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良く晴れた昼下がり、ユスティーナは今日は友人にお茶に招待をされ屋敷を訪ねていた。屋敷に着くと直ぐに使用人に案内されて、中庭へ通される。するとそこには既に友人二人の姿があった。
「ユスティーナ様、ご機嫌よう」
立ち上がりユスティーナに声を掛けてくれたのは、この屋敷の令嬢であるミレイユだ。漆黒の艶やかな髪が特徴的な彼女はミレイユ・レニエ侯爵令嬢だ。整った顔立ちと髪色は、ある人物を思い出させる。それはジュディットだ。ミレイユとジュディットの母親は姉妹であり、二人は従姉妹にあたる。
「ご機嫌よう、ミレイユ様、アメリー様。今日はお招きありがとうございます」
焼き立てのアップルパイから漂うシナモンの香りと、紅茶の匂いに癒される。ユスティーナは淹れ立てのお茶を啜ると、一息を吐いた。
「ユスティーナ様、もしかしてお疲れですか?」
小首を傾げて心配そうにユスティーナを見遣る彼女はアメリー・ロジェ伯爵令嬢だ。フワフワな金髪の巻髪が印象的で、おっとりとした愛らしい女性だ。
「確か、慈善活動が忙しいのでしょう?」
今日の招待を受けた手紙の返事に、少し書いておいたのでミレイユはそれを思い出した様に話す。
「えぇ、そうなんですけど……そうじゃなくて」
自分で言っておいて、一体どっちなんだと思い苦笑してしまう。
確かに此処の所、少し疲労感を感じている。教会に通う頻度が増えた事もあるが、それだけじゃない。寧ろ体力的と言うよりも、精神的な方が大きい。
「もしかして……あの噂の事を気にしていらっしゃってるのでは……」
アメリーが戸惑いながら口を開いた。噂自体にユスティーナの名前はないが、一応当事者であるユスティーナに対して気遣ってくれているのだろう。
「少しだけ。でも何時もの事ですから……」
努めて明るく笑顔で返すが、自分で顔が引き攣っているのが分かる。
「三角関係ね、相変わらず失礼極まりない方々ですね」
少し苛々した様子でミレイユは溜息を吐き、フォークで大きめに切り分けたアップルパイを口に放り込んだ。
「あの性悪女を奪い合うとか、頭おかしいんじゃないの?」
「ミレイユ様、言い過ぎですよ」
アメリーが嗜めるが、ミレイユは意に返す事なく話を続ける。
「大体ね、レナード殿下は可愛くてこんなに素敵な婚約者がいるにも関わらず、あの性悪女ばっかり優先させて、王太子殿下と性悪女を奪い合い?……私、前からずっ~と!思ってましたけど、もうアレって立派な浮気ですよね⁉︎」
ガチャンッと音を立ててカップを受け皿に置いた瞬間、ユスティーナは身体をビクリとさせた。それはミレイユの目が据わっていたからだ。これはかなり、怒っている……。
「それに、王太子殿下も一体何考えていらっしゃるのか良く分かりませんし」
「そうですわね。王太子殿下って、人格者でいらっしゃるけど、ジュディット様を嫉妬に狂って泣かせる程お好きだったなんて少々驚きましたわ」
「以前から三角関係とか何だと言われてましたけど、それは王太子殿下は婚約者という立場もあるからと思っていましたけど……今回の噂を聞く限り、結局はあの性悪女の見てくれに惑わされているただの男って感じですね」
ふんっと鼻を鳴らし、ミレイユは今度はお茶を一気飲みする。かなり苛立っている。
先程からジュディットの事を性悪女と連呼しているが、実はミレイユは従姉妹であるジュディットが昔から嫌いらしい。以前から彼女に対して悪口やら敵意が凄い。
ただ性悪女は言い過ぎだが、ユスティーナも少し気持ちが分かる気がする……。
その後もミレイユの毒舌は止まらなかった。
ユスティーナは二人の話を聞きながら、唇をキツく結ぶ。最初に噂を聞いた時から今までずっと、胸の辺りがモヤモヤして苦しい。だがこれまでだってこんな事は良くある事で、悲しいが慣れている。以前は少しすれば気持ちは落ち着いていた。それなのに今回はずっとこのモヤモヤが続いている。その理由は、何故だが分からない。
「あら、ユスティーナ様。素敵な耳飾りですわね」
「え……」
アメリーの言葉に我に返ると何時の間にか、また耳に触れていた。少し前にもレナードに指摘されたが、最近癖になってしまい無意識に触れてしまう。身につけるのをやめればいいのだが、つけていると何故か安心出来るので結局つけたままでいた。
「本当だわ、綺麗な蒼色。もしかして、贈り物ですか?」
「これは……弟のロイドからで」
「相変わらず、仲良しで羨ましいです」
また、嘘を吐いてしまったー。
だがヴォルフラムから贈られた物だなんて、誰にも言えない。胸がまるで針で刺された様にチクリと痛む。
「……」
その瞬間、ハッとする。嘘を吐くのは、後ろめたさがあるからだ。勿論あんな場所に王太子であるヴォルフラムが一人で出入りしている事を言えない事もあるが、別にそんな事を言う必要はない。
浮気ですよね、先程ミレイユが言った言葉が頭を過ぎる。
もしかして、あれも浮気になってしまう、の……?ー。
ここ数ヶ月、ヴォルフラムとは数日に一回は二人だけではないが会っている。それに先日は、二人きりで買い物に出掛けた。手を繋いで、腕にしがみ付いて、この耳飾りを贈られて耳に口付けまでされて……。
私、なんて事を……ー。
心臓が大きく脈打つ。激しく動悸を感じ、息苦しさと目眩がする。
「っ……」
気持ち悪いー。
「ユスティーナ様⁉︎」
「ユスティーナ様っ‼︎誰が来て頂戴‼︎」
身体に力が入らない。ミレイユとアメリーが何か叫んでいるのが遠くに聞こえるが、声が出ない。ユスティーナはその場に崩れ落ち着いて、意識を手放した。
「ユスティーナ様、ご機嫌よう」
立ち上がりユスティーナに声を掛けてくれたのは、この屋敷の令嬢であるミレイユだ。漆黒の艶やかな髪が特徴的な彼女はミレイユ・レニエ侯爵令嬢だ。整った顔立ちと髪色は、ある人物を思い出させる。それはジュディットだ。ミレイユとジュディットの母親は姉妹であり、二人は従姉妹にあたる。
「ご機嫌よう、ミレイユ様、アメリー様。今日はお招きありがとうございます」
焼き立てのアップルパイから漂うシナモンの香りと、紅茶の匂いに癒される。ユスティーナは淹れ立てのお茶を啜ると、一息を吐いた。
「ユスティーナ様、もしかしてお疲れですか?」
小首を傾げて心配そうにユスティーナを見遣る彼女はアメリー・ロジェ伯爵令嬢だ。フワフワな金髪の巻髪が印象的で、おっとりとした愛らしい女性だ。
「確か、慈善活動が忙しいのでしょう?」
今日の招待を受けた手紙の返事に、少し書いておいたのでミレイユはそれを思い出した様に話す。
「えぇ、そうなんですけど……そうじゃなくて」
自分で言っておいて、一体どっちなんだと思い苦笑してしまう。
確かに此処の所、少し疲労感を感じている。教会に通う頻度が増えた事もあるが、それだけじゃない。寧ろ体力的と言うよりも、精神的な方が大きい。
「もしかして……あの噂の事を気にしていらっしゃってるのでは……」
アメリーが戸惑いながら口を開いた。噂自体にユスティーナの名前はないが、一応当事者であるユスティーナに対して気遣ってくれているのだろう。
「少しだけ。でも何時もの事ですから……」
努めて明るく笑顔で返すが、自分で顔が引き攣っているのが分かる。
「三角関係ね、相変わらず失礼極まりない方々ですね」
少し苛々した様子でミレイユは溜息を吐き、フォークで大きめに切り分けたアップルパイを口に放り込んだ。
「あの性悪女を奪い合うとか、頭おかしいんじゃないの?」
「ミレイユ様、言い過ぎですよ」
アメリーが嗜めるが、ミレイユは意に返す事なく話を続ける。
「大体ね、レナード殿下は可愛くてこんなに素敵な婚約者がいるにも関わらず、あの性悪女ばっかり優先させて、王太子殿下と性悪女を奪い合い?……私、前からずっ~と!思ってましたけど、もうアレって立派な浮気ですよね⁉︎」
ガチャンッと音を立ててカップを受け皿に置いた瞬間、ユスティーナは身体をビクリとさせた。それはミレイユの目が据わっていたからだ。これはかなり、怒っている……。
「それに、王太子殿下も一体何考えていらっしゃるのか良く分かりませんし」
「そうですわね。王太子殿下って、人格者でいらっしゃるけど、ジュディット様を嫉妬に狂って泣かせる程お好きだったなんて少々驚きましたわ」
「以前から三角関係とか何だと言われてましたけど、それは王太子殿下は婚約者という立場もあるからと思っていましたけど……今回の噂を聞く限り、結局はあの性悪女の見てくれに惑わされているただの男って感じですね」
ふんっと鼻を鳴らし、ミレイユは今度はお茶を一気飲みする。かなり苛立っている。
先程からジュディットの事を性悪女と連呼しているが、実はミレイユは従姉妹であるジュディットが昔から嫌いらしい。以前から彼女に対して悪口やら敵意が凄い。
ただ性悪女は言い過ぎだが、ユスティーナも少し気持ちが分かる気がする……。
その後もミレイユの毒舌は止まらなかった。
ユスティーナは二人の話を聞きながら、唇をキツく結ぶ。最初に噂を聞いた時から今までずっと、胸の辺りがモヤモヤして苦しい。だがこれまでだってこんな事は良くある事で、悲しいが慣れている。以前は少しすれば気持ちは落ち着いていた。それなのに今回はずっとこのモヤモヤが続いている。その理由は、何故だが分からない。
「あら、ユスティーナ様。素敵な耳飾りですわね」
「え……」
アメリーの言葉に我に返ると何時の間にか、また耳に触れていた。少し前にもレナードに指摘されたが、最近癖になってしまい無意識に触れてしまう。身につけるのをやめればいいのだが、つけていると何故か安心出来るので結局つけたままでいた。
「本当だわ、綺麗な蒼色。もしかして、贈り物ですか?」
「これは……弟のロイドからで」
「相変わらず、仲良しで羨ましいです」
また、嘘を吐いてしまったー。
だがヴォルフラムから贈られた物だなんて、誰にも言えない。胸がまるで針で刺された様にチクリと痛む。
「……」
その瞬間、ハッとする。嘘を吐くのは、後ろめたさがあるからだ。勿論あんな場所に王太子であるヴォルフラムが一人で出入りしている事を言えない事もあるが、別にそんな事を言う必要はない。
浮気ですよね、先程ミレイユが言った言葉が頭を過ぎる。
もしかして、あれも浮気になってしまう、の……?ー。
ここ数ヶ月、ヴォルフラムとは数日に一回は二人だけではないが会っている。それに先日は、二人きりで買い物に出掛けた。手を繋いで、腕にしがみ付いて、この耳飾りを贈られて耳に口付けまでされて……。
私、なんて事を……ー。
心臓が大きく脈打つ。激しく動悸を感じ、息苦しさと目眩がする。
「っ……」
気持ち悪いー。
「ユスティーナ様⁉︎」
「ユスティーナ様っ‼︎誰が来て頂戴‼︎」
身体に力が入らない。ミレイユとアメリーが何か叫んでいるのが遠くに聞こえるが、声が出ない。ユスティーナはその場に崩れ落ち着いて、意識を手放した。
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