交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
34 / 40
第2章

15

しおりを挟む
あの日、森を彷徨い一晩野宿をして過ごした。その後リアスとオスクは無謀だと感じながらも城へと向かった。

城へと辿り着いたものの、まさか正門から堂々と乗り込む訳にも行かないので取り敢えず物陰から隠れて様子を伺う。無論正門には2人門番がおり壁も少し高めに設定されている為身動きが取れない。

「リアスさん…どうやって侵入するんですか…」

オスクは大分弱気になりながらリアスを見遣る。

「……登るしかないだろう」

「え…」

暫しの間がありリアスはそう言った。オスクは率直過ぎる言葉に制止する。白昼堂々と壁をよじ登り城内に侵入するなど直ぐに見つかって終いに決まっている。自殺行為も甚だしい。

「流石にそれは、その不味いんじゃ…」

昨夜、レーヴァンに捨てられたとリアスは嘆いていた。まさか自棄やけになってるんじゃ…オスクは焦った。まだ死にたくない。死ぬにしてもこんなしょうもない死に方は嫌だ…。

白昼堂々と壁をこそ泥よろしくよじ登り捕まり打首…余りに滑稽で情けない。せめて騎士の端くれらしく闘って15年の生涯を終えるくらいはしたい。

「仕方がないだろう…他に方法はない」

いやいや、もう少しちゃんと考えましょうよ!何故無駄に自信満々なのだろうか…オスクは心の中で突っ込みを入れた。直接言えない自分が情けない所だ。

「せめて暗くなるまで待つか…あ」

門の中へ入る馬車にオスクは目をつけた。どうやら食料などを積んでいる様だ。あれを上手く利用すれば…。オスクは思案してリアスに提案しようとしたが、いない。

「リアスさん⁈」

リアスは物陰を隠れて歩いて行ってしまう。オスクは急いで後を追った。暫く歩くとリアスは立ち止まり辺りを見渡すと…オスクはその時嫌な予感がした。

「えっ!あ、ちょっと‼︎リアスさん⁈」

見張りの兵士がいない事を確認するとリアスは徐に走り出し壁に…ペタっと張り付いた。

「リアスさん‼︎不味いですよ!一旦落ち着きましょう⁈」

オスクは慌ててリアスを壁から剥がそうとするが…剥がれない。オスクは必死だ。

「そこで、何をしてる」

その時背後から男の声が聞こえてオスクは身体をびくりと震わせる。ゆっくり振り返り…オスクは剣を抜いた。







リアスとオスクは男の背後を歩いている。

「それにしても驚いた。まさか白昼堂々と壁をよじ登る者がいるとはな。ある意味称賛出来る」

冗談めかして話す男をオスクは訝しげに見ていた。この男は何者なのか。声を掛けられた時兵士かと思ったが、どうやら違うらしい。格好からして傭兵の様に見えるが…漂う雰囲気が傭兵に感じられない。兎に角怪しい。

男に笑いながら「私について来なさい」と言われた。あの状況だった故、取り敢えず男に付いて行こうと考えたが…リアスを壁から剥がせない。任務を遂行しなければとかアルレット様を救ってレーヴァン様にとか色々と言いながら兎に角壁に引っ付く。

意外にも困り果てたオスクの代わりに、男がリアスを壁から引き剥がしてくれた。

オスクはリアスを横目で伺うも何やら独り言を呟いている。…かなり病んでる様子だ。…深いため息を吐いた。

「よし、君達は馬は乗れるか」

男は街外れまで来るとそう言った。小さな小屋の隣にある馬小屋。男の言葉にオスクは頷いた。

「生憎馬は2頭しかいない。君達には2人で乗って貰う」

オスクとリアスは男に言われるがままに従い馬に跨る。リアスは全く機能しない故オスクが手綱を握った。何処へ行くのか分からないが、あのまま壁を登り兵士に見つかり捕まるよりはマシな気がした。

オスクに人を見る目があるかと言われたら、否としか答えられないが…この男がどうしても悪い人間には見えなかった。本能的に付いて行った方が良いとも感じている。何故だかは分からないが。










「大丈夫?疲れちゃったかな」

青年はアルレットを抱きかかえる様にして自分の前に乗せていた。城から一晩中走り続けて、空が白み始めている。アルレットの体力は限界に近い様子だった。

「ごめんね、もう少しかかるんだ。僕に体重かけて少し眠るといいよ」

青年は一旦その場に止まると、うとうとしているアルレットを自分へ抱きつかせ落ちない様に紐で自分とアルレットを縛る。

「おやすみ」

優しく頭を撫でると青年は再び走り出す。仲間は速度を落とし青年を先で待っていた。

「お待たせ」

アルレットはゆっくりと眠りに落ちていく。この青年について来てしまって本当に良かったのだろうか。悪い人には思えないが…迷いはあった。だがあのまま1人であの場にいた所でサロモンやセブランに見つかり再び捕まるだけだ。ならば一か八かで青年に付いて行った方がマシな気がした。

おやすみ。

優しい手と優しい声。何故だがとても落ち着いた。こんな心地は初めてで…とても不思議な感覚だった…。


それから目的地に辿り着いたのはその日の昼前くらいだった。途中川辺で馬に水を飲ませたりして休息を取ったが、その間もアルレットは眠ったままでいた。その安心した寝顔に、青年からは笑みが溢れた。






しおりを挟む
感想 1,475

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。