交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)

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1巻

1-3

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「私に、か?」
「はい、ルイス様のためにんできました」

 アルレットがそう言うと、ルイスは今まで見せた中で一番、顔を赤らめた。

「いただこう。アルレット……その、ありがとう」

 照れるルイスにアルレットも照れてしまう。
 ――そんな時だった。

「お話し中、失礼いたします。ルイス様にお客様がお見えでございます」

 ミランが早足でやってきて、ルイスにそう伝える。
 ルイスは「すぐ戻る」と言い残し、行ってしまった。
 アルレットは少しそわそわする。

(客人って、誰なのだろう……)

 アルレットはまだ、ルイスの知人や友人を紹介されたことがない。

(やっぱり、まだまだ妻としてルイス様にみとめられていないということかしら……折角せっかく距離が縮まったと思ったのに、これではだめよね……)

 アルレットは、おもむろに立ち上がった。

「アルレット様、どちらへ」

 怪訝けげんそうな顔をするミランを見て、アルレットは恥ずかしげにうつむいた。
 それを見たミランは、それ以上は何も言わなかった。
 恐らく、ミランはアルレットが閑所かんじょに行くと思ったのだろう。
 だましたようで気が引けたが、好奇心のほうがまさっていた。
 アルレットはこっそりと正門へと向かう。
 柱の陰に隠れると、ルイスの声が聞こえてきた。
 それに、もう一人の声がする……女性のようだ。
 距離があるため話の内容までは聞こえないが、女性が笑う声と「ルイス」と呼んでいる声はかすかに聞こえた。
 アルレットは物音を立てないように、そっと二人をのぞた。
 ルイスの話し相手は、女性であるが眉目びもく秀麗しゅうれいという言葉がよく似合いそうな人で、同性のアルレットでも、見惚みとれてしまいそうだ。

「サンドラ」

 ふと聞こえてきた名に、アルレットはハッとした。

(あの女性が、噂のサンドラ様……)

 ルイスが恋慕れんぼするのがわかった気がする。
 あれだけの美貌びぼうの持ち主なら、男性なら誰でも夢中になってしまうだろう。

(ルイス様の表情、いつもより明るい気がする……。サンドラ様も、とても楽しそうに話しているし。多分、彼女もルイス様のことを……)

 アルレットは二人に気付かれないように、その場をあとにした。


 その夜、アルレットとルイスは夫婦の寝室にいた。
 いつものように二人はベッドに腰掛けて、何をするわけでもなく、たわいない話をしていた。
 真剣に冗談のような話をするルイスに、アルレットは笑って相槌あいづちを打つ。
 終始、なごやかな空気に包まれている。
 だが、ふと頭に不安がよぎった。

「ルイス様、お伺いしてもよろしいですか?」
「ん、なんだ」
「あの、その……」

 アルレットは日中の出来事が気になるが、聞いていいものか悩む。

(でも聞きたい)
「アルレット?」

 アルレットが口を開くことを躊躇ためらっていると、ルイスは心配そうに首を傾げる。

(以前聞いた噂話の、真相を確かめたい……)

 ルイスが何故城を出てこの屋敷で暮らすことになったのか。
 やはり原因はサンドラのことなのだろうか。
 聞いたところでどうにもできないが、一応自分はルイスの妻である。気にはなるところだ。
 だが――

「いえ……またにします」
「そうか。では、私はそろそろ休む」

 ルイスはそう言い残すと、アルレットに背を向けた。

「あ……」

 嫁入りして三月みつき経った今も、ルイスとアルレットはまだ初夜を迎えていなかった。
 いつも話が終わると、ルイスは別室にて眠りにく。
 昼間のこともあり、アルレットは不安になっていた。

(私を抱かないのは、きっとまだルイス様は、サンドラ様のことを想っていてあきらめられないから……)

 もしかしたら、一生このままかもしれない。
 いつまでも子ができないとなると、いずれ離縁されることもあるかもしれない。
 アルレットは、深いため息をつく。
 バタンッと、扉が閉まる音が、静まり返る部屋に響いた。
 アルレットは、閉じきった扉を、しばらくの間眺めていた。


     ◆ ◆ ◆


 ルイスは一人自室に戻ると、ため息をついた。

「今日も……できなかった……」

 自分の情けなさに少し苛立いらだちを覚えながらも、ルイスはシーツの中にもぐった。だが、眠れない。

「アルレット……」

 そういえば、深刻な顔で、何か言いたげにしていた。
 気になる。気にはなるが、あえて知らない振りをしてしまった。
 彼女と向き合うのが、正直怖い。
 もしも、嫌われてしまったら……そう考えるだけでどうにかなりそうだ。
 アルレットと結婚して、三月みつき経つ。
 だが、未だにアルレットを抱くことはおろか、まともに口付け一つできない。
 初めて彼女と出会った、あの瞬間……
 ルイスは、アルレットを一目見て、心奪われてしまった。
 はかない容姿にそぐわない強い眼差まなざし……相反する二つを合わせ持つ、見目みめうるわしいアルレット。
 不思議な感覚だった。これが一目惚ひとめぼれなのだと思った。
 ルイスにとって、こんなことは生まれて初めてだった。
 これまで、父である国王が選んだ婚約者たちが幾人も訪ねてきた。
 どの女性も、同じに見えた。同じようなことを言い、同じような顔をした。
 第二王子であるルイスに遠慮しているのはわかる。だが、理由がそれだけでないことも、わかっている。
 ルイスは愛想よくすることが、昔から苦手だ。
 いつもぶっきらぼうになり、うまく感情を表せない。
 おまけに口下手くちべただ。救いようがないと我ながらに思う。
 その振る舞いに、女性たちはおびえたような目を向けてきては、作った笑みを浮かべた。
 彼女たちは心にもないことをつらつらと、いかにもたのしげに見えるように話す。
 だが、ルイスが見向きもしないとわかるやいなや、急に黙り込み簡単にあきらめる。
 そして、時には顔を真っ赤にして怒った表情を浮かべ帰る者や、急に泣き出す者すらいた。
 ルイスも初めこそ相槌あいづちくらいは打っていたが、何度も同じことが繰り返されるうちに、それすら面倒になりやめた。

(どうせ、どの女もすぐに嫌になり、来なくなる。いちいち気を遣うだけ無駄だ)

 ずっと、そう思い続けていた。

『ルイス殿下の婚約者になった令嬢は、皆一様に、急に不治ふじやまいになったり、行方不明ゆくえふめいになったりする』

 社交界では、そんな下らない噂が流れていることは知っていた。
 だがそれで構わないと、結婚などする必要はないと、開き直っていた。
 別にルイスが王位を継ぐわけではない。子ができずとも問題はないはずだ。
 その思いは、そのまま父にも伝えた。
 王太子の兄には婚約者がいるし、そのうちに結婚もするだろう。
 そうなれば当然、子だってできる。
 それに、兄は自分に比べ、女性からかく人気がある。
 兄は愛想もいいし、紳士的で優しい。
 容姿も文句なしで、弟の自分から見ても美男子だと思う。
 彼が王位を継げば、側妃そくひ愛妾あいしょうになりたがる女はいくらでもいるだろう。
 ……最悪、兄に後継ぎができなくても従兄いとこだっている。
 ゆえに、ルイスが結婚するかしないかなど、取るに足らない問題だ。
 ――彼女が現れたのは、そんな時だった。
 アルレットが屋敷を訪ねてくる数日前、『クライン公爵の長女と結婚が決まった。すでに手続きは終えている。数日後とつぐゆえ、観念するように』ということだけが書かれた手紙が届いた。
 婚約をすっ飛ばしいきなり結婚するなど、意味がわからない。全て事後承諾じごしょうだくだった。
 どうせ、彼女を逃したら次はないと父が思い、彼女が逃げられないように、まだ会ったことすらないのに結婚をさせられたのだろう。
 正直興味はなかった。相手など誰でもよかったが、面倒事だけは起こされたくなかった。
 かく関わらないようにと、ルイスは考えていたが……
 アルレットは、これまでの女性たちとまるで違った。

(まさか、自分の妻に一目惚ひとめぼれをするとは……)

 彼女と同じ時間を過ごせば過ごすほど、深みにはまるような感覚におちいる。
 ちょっとした仕草に見惚みとれて、目が釘付けになってしまう。
 今日も、ただ庭の花をあげただけなのに、とても嬉しそうに微笑む姿がたまらなかった。
 アルレットのように清廉せいれんな印象の、純白の花。
 庭にはたくさんの花がありすぎて、どれを選べば彼女が喜んでくれるかわからなかったが、それを渡せてよかったと思う。
 そのあと、ルイスのためにんだと、アルレットが同じ花をくれたことには歓喜した。
 人生で花をもらったことは初めてだったが、こんなに嬉しいものだとは思わなかった。
 どんな高価な品物よりも嬉しかった。
 ……本心では、毎晩でも彼女を抱きたい。
 ベッドに組み敷いて、彼女の全てを堪能したい。
 彼女の身も心も、手に入れたい。
 だが、どうしてもできずにいる。
 いざアルレットを目前にすると、情けないが、身体が動かない。
 ルイスはひたいに手を当て、こぶしを握り締めた。

「アルレット……私の……」

 ルイスのかすれた声は、静かな部屋にむなしく響いた。



   第三章


 数日後、アルレットは登城とじょうするルイスの姿を見送った。
 だが、サンドラが屋敷を訪れた日から、アルレットはルイスが出かけていく時はいつも不安に包まれる。
 ルイスの馬車が見えなくなっても、アルレットはしばらく立ち尽くしていた。

「……」
「アルレット様、お茶をおれいたします。本日は天気もよろしいですし、中庭にでもお運びいたしましょうか」

 ミランは、アルレットをいつも気にかけてくれていた。
 彼の気遣いを、アルレットは素直に嬉しく感じる。

「えぇ。ミラン、いつもありがとう」
勿体もったいないお言葉です」

 アルレットとミランが中庭へ向かおうとした、その時。

「これは愛らしいね。僕の好みだなぁ」
「きゃっ……」

 突如とつじょ目の前に現れた青年に、アルレットは驚いてねた。

「あ、驚かせちゃったね。ごめんね?」
「……エラルド様、ルイス様ならもうお出になられましたが」

 ミランはアルレットを背に隠し、飄々ひょうひょうとしている青年との間に盾になるようにして立ってくれる。
 どうやら、ミランはこの青年と知り合いらしい。
 エラルドと呼ばれた青年は、軽く笑った。

「そんな怖い顔しないでよ。相変わらずミランは忠犬だねー」
(忠犬?)

 アルレットは、変な物言いをするエラルドを奇妙な顔で見た。
 すると目が合い、ウィンクをされる。
 思わずアルレットは後退あとずさった。

(変な人……)

 ぽかんとするアルレットとは対照的に、ミランは厳しい表情をくずさない。

「もう一度申し上げます。ルイス様はいらっしゃいません。お引き取りを」
「えー、これからお茶するんだよね? 僕もぜてよ。ね? いいでしょう? アルレットちゃん」

 エラルドに名前を呼ばれ、アルレットはますます身を縮めた。
 勿論もちろん、アルレットは名乗っていない。お茶にぜるように要求してきたということは、どうやらエラルドは、二人の話を聞いていたようだ。

「あ、そうだ。ルイスの話をしてあげるよ。僕はね、ルイスの昔からの友人なんだ。君の聞きたいこと、なんでも教えちゃうよ~?」
「エラルド様! 勝手なことをされますと困ります!」

 ミランは止めに入るが、アルレットはエラルドの言葉に興味をいだき、目を輝かせた。

(ルイス様のことを、なんでも教えてくれるなんて……)
「アルレット様、このようなやから口車くちぐるまに乗せられてはなりません!」
「ミラン……君、一応執事の癖に、随分ずいぶん口が悪いね」

 そう言うエラルドを、ミランはするどにらみつける。

「私の主人はルイス様とアルレット様です。あなたは関係ございませんので」

 ミランとエラルドの攻防戦をよそに、アルレットは嬉々として言う。

「ミラン。私、エラルド様とお話がしたいです」

 その言葉に項垂うなだれるミランを、アルレットは不思議そうに見た。
 それから三人は、中庭に移動することになった。
 白いテーブルと椅子に、アルレットとエラルドは向かい合って座る。
 テーブルの上にはお茶の他に色とりどりのお菓子が並び、あたりには甘い香りがただよっている。
 ミランは少し離れて待機しながら、時折エラルドを見張るように視線を向けていた。
 エラルドは腰を落ち着けると、微笑みながら口を開く。

「じゃあ、まず初めに僕の自己紹介をしようかな。僕の名前はエラルド。二十一歳、公爵家の生まれで、こう見えて騎士団の副長をしてるんだ」
「騎士団の副長ですか?」
「そう君の旦那様の部下だよー」

 アルレットはエラルドの言葉を聞いて、ハッとした。

「あの、いつもルイス様がお世話になっております」
「ハハッ」

 普通、妻なら夫の部下に挨拶あいさつをするべきだと思ったのだが、エラルドは可笑おかしそうに笑った。
 アルレットは眉をひそめる。

「あの、私、何か可笑おかしいこと言いましたか?」
「え、あぁ。だってさ、僕とルイスは上官と部下だけど幼馴染であり友人であり従兄弟いとこで、ずっと昔からの付き合いなんだよ。それなのに、いくら奥さんといえど、たかだか知り合って数か月の人間から、そんな挨拶あいさつされたらねぇ?」

 エラルドの言葉にアルレットは恥ずかしくなり、顔が熱くなるのを感じてうつむいた。
 彼はそんなアルレットを置いてけぼりに、さらに言い募る。

「君さ、ルイスのことをどれだけ知ってるの? ルイスが剣を振るう姿、見たことある?」

 アルレットは、ルイスが剣を握っている姿を見たことがなかった。
 ルイスは仕事の話を、アルレットに一度たりともしたことがない。それどころか、一緒に出かけることすらない。
 アルレットは、屋敷の外に出してもらったことがなかった。

(普通なら、稽古場けいこばなどに連れていってもらうものなのかしら……)

 アルレットは不安になりながら、首を左右に振った。

「いえ……ルイス様が事務仕事をなさっているのは、何度か拝見したことはありますが」
「そうなんだ? むしろ、僕にはルイスが事務仕事する姿って想像できないな」

 エラルドは得意げな表情でそう言ったあと、ルイスについて話し始めた。
 エラルドによると、ルイスは二歳で初めて剣を持ち、七歳になる頃にはその腕は大人顔負けだったという。
 成長した今はさらに腕を上げ、この国でかなう者はいないと言われるほど。
 そして、ルイスは事務仕事があまり好きではないらしい。
 それを聞いて、アルレットはこれまで見てきたルイスの印象とは正反対のように思えた。
 毎日机に張りつき仕事をこなす姿しか、アルレットは知らない。
 ルイスはまだ十八歳だ。その若さで、普通は騎士団長の役職になどけない。
 ゆえに、ルイスは実力でというよりは、第二王子という立場であるから騎士団長の役職にいているとばかり思っていた。

(私はルイス様のことを、何も理解していない。それなのに妻を名乗るなんて、おこがましいのかも……)

 その後もアルレットが知らないルイスの話を、エラルドからたくさん聞いた。
 全てが知らないことばかりで言葉が出ない。
 黙り込んだアルレットを見て、エラルドは首を傾げる。

「アルレットちゃん? 大丈夫?」
「……はい」

 アルレットが弱々しく頷くと、エラルドは肩をすくめた。

「ルイスもひどいよねー。何もアルレットちゃんに話してあげないなんて。ルイスって昔から警戒心が強いから、なかなか人を信用しないんだよ」

 アルレットの心臓がねた。

(私は、ルイス様に信用されていない……?)

 ルイスはぶっきらぼうだが優しく接してくれた。普段は仏頂面ぶっちょうづらだけれど、たまに笑ってくれる。髪を撫でて抱き締めてくれた。
 あれらは全て、夫だから義務としてやっていたというのだろうか。

(それとも、やっぱりあの人の代わり? ……でも、それなら納得できるかも)

 未だにルイスは、アルレットを抱かない。

(信用されていないから。愛されてないから。私は代替品でしかない、から……)

 アルレットは眩暈めまいがするようだった。
 たとえ誰かの代わりだとしても、ルイスとならうまくやっていけると希望を持っていたが、そう思っていたのは自分だけだったのかもしれない。

「エラルド様、おたわむれはその辺にしていただけますか? ルイス様に報告いたしますよ」

 アルレットの様子を見かねたミランが、エラルドを止めた。
 エラルドは眉根を寄せる。

「あー、それは困るなぁ。また説教されるのイヤだし。ってことで、アルレットちゃん、今日はここまでねー」

 エラルドは立ち上がると、座っているアルレットの横までやってきた。

「じゃあ、またね~」

 エラルドがそう言った瞬間、テーブルに置かれていた彼の手がケーキの皿に当たり、ひっくり返った。
 そしてそれは、アルレットのドレスの上に落ちる。

(これって、まさかわざとじゃ……)

 アルレットは固まってしまった。
 先ほどから嫌というほど、エラルドから嫌みを言われていることは感じている。絶対にわざとやったに違いない。

「アルレット様! 大丈夫ですか!? 只今くものをお持ちいたします」

 ミランはエラルドをにらむと、血相を変え、屋敷の中に布巾を取りに行った。

「ごめんね? 大丈夫かな?」

 エラルドはやはり悪びれる様子もなく、口元に薄く笑みをたたえてアルレットの顔をのぞんだ。
 アルレットはエラルドの様子に引き気味になりながらも、冷静に答える。

「はい、少し汚れただけですから……」

 その途端、エラルドは今までとは違う、不敵な笑みを浮かべた。

「ずっとミランが見張ってるからさ……やっと二人になれたね」
「エラルド様……?」

 どこか不気味なエラルドの表情を見て、思わずアルレットはのけ反った。

「……サンドラを、知っている?」

 エラルドが唐突に口にした名前に、アルレットの心臓はねた。
 動揺をにじませたまま、アルレットは答える。

「ルイス様の、従姉いとこです……」
「じゃあ、噂は?」

 アルレットは、静かに頷いた。
 エラルドはそれを確認すると笑う。

「次の五日の日に騎士団が夜会を開く。そこにサンドラも参加するんだ。……アルレットちゃんもおいで」

 アルレットは戸惑とまどった。エラルドの意図が読めない。

(私を夜会に参加させて、何がしたいの? ルイス様とサンドラ様の仲睦なかむつまじい姿を見せつけて、形ばかりの妻の私に恥でもかかせたいのかしら……)

 だが、そんな恥じらいよりも、今はルイスとサンドラの関係を知りたい気持ちがまさっていた。
 アルレットは、躊躇ためらいながらも頷く。
 その様子を見たエラルドは、口の端を吊り上げた。

「いい子だね。じゃあ、こうしようか。もしも、ルイスのほうから君を連れていくと言ったら、アルレットちゃんはそのままルイスとおいで。でも、もしルイスが一人で出かけていった時は、僕が君を迎えに行くよ」
「わかりました」
「あと、この話は僕と君だけの秘密だよ」

 エラルドは人差し指を立てると口元に持っていき、たのしそうに笑った。


 話がちょうど終わった頃、ミランが布巾を手にして戻ってくる。
 それを見たエラルドは、入れ違いに帰っていった。
 ミランはアルレットのドレスを丁寧にきながら、心配そうに聞く。

「アルレット様……エラルド様から何かされたり、言われたりなさっていませんか?」
「いえ……」

 アルレットは、曖昧あいまいに返事をすることしかできなかった。


「ルイス様、お帰りなさいませ……」

 エラルドが帰って日が落ちた頃、ルイスが屋敷に戻ってきた。
 いつも通りアルレットは彼を出迎えるが、そこに笑顔はない。

「アルレット、ただいま」

 ルイスがアルレットに答えるが、その場には気まずい空気がただよう。
 ふと、ルイスはポケットに手を入れると、何かを取り出した。
 彼は、しばらくその取り出したものを眺めている。

(何かあったのかしら……)

 アルレットが不安になりながらルイスの様子を見守っていると、彼は意を決したように口を開く。

「アルレット……て、手を、出してもらえるか……」
「……手、ですか?」

 つっかえながら言葉を発するルイスに、アルレットは言われた通りおずおずと手を出した。
 アルレットの手のひらに置かれたのは、片方の小さな耳飾りだった。

「あの、これは……綺麗」

 手のひらの上で宝石があおく光っている。
 ルイスのあおい瞳によく似ていると、アルレットは思った。
 思わず頬が緩む。ルイスを見遣みやると、照れているのか、頬が赤い。

「私が、つけよう」

 ルイスはアルレットの手のひらから耳飾りを取ると、右耳につけてくれた。


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