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ヴォルフラムからお茶会の招待状が届き、ユスティーナは戸惑った。彼の意図は分からない。ただ、どんな形であれ今はまだ彼と顔を合わせるべきではないと思う。
欠席しよう……ー。
「姉さんも、勿論王太子殿下のお茶会に参加するんだよね?」
だが弟のロイドにも招待状が届いたらしく、ユスティーナは半ば強引にロイドに連れて行かれる事になってしまった。
お茶会の開催場所は城の中庭だ。ユスティーナとロイドが到着した時には既に多くの貴族令息や令嬢等が集まっていた。想像していた規模よりも大きく、目を見張る。席は複数設けられている様だが、人数に対して少なく半数以上の人達が立っている。まあ、こんなに人がいるのだから当然かも知れない。まるで小規模な夜会さながらだ。お茶会を目的としているには違和感があった。こんなに人を集めて彼は何をしようというのだろう。
ユスティーナとロイドは会場の端へと移動する。分かってはいたが、居心地が頗る悪い。中庭に着いた瞬間から周囲からの視線が気になっていた。何しろ今社交界で一番の話題はユスティーナとレナードの婚約解消の話だろう。聞くまでもなく分かる。
これまでは三角関係の中にユスティーナの存在は無かったのに、こんな時だけ話題にされて複雑だ。
しかも、ご丁寧にレナードまで参加しているのだから、注目されない筈がない。更に少し遅れてジュディットがやって来た。
その瞬間、何となく嫌な予感がした。
何事もなければいいのだけれど……ー。
「姉さん、食べないの?これ美味しいよ」
ユスティーナの気持ちとは裏腹にロイドは用意されていた焼き菓子を持って来てユスティーナに差し出すが、礼だけ言って受け取らなかった。食欲なんて沸く筈がない。先程からレナードからの視線を痛いくらいに感じて落ち着かないからだ。
レナードと婚約解消になってから十日程経つが、彼と会う事もなく今日を迎えた。まさかこんな形で顔を合わせる事になるとは思わなかった。気不味過ぎる……。
それにしても珍しい。レナードとジュディットが一緒にいないなんて。ユスティーナとの婚約はなくなったのだから、更に二人の仲は深まりそうなものなのに、二人共に目すら合わせない状態だ。そんな事を考えながら横目で二人を盗み見ていると、ロイドが飲み物を取りにその場から離れて行った。
「姉さんの分も持って来るね」
「えぇ、ありがとう」
弟が側を離れ、暫くした時だった。
「ユスティーナ様」
突然背後から声を掛けられ、振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたジュディットが立っていた。思わず身体が強張り、息を呑む。
「ご機嫌よう」
「ジュディット様、ご機嫌よう……」
笑顔なのに目だけが笑っていない。威圧感と不気味さを感じた。
「ユスティーナ様、レナードとの婚約解消になってしまわれたんですね。気落ちされているのではないかと思って、私、心配で心配で……」
今度は眉根を寄せる。そしてユスティーナの前に持っていたグラスを差し出した。困惑しながら見ていると、また彼女は笑顔に戻る。
「良かったらお飲み下さい。甘い物って気持ちが落ち着きますから、ね?」
だがユスティーナは手を出さない。嫌な感じがした。
「ありがとうございます、ジュディット様。お気持ちだけ受け取らさせて頂きます。今、丁度弟が飲み物を取りに行ってくれていますので、大丈夫です」
その瞬間、ジュディットの表情が一変した。
「いいから、さっさと受け取りなさい」
徐に手を掴まれ、無理矢理グラスを握らせようとして来た。
「あの、離して下さい」
「だったら早く受け取って」
「い、嫌です!やめ……あっ」
揉み合う内にグラスは傾き、ジュディットへと掛かってしまった。赤い液体が彼女の髪や顔、首筋まで濡らす。
「キャッー‼︎」
次の瞬間、ジュディットの悲鳴が中庭に響いた。
欠席しよう……ー。
「姉さんも、勿論王太子殿下のお茶会に参加するんだよね?」
だが弟のロイドにも招待状が届いたらしく、ユスティーナは半ば強引にロイドに連れて行かれる事になってしまった。
お茶会の開催場所は城の中庭だ。ユスティーナとロイドが到着した時には既に多くの貴族令息や令嬢等が集まっていた。想像していた規模よりも大きく、目を見張る。席は複数設けられている様だが、人数に対して少なく半数以上の人達が立っている。まあ、こんなに人がいるのだから当然かも知れない。まるで小規模な夜会さながらだ。お茶会を目的としているには違和感があった。こんなに人を集めて彼は何をしようというのだろう。
ユスティーナとロイドは会場の端へと移動する。分かってはいたが、居心地が頗る悪い。中庭に着いた瞬間から周囲からの視線が気になっていた。何しろ今社交界で一番の話題はユスティーナとレナードの婚約解消の話だろう。聞くまでもなく分かる。
これまでは三角関係の中にユスティーナの存在は無かったのに、こんな時だけ話題にされて複雑だ。
しかも、ご丁寧にレナードまで参加しているのだから、注目されない筈がない。更に少し遅れてジュディットがやって来た。
その瞬間、何となく嫌な予感がした。
何事もなければいいのだけれど……ー。
「姉さん、食べないの?これ美味しいよ」
ユスティーナの気持ちとは裏腹にロイドは用意されていた焼き菓子を持って来てユスティーナに差し出すが、礼だけ言って受け取らなかった。食欲なんて沸く筈がない。先程からレナードからの視線を痛いくらいに感じて落ち着かないからだ。
レナードと婚約解消になってから十日程経つが、彼と会う事もなく今日を迎えた。まさかこんな形で顔を合わせる事になるとは思わなかった。気不味過ぎる……。
それにしても珍しい。レナードとジュディットが一緒にいないなんて。ユスティーナとの婚約はなくなったのだから、更に二人の仲は深まりそうなものなのに、二人共に目すら合わせない状態だ。そんな事を考えながら横目で二人を盗み見ていると、ロイドが飲み物を取りにその場から離れて行った。
「姉さんの分も持って来るね」
「えぇ、ありがとう」
弟が側を離れ、暫くした時だった。
「ユスティーナ様」
突然背後から声を掛けられ、振り返るとそこには満面の笑みを浮かべたジュディットが立っていた。思わず身体が強張り、息を呑む。
「ご機嫌よう」
「ジュディット様、ご機嫌よう……」
笑顔なのに目だけが笑っていない。威圧感と不気味さを感じた。
「ユスティーナ様、レナードとの婚約解消になってしまわれたんですね。気落ちされているのではないかと思って、私、心配で心配で……」
今度は眉根を寄せる。そしてユスティーナの前に持っていたグラスを差し出した。困惑しながら見ていると、また彼女は笑顔に戻る。
「良かったらお飲み下さい。甘い物って気持ちが落ち着きますから、ね?」
だがユスティーナは手を出さない。嫌な感じがした。
「ありがとうございます、ジュディット様。お気持ちだけ受け取らさせて頂きます。今、丁度弟が飲み物を取りに行ってくれていますので、大丈夫です」
その瞬間、ジュディットの表情が一変した。
「いいから、さっさと受け取りなさい」
徐に手を掴まれ、無理矢理グラスを握らせようとして来た。
「あの、離して下さい」
「だったら早く受け取って」
「い、嫌です!やめ……あっ」
揉み合う内にグラスは傾き、ジュディットへと掛かってしまった。赤い液体が彼女の髪や顔、首筋まで濡らす。
「キャッー‼︎」
次の瞬間、ジュディットの悲鳴が中庭に響いた。
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