上 下
16 / 63

15

しおりを挟む


「レナード」

呆然としながら中庭で座っていると、ジュディットが話し掛けて来た。

「ジュディット……」

「貴方、ユスティーナ様と婚約解消になったんでしょう?ふふ、おめでとう、レナード。これでやっと貴方は私だけのモノよ」

彼女は至極嬉しそうに笑みを浮かべ、隣に座るとレナードに身体を擦り寄せて来る。何時もなら彼女からこんな風にされたならば、胸の高鳴りを感じていた。だが今は何の感情も湧かない。

「……でも君は、兄上の婚約者ものだろう」

「勿論そうよ。私はヴォルフラムだけのモノよ。でもってヴォルフラムと貴方は私だけのモノ。ね、素敵でしょう?」

彼女は甘える様な声を出し、うっとりと夢心地で話している。
自分は兄の言う通り莫迦だ。ジュディットの言っている言葉の意味がまるで理解出来ない。ただ一つ分かるのは、モヤモヤして気分が悪い事だけだ。

「レナード?どうかしたの」

急に立ち上がったレナードに、ジュディットは不思議そうに見上げて来る。腕を掴まれるが、振り払った。すると彼女は心底驚いた顔をした。

「すまない……失礼する」

「え、あ、ちょっと!」

ジュディットが後ろで何か喚いているが、振り返る気にもなれずレナードは足早にその場を後にした。





「此処か……」

以前ユスティーナが話していた教会だ。隣には孤児院が併設されている。

気が付けば足が此処へ向いていた。今更勝手だと分かっているが、無性に彼女に会いたい。会った所で何を話せば良いのかは分からない。ただ婚約解消について直接どう思っているのかを聞きたい、兎に角彼女と話したくて仕方がなかった。

レナードは周囲を見渡す。遠くに子供達が遊んでいる姿が見えた。だが彼女の姿は見当たらない。もしかしたら建物の中かも知れない。そう思い足を一歩踏み出したが、それ以上動かなかった。何故なら……。

「兄、上……?」

何故ここにヴォルフラムがいるのだろう。少し離れた木陰に座っているのが見えた。そしてヴォルフラムの隣には、ユスティーナの姿があった。レナードは驚き呆気に取られ、立ち尽くす。

「っ⁉︎」

暫く二人を眺めていたが、不意にヴォルフラムがユスティーナを抱き締めた。

これは、一体何なんだー。

頭が真っ白になって、背中に冷たい汗が流れるのを感じる。心臓が早鐘の様に脈を打っている。

何故兄上がユスティーナと一緒にいる?何故兄上がユスティーナを抱き締めている?分からない。一体何時から二人は……ー。



あれから何時どうやって帰って来たのか記憶にない。気付いた時には自室のベッドの上で外套すら脱がずに倒れる様にして横になっていた。

「どうして、だ……ユスティーナ……彼女は私の婚約者、だったのに……一体、何時からだ、何時から兄上と、彼女はっ……」

悶える様にしながらレナードはベッドに何度も拳を叩きつける。何度目かでシーツを力の限り握り締め、我慢出来ずにそれを裂いた。

「はぁっ……はぁはっ……っ」

動悸が激しく、頭がクラクラする。


『お前から解放された彼女は寧ろ幸せだろう』

『彼女とお前の関係は終わった。それ以上でもそれ以下でもない。それを今直ぐ理解しろ』

あれは、自分が彼女を手に入れたいから言っていたのか……?兄はジュディットにはまるで興味がなかった。それは別に好きな女がいたからか……?そしてそれはユスティーナだった……?十分にあり得る……。

そもそもだ、父上にユスティーナの件を告げ口した奴は誰なんだ……?まさか、兄上なのかー。

そうなると、自分とユスティーナの婚約を解消させたのは、ヴォルフラムという事になる……。
レナードは、ギリっと音が鳴る程、奥歯を噛み締めた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【本編完結】婚約者を守ろうとしたら寧ろ盾にされました。腹が立ったので記憶を失ったふりをして婚約解消を目指します。

しろねこ。
恋愛
「君との婚約を解消したい」 その言葉を聞いてエカテリーナはニコリと微笑む。 「了承しました」 ようやくこの日が来たと内心で神に感謝をする。 (わたくしを盾にし、更に記憶喪失となったのに手助けもせず、他の女性に擦り寄った婚約者なんていらないもの) そんな者との婚約が破談となって本当に良かった。 (それに欲しいものは手に入れたわ) 壁際で沈痛な面持ちでこちらを見る人物を見て、頬が赤くなる。 (愛してくれない者よりも、自分を愛してくれる人の方がいいじゃない?) エカテリーナはあっさりと自分を捨てた男に向けて頭を下げる。 「今までありがとうございました。殿下もお幸せに」 類まれなる美貌と十分な地位、そして魔法の珍しいこの世界で魔法を使えるエカテリーナ。 だからこそ、ここバークレイ国で第二王子の婚約者に選ばれたのだが……それも今日で終わりだ。 今後は自分の力で頑張ってもらおう。 ハピエン、自己満足、ご都合主義なお話です。 ちゃっかりとシリーズ化というか、他作品と繋がっています。 カクヨムさん、小説家になろうさん、ノベルアッププラスさんでも連載中(*´ω`*)

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

【完結】都合のいい女ではありませんので

風見ゆうみ
恋愛
アルミラ・レイドック侯爵令嬢には伯爵家の次男のオズック・エルモードという婚約者がいた。 わたしと彼は、現在、遠距離恋愛中だった。 サプライズでオズック様に会いに出かけたわたしは彼がわたしの親友と寄り添っているところを見てしまう。 「アルミラはオレにとっては都合のいい女でしかない」 レイドック侯爵家にはわたししか子供がいない。 オズック様は侯爵という爵位が目的で婿養子になり、彼がレイドック侯爵になれば、わたしを捨てるつもりなのだという。 親友と恋人の会話を聞いたわたしは彼らに制裁を加えることにした。 ※独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

処理中です...