滅したのだから……。これで危険分子は完全に一族纏めて排除出来る。それにユスティーナが危険に晒されずにも済み、言う事はない。まあ、シスターや子供達が逃げ遅れる可能性はあるが、目的を達成させるには多少の犠牲は致し方がない。
建物から火が上がり、ヴォルフラムは暫く傍観していた。ユスティーナがいる手前、騎士等には直ぐに消火する様に命じたが、正直被害は大きい方が良い。後々受ける印象に差が出る。
ユスティーナはシスターや子供等に駆け寄り、何やら慌てている様子だ。距離があるので内容は分からないが、大凡子供が逃げ遅れたとかそんな所だろう。そんな時、ジュディットが姿を現した。ずっと隠れていたのは気付いていたが、知らないフリをしていた。もう、彼女に用はない。
するとジュディットはユスティーナに詰め寄り、いやらしい笑みを浮かべながら話し始める。この期に及んでユスティーナに何かするつもりかとヴォルフラムは直ぐに駆け寄ろうとして足を踏み出すが、足を止めた。
それは少しだけ興味があったからだ。ユスティーナがジュディットにどの様な反応を見せるのか……。ヴォルフラムは彼女が本当の意味で感情を露わにした所を見た事がない。もしかしたらその姿が見れるかも知れない。彼女の本質を、彼女の全てを知りたい。そんな欲が出た。もう少し離れて傍観する事にする。
見た所ジュディットは危険物は所持していないし大丈夫だろう。それにもし彼女に危害を加えたら、その瞬間自分があの女を斬り捨てるまでだと、鼻を鳴らす。
だがヴォルフラムはこの判断をした事を、酷く後悔する事になった。ジュディットがユスティーナの頬を叩いた時、流石に見ていられなくなり足を踏み出したが、次の瞬間ユスティーナも手を振り上げるのが目に映り、無意識に足を止めユスティーナを凝視する。彼女の感情の昂りが見れると息を呑む。自分が高揚するのを感じた。だが、彼女はジュディットを叩かなかった。
「貴女には、叩く価値すらありません」
普通ならあそこまで振り上げた手を止める事はしない。いや、出来ない。だが彼女は自制した。柄になくヴォルフラムは呆気に取られる。だが次の瞬間、我に返った。建物が崩れ落ちる音が響いたと同じに、ユスティーナは踵を返し駆け出して行く。ヴォルフラムは急いで後を追いかけたが、間に合わず彼女は炎の中へと姿を消して行った……。
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