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1巻
1-2
しおりを挟む「あの、ルイス殿下」
「殿下と呼ぶのはやめて欲しい。政略結婚といえど、夫婦になったんだ。敬称は必要ない」
「そんな、恐れ多いです」
アルレットが戸惑う素振りを見せると、ルイスは不満そうな表情を浮かべる。
(怒らせてしまったかしら!? ど、どうしよう……)
アルレットは焦る。
だからといって「ルイス様」と呼ぶのは、なんとなく馴れ馴れしい気がする。
アルレットはしばらく考え、一つ提案してみることにした。
「で、では、旦那様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「旦那、様……」
ルイスは固まってしまった。
(何かまずかったかしら……)
アルレットが黙ってルイスの様子を窺うと……また、ルイスの頬が少し赤くなっている。
その上、心なしか小刻みに震えているようにも見えた。
(まさか、逆鱗に触れてしまったとか……⁉ それならなんとお呼びすればいいのかしら……。殿下? ルイス様?)
なんと呼べばいいものかわからず、アルレットは言葉を詰まらせる。
「あ、あのっ」
「……ルイス」
突然呟かれた彼の名前に、アルレットはきょとんとしてしまう。
「はい?」
「ルイスで、いい……」
その言葉にアルレットは、黙る。
(ルイス様と呼ぶように、ということ?)
ルイスの真意がわからずアルレットが返答しかねていると、後ろに控えていたミランが口を開いた。
「アルレット様、ルイス様は照れていらっしゃるだけですので、気を揉まれる必要はありません」
(照れていたのね……)
アルレットは失礼を承知で、ルイスをまじまじと見てしまった。
確かに頬は赤く、目も泳いでいる。
「ふふっ」
アルレットは、今度は盛大に噴き出してしまう。
「っ、ミラン! だから、余計なことを言うなっ」
「ですが、事実です」
声を荒らげるルイスに、ミランは冷静に返事をする。
先ほどから思っていたが、ルイスとミランは主従関係を超えて、随分と仲が良いようだ。
普通は、執事はこんなに主人と親しく接することはない。
二人の様子が微笑ましくて、アルレットはさらに笑みを深めた。
こんな風に誰かと会話をしながら食事をするのは、初めてだ。
実家では両親と妹と離れたテーブルを用意され、いつもそこで一人で食事をしていた。
少し離れたテーブルからは、両親や妹が楽しそうに会話をしているのが聞こえた。
幼い頃は淋しく感じることもあったが、それも次第に麻痺して、何も感じることはなくなった。
今まで経験したことのない愉しい時間を過ごすことができて、アルレットは今、温かい気持ちでいっぱいだ。
そして、思った。
(シルヴィアは、ルイス様の何がそんなに不満だったのかしら。シルヴィアだけでなく、今までルイス様の婚約者候補として名前が挙がった令嬢たちも……)
確かにルイスは威厳があり、怖そうだし口調も厳しい。
でも少し話しただけだが、わかる。
(きっと彼は優しい人。不器用なのかもしれないけど……少し、私に似ているのかもしれない)
アルレットは、結局両親にも妹にもいいように使われて、どんなに不満があっても嫌でも、何も言えなかった。
『お姉さんなんだから』
あの言葉を思い出すだけで、嫌悪感が湧いてくる。
妹のシルヴィアは甘えるのが本当に上手で、両親はそんなシルヴィアの言いなりになり、溺愛した。
アルレットはシルヴィアとは対照的ゆえに、感情表現が苦手で彼女のようには振る舞うことができず、両親からは可愛がられることが全くなかった。
(本当は、甘えたかった……でも、私には甘え方がわからなかった……)
だが、我慢をするばかりで何も言わなかった自分も悪いのだとわかっている。
(彼もきっと、同じ……)
自分と少し似ているルイスに、アルレットは親近感を抱いた。
(ルイス様なら、こんな私でも受け入れてくれて……私と家族になってくれるかも、しれない)
そんな風に考えると、これから先の生活が愉しみだ。
アルレットは、ルイスを見ると笑った。
食事のあと、アルレットはミランに夫婦の寝室に案内された。
なんとなく身の置き場に困り、二人でも大きく思えるベッドの端に座る。
すると、しばらくしてガチャッと音がし、部屋の扉が開いた。
扉を開けたのは、言うまでもなくルイスだ。
アルレットは俯き、固まった。
(覚悟はしている……つもり。でも、やっぱり少し怖い)
急激に心臓が高鳴り、顔は火がついたように熱い。
(大体、先ほど抱きかかえられただけでも心臓が止まりそうだったのに、どうしたら……!)
ルイスが歩いてくる足音が、異常なほど大きく響いて聞こえる。
その足音は、ベッドに座るアルレットの前で止まった。
アルレットは反射的に目を瞑る。
それから、沈黙が流れた。
多分ものの数秒のことなのだろう。だがアルレットには酷く長く感じる。
不意に、ルイスがアルレットを優しく抱き締めた。……そして、ゆっくりと離れていく。
「あ、の……」
おそるおそる瞼を開けると、目の前にはルイスの顔があった。
「ゆっくり休むといい。私は別室で寝る……おやすみ、アルレット」
それだけ言うと、ルイスはアルレットの額に軽く触れるだけの口付けを落とし、部屋を出ていった。
ルイスはもういないのに、鼓動はおさまるどころか全身に響いて大きくなっているように感じる。
アルレットはルイスの唇が触れた額に、手を当ててみた。
「恥ずかしすぎる……」
アルレットは一人で大きなベッドに横になった。本来ならルイスと一緒に眠るためのベッドだ。
「……」
思わず余計なことを想像してしまう。
だが、一方で安堵する自分がいるのも事実だ。
アルレットは無理やり目を瞑り、眠ることにした。
翌日の早朝、アルレットは目を覚ますと、侍女に身支度を整えてもらい部屋を出た。
食堂へ向かったが、ルイスの姿はない。
(まだ起きていらっしゃらないのかしら……?)
アルレットが室内を見回していると、後ろからミランが近づいてきた。
「おはようございます、アルレット様。お食事の準備は整っております」
ミランに促され、アルレットは椅子に座る。
用意されている食器は一人分のみだ。
「ミランさん、ルイス様はいらっしゃらないのですか?」
「ルイス様は本日、登城されております。それと、アルレット様。私のことはどうぞ、ミランとお呼びくださいませ」
ミランの言葉に、アルレットは肩を落とす。
(まだ薄暗い時間にもかかわらず、既に身支度をされ朝食をとられて、出かけているなんて。これでは、妻として失格だわ)
夫であるルイスより早く起きて、キッチリと身なりを整え見送りをするのは、妻として当然だ。
こんな調子では、いくら優しいルイスといえども、そのうち見放されるに違いない。
アルレットは、ここを追い出されたら行くあてがない。
シルヴィアならいざ知らず、離縁され実家に出戻るなど、あの両親が許してくれるはずもないだろう。
兎にも角にも、ルイスは悪い人ではなさそうで安心した。
妻としての役割さえしっかりと果たせば、追い出されることはないだろうから、それなりにうまくやっていけるだろう。
(あとは、私の頑張り次第ね……それにしても、登城ということは、お仕事かしら)
ルイスは、第二王子でありながら、王宮の騎士団長を務めているという。
そのため登城すること自体はおかしくないのだが、アルレットが気になるのには訳があった。
ルイスの、ある噂を知っているからだ。
彼はあることをきっかけに自主的に城を出て、この屋敷で暮らすことにしたらしい。
彼が城を出た理由、それは――
(兄である王太子殿下が、婚約をしたから……)
王太子の婚約者は、二人の従姉のサンドラという女性だ。彼女は現国王の姉の娘で、侯爵令嬢。
噂によると、ルイスとサンドラは幼馴染で、ルイスはサンドラのことを慕っており、兄と彼女の婚約に反発して城を出たらしい。
社交界では三つ巴と称し、しばらくその話で持ちきりの時期があったのを覚えている。
さほど社交の場に顔を出さないアルレットの耳にも、嫌でも入るほどに。
となると、アルレットは代替えの代替えの代替えの妻……ということだ。
ルイスはサンドラとは結ばれることがないゆえに、結婚相手は誰でもいいのだろう。
そして最終的に回り回って選ばれたのが、妹のシルヴィア。
(そして……私はさらに妹の代わり……。だから昨夜も何もなかったのね)
ここまで来ると、悲しいというより笑えてくる。
「アルレット様、お加減が優れないのでしょうか」
ミランに声をかけられ、アルレットはハッと我に返った。
アルレットが考え事をしているうちに、目前にはいつの間にか朝食が綺麗に並べられていた。
ミランは、それらに手をつけようとしないアルレットを心配してくれたようだ。
「いえ、大丈夫です。いただきますね」
アルレットは焦りながらも、笑って誤魔化す。
(昨夜も思ったけれど、流石王族……)
無論、高位貴族である公爵家の食事だってそれなりのものだったが、それらとは格段に違う、一目見ればわかるほどに高級そうなものばかり。
(まあ、私に用意された食事は、両親や妹たちよりも質素だったけれどね……)
アルレットは心の中で苦笑しつつ朝食を食べながら、これからのことを考える。
たとえルイスにとっては代替品でも、実家にいるよりはいいはずだ。
「頑張ろう……」
思わず、アルレットはぽつりと口に出す。それに気付いたミランが首を傾げる。
「何か、おっしゃいましたか?」
「い、いえ。何も……」
アルレットは、慌てて焼き立てのパンの一欠片を、口に放り込んだのだった。
第二章
「ルイス様、お帰りなさいませ」
いつものように城から屋敷に帰ってきたルイスを、アルレットは笑顔で出迎えた。
屋敷に来てから半月と少し経ち、この生活にも慣れてきた。
相変わらずルイスは仏頂面であまり笑顔を見せてくれないが、以前に比べるとだいぶ表情が柔らかくなったように感じる。
ルイスは、アルレットをじっと見つめる。
「あぁ、ただいま」
(あれ、今ルイス様の口の端が……上がったような)
その瞬間、後ろに控えていたミランが息を吞む気配がして、アルレットは振り返る。
彼は、驚いた表情で固まっていた。
(珍しい……いつもミランは、穏やかな表情を崩さないのに。何かあったのかしら)
「どうかしたか、ミラン」
ルイスもミランを不審に思ったようで、僅かに穏やかだった表情をいつもの仏頂面に戻して尋ねる。
ミランは動揺した様子のまま、口を開いた。
「い、いえ……それより、ルイス様、お食事の準備が整っております」
「そうか。……アルレット」
不意にルイスから名前を呼ばれたアルレットは、不思議そうに首を傾げた。
すると、彼はアルレットの前に跪き、手に触れた。
「ルイス様!?」
いきなりルイスに触れられて恥ずかしくなり、顔が熱くなってしまう。
ルイスはというと、また唇の端を上げ、微笑んでいるように見えた。
「行こうか」
どうやら、ルイスはエスコートをしてくれるようだ。
アルレットはルイスの紳士的な振る舞いに感心し、彼を見上げた。
「はい、ルイス様」
アルレットはルイスに手を引かれて、屋敷の中へ入った。
それからアルレットはルイスとともに夕食を済ませ、二人で夫婦の寝室に戻ってきた。
ルイスは、今でも寝る前には別の部屋に行ってしまう。
だが、それまでの間二人で過ごすことが、最近の日課になっている。
ルイスはベッドに座り、本を読んでいた。アルレットはその横にちょこんと腰掛けると、彼の手元を覗き込む。
「ルイス様、何を読まれてらっしゃるのですか?」
「い、いや、これは」
ルイスは慌ててその本を隠そうとするが、アルレットは見逃さなかった。
「……姫と騎士の恋物語?」
想像とまるで違った本の題名に、アルレットは目を丸くした。
(ルイス様が恋愛の御本を読んでいるなんて……もっと堅苦しい内容の本を読んでいる印象しかないのに……)
「その、違うんだっ、わ、私は……」
懸命にルイスは何かを言おうとするが、言葉を詰まらせる。
アルレットは、思わずくすっと笑い声を漏らした。
「どんなお話なんですか?」
顔を真っ赤にしているルイスに、アルレットは微笑みながら、そう聞いた。
「わ、笑わないか……?」
「勿論です」
既に笑っているアルレットは、急いで真剣な顔に戻す。
内心、恥ずかしがるルイスを微笑ましく思いながら、頬が緩みそうになるのを堪えた。
「そ、そうか」
ルイスはホッとしたように居住まいを正す。
「普段はこういった本は読まないんだ。だが、たまたま目に入り、気になった。最後まで読むつもりはなかったんだが……この本の主人公は……」
ルイスは本の内容を掻い摘んで話し出した。
本の主人公はとある国の姫。彼女には、婚約者がいた。
それは隣国の騎士であり、王子だった。
月日は流れ、やがて二人は結婚する。
二人の婚約は政略的なものだったが、騎士は姫を心から愛した。
だが、実は姫には密かに想いを寄せる人がおり……それは、騎士ではなかった。
その想い人は、騎士の実兄だったのだ。
そしてその事実を知った、騎士は……
「騎士は、どうしたんですか……」
アルレットは息を呑み、ルイスの次の言葉を待つ。
彼は俯きながら、重々しく口を開いた。
「……姫を、殺して、自ら命を絶った」
「そんな……」
ただの物語だとは、わかっている。
だが、アルレットの胸は締めつけられて苦しい。
「そんな結末は、悲しすぎます」
「……そうかもしれない。なら、どういう結末ならよかったのだろうか」
ルイスがそう言った瞬間、彼と目が合った。その目があまりにも真剣で、アルレットは戸惑う。
「それは……」
(わからない……)
騎士は姫を心から愛していた。だが姫は騎士の兄を愛していた。
それなら、騎士の兄はどうだったのだろう?
もし兄が、姫を好いていたとしたら?
姫と兄が好き合っていたなら、二人が結ばれるのが、幸せな結末なのだろうか。
だが、それでは騎士があまりにも哀れだ。
――本当は、アルレットには考えるまでもなく、答えがわかっていた。
姫は騎士と結婚し、彼の妻になった。本来ならば他の男性を想うなど赦されない。
それがたとえ、政略結婚だとしても。
もし、他に想いを寄せる男性がいたとしても、その気持ちは悟られぬように隠さなければならない。
「私は、姫が我慢するべきだったと……思います。そうすれば、誰も傷つかずに、幸せになれたと……」
「そうか」
ルイスはどこか安堵したような表情を浮かべた。
そして少し躊躇う素振りを見せたあと、口を開く。
「もしも、私が騎士で、君が姫だったならば……君は、その……私を選んでくれるか」
不安げに、ルイスは言った。まるで自身と騎士を重ね合わせているかのように。
心臓が、高鳴った。
(勿論です、と、そのように早く言わなくちゃ……)
だが、言葉が出ない。何故だか、即答できない。
アルレットは、返事をする代わりに微笑んだ。これが、精一杯だった。
だが、ルイスはそれを肯定と受け取ったらしく、微笑み返す。
「私と君の結婚も、政略的なものではあるが……その、今後も君とは良好な関係を築きたいと思っている」
顔を真っ赤にしてそう話すルイスを見て、アルレットは頷いた。
この半月、ルイスと一緒にいて、少しだけ彼のことがわかった気がする。
不器用だけれど、本当はとても優しくて、照れ屋だ。
そして、そんなルイスを見て、可愛いと思うこともある。
だから、妻として彼の願いを叶えてあげたいとも思う。
「そろそろ寝る。君も休むといい」
ルイスはそう言って、部屋をあとにした。
アルレットは、一人になった部屋のベッドに横になる。
目を閉じるが、なかなか眠れない。
「姫と騎士、か……」
なんとなく、先ほどのルイスとの会話が頭を過る。
アルレットがルイスに何も答えることができなかった理由は、彼が求めた結末が姫に我慢を強いることだったからだ。
無論、アルレットだってそれが正しいとは思う。妻は夫を裏切るべきではない。
だが、心のどこかで、ルイスが騎士だとしたら、姫のために身を引くと言って欲しいと思った。
姫を本当に心から愛しているならば、騎士には彼女を殺めたり、我慢を強いる選択をしたりして欲しくないと、思ってしまった。
それが正しいか間違っているかは、除いて。
アルレットは、後ろ向きになる思考を振り払うかのように、首を左右に振った。
ただの物語の話だ。こんなに深く考える必要などないだろう。
(もう忘れよう)
アルレットはきつく瞼を閉じ、今度こそ眠りに就いた。
そしてさらに、ひと月、ふた月と月日は流れ、アルレットが嫁いできてから、三月が経った。
ルイスとアルレットは、少しずつだが距離を縮めている。
最近のルイスは屋敷の執務室で事務仕事をこなしていることが多いようだったが、数日に一度は必ず登城する。
毎日忙しそうで休みの日はないようだが、空いた時間にはアルレットとのお茶の時間を作ってくれている。
今日も時間ができたらしく、アルレットをお茶に誘ってくれた。
今日は天気がよく、風も心地よい。そのため、中庭で二人だけのお茶会を開くことにした。
しかし、二言三言会話を交わしてから、ルイスはどこか上の空だ。
「ルイス様……?」
アルレットが名前を呼ぶと、ルイスはハッとする。
「すまない。少し考え事をしていた」
アルレットは「いいえ」と首を横に振り、彼を見つめた。
そして、思わずくすっと笑ってしまう。
「ルイス様。珍しいですね。口元にお菓子の欠片がついています」
アルレットは立ち上がり、ルイスの口元についた欠片をハンカチで丁寧に拭った。
「すまない。このような醜態を晒すなど、私としたことが……紳士たる者の行動ではないな」
「そんな……私は可愛らしくてよいと思います。ルイス様」
アルレットが微笑むと、ルイスは頬を赤くし、顔を背けてしまった。
「ルイス様?」
「アルレット、何か欲しいものはないのか」
アルレットが首を傾げていると、ルイスは唐突に言った。
全く心当たりがなく、アルレットは回答に困る。
「欲しいもの、ですか? 特にはありませんが……」
「本当にないのか? なんでもいいぞ。どんなものでも用意させる」
アルレットはしばらく考え込んだ。
だが、本当に望むものがない。
実家では妹に何かを欲されてばかりで、今はもう自分が欲する気持ちは消え失せてしまった。
しばらく視線を彷徨わせて……アルレットは、あるものを見つけた。
「……では、ルイス様」
「あぁ、なんでもいいぞ」
子供のように目を輝かせるルイスに、アルレットは告げる。
「あちらの花を一輪、私にください」
アルレットが指を差した先には、庭に咲いている花があった。
ルイスは何を言われたのかわからないとばかりに、きょとんとしている。
「花を、か? いや、しかし、花ならここにいくらでもあるだろう。これでは贈り物にはならない」
ルイスは戸惑ったように言うが、アルレットはにっこりと微笑んだ。
「ルイス様、私はこれがいいです。だめですか?」
「そ、そうか。わかった」
ルイスは躊躇いながらも立ち上がると、無数に咲く花を厳選する。
たくさん植えられた花の中から、ルイスは長い時間をかけて一輪を選ぶと、アルレットのもとへ戻ってきた。
「アルレット、手を……」
ルイスがアルレットの手のひらにのせたのは、純白の花だった。
「ありがとうございます、ルイス様」
アルレットは嬉しくなって、受け取った花を胸に抱いた。
それからふと思い立ち、アルレットは椅子から立ち上がると、自分もまた花を一輪摘んで戻る。
そして、その花をそっとルイスへと差し出す。
ルイスの摘んだ花と同じ、純白の花だ。
ルイスは、目を瞠った。
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