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しおりを挟む「あれ、姉さん、もう帰って来たの?」
ユスティーナが屋敷に戻り廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。振り返ると弟のロイドがいた。
「え、えぇ……レナード様に急用が出来たみたいで約束がなくなったの」
なるべく笑顔が引き攣らない様にして話すが、弟の顔は見る見る不機嫌になっていく。
「はぁ⁉︎またなの⁉︎」
「レナード様はお忙しい方だから、仕方ないわ」
彼が忙しいのは事実だが、急用と言うのは嘘だ。本当の事を言ったら、冗談抜きでこの姉思いの弟は、今から城に乗り込んで行くかも知れない。そんな事になれば大事になってしまう。
「姉さん、どこまで心広いんだよ!忙しいって、どうせあの女の所だろう⁉︎」
「あの女って……そんな言い方してはダメよ」
ロイドが言う様に、レナードは今日もまたあの女ことジュディットを優先させた。
今日は昼からレナードとお茶をする予定だった為、朝早くから身支度を整え登城した。約束の時間より早く到着したユスティーナは、待ち合わせ場所である中庭のガゼボで待っていた。
彼は約束の時間ピッタリに現れたのだが開口一番に「すまない、今日は君とお茶が出来なくなってしまった」と謝られたのだ。
『ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね』
彼の後ろから現れたのは侯爵令嬢のジュディット・ラルエット。相変わらず美しい。同性のユスティーナから見ても溜息が出るくらいの美貌だ。
『三人でお茶をしようと言ったんだが、ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな』
またか……。正直感想はそれだけだった。レナードと婚約をして数年が経つが、これで一体何回目なのだろう。始めは性格が悪い自分は、指折り数えていた。だがそれも両手で数えられなくなる辺りで虚しくなってやめた。
『分かりました。では私はこれで失礼致します』
にこやかに微笑みユスティーナが席を立つと、ジュディットがその場所に座り、隣にレナードが腰を下ろした。自分とレナードの為に用意されたお茶やお菓子、それに婚約者までも一瞬にして全てジュディットに奪われてしまった。彼女はこれ見よがしにレナードにお菓子を食べさせてているのが踵を返す瞬間に視界に入る。背中越しに、二人が愉しげに笑う声がやたらと耳についた。
「ねぇ、姉さん。もう我慢するのやめなよ。僕から父さんに話してあげるからさ。レナード殿下と姉さんは合わないよ」
ロイドの声に我に返った。弟が怒っているのはそうだが、それだけではなく自分の事を心底心配しているのだと伝わってくる。
「姉さんにはもっと良い人がいるって」
「……心配してくれてありがとう、ロイド。でも私、レナード様と婚約を解消するつもりはないの」
レナードとは政略的な婚約だからという事もある。だがそれとは別にユスティーナが彼と婚約を解消したくないのだ。
「姉さん……」
ユスティーナが笑って見せるとロイドはそれ以上何も言う事はなかった。
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