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第2章
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舞踏会の始まる数刻前。
「サロモン様、そろそろ準備がございますので…」
朝からずっとアルレットの元を訪れているサロモンに、舞踏会の支度の為侍女が2人部屋へと入って来ると声を掛ける。
「あぁ、そうだね」
サロモンはまるでお気に入りのぬいぐるみの如く、自身の膝の上にアルレットを乗せ背後から抱き締めている。その様子に侍女は軽蔑する様な顔でサロモンを見遣る。
「名残惜しいけど行かないとね…でも楽しみだよ、アルレットの着飾った姿」
ちゅっ。
サロモンはアルレットの頸に軽く口付けを落とし、そっとアルレットを膝から下ろした。アルレットは頸を手で押さえて顔を真っ赤にしている。
「本当は僕の為だけに着飾って貰いたいんだけど。…今日の所は兄さんに譲るしかないよね」
少し寂しそうに笑うサロモンはじゃあまた後でね、と言いながら部屋を後にした。アルレットはため息を吐き、困った様に笑みを浮かべると丁寧にお辞儀をした。
「失礼致します」
サロモンが行ったのを確認すると、侍女達は早速アルレットの支度に取り掛かる。先ずは湯浴みからだ。続き部屋の鍵を侍女は開け湯の準備をする。その間もう1人の侍女はクローゼットから予め用意されたドレスを数着取り出した。
「アルレット様、どちらに致しましょう」
アルレットは取り出された数着のドレスを眺めて思った。やっぱり…。形こそ違うがどれも金色だ。かなり派手で目立つ。正直選びたくない。アルレットは眉を寄せ悩むが返事が出来ない。
アルレットの様子に気付き侍女は苦笑いを浮かべる。
「此方は如何ですか?控え目ではありますがお似合いになるかと思います」
確かにこの中では控え目だ…。奇跡的に白を基調としており金との割合で言えば6対4くらいだろう。因みに他のドレスは9割が金色だ。アルレットは侍女の勧めたドレスに決めた。形も悪くない。余計な装飾などもついていないのでそれなりに動き易い筈だ。
「では、それでお願いします」
もうすぐ舞踏会が始まる時刻だ。支度を整えたアルレットは椅子に座り静かに待っていた。先程1人の侍女が出て行き今この部屋にはもう1人の侍女とアルレットの2人だけだ。そろそろ頃合いだろうか。
「まだ、時間はありますか?」
アルレットは待機している侍女に声を掛ける。
「はい。舞踏会が始まりましても陛下からお声が掛かる迄は部屋で待機する様にとの事ですので」
アルレットの出番はきっと舞踏会の中盤と言った所だろう。ある程度賑わいを見せた所で本日の1番の見せ場を作る、そんな所だろう。
「では…お茶を淹れて貰えませんか?喉が渇いてしまって」
「かしこまりました」
侍女はアルレットの言葉を受け部屋を出ようとした。
「あ、後…少しお腹が空いてしまって。何か頂けますか?出来たら温かいものを。身体が冷えてしまうといけませんので…」
アルレットは申し訳なさそうに眉を寄せた。侍女はその姿に快く返事をして部屋を出て行った。
ガチャッ。
侍女が行ったのを確認したアルレットは内側から扉の鍵を閉めた。少しでも時間を稼ぐ為に温かいものを頼んだ。今頃厨房は舞踏会用の軽食の準備に追われている筈だ。その中で温かい物を用意するには時間がかかる。暫くは侍女は戻らない。今しかない。
アルレットはベッドのシーツを引っ張り、持てる力を使い割いていく。割いたシーツ同士を確りと結ぶ。
「まだ足りない…あ、そうだ、カーテン」
これではまだ長さが足りない。アルレットはカーテンに目を付け体重を掛け引っ張るとカーテンが取れた。それを先程のシーツと繋ぐと、簡単なロープの出来上がりだ。
やや耐久性に問題がありそうだが贅沢は言えない。今のこの状況で用意出来る精一杯だ。アルレットは窓を開けバルコニーに出ると、手すりに作った布のロープを縛り付けた。
アルレットは下を覗く。意外と風が吹いており暗闇に包まれ視界も悪い。…アルレットは思わず息を呑む。正直怖い。
此処は3階だ…落ちたとしても多分…死にはしないと、思う。いや打ち所によっては死に至るかも知れない…。
でも、今日正妃としてお披露目をされてしまったらもう自国へと帰れなくなってしまう。国に未練があるかと聞かれたら何とも言い難いが…。
「レーヴァン様…」
彼に逢いたい。逢って自分の胸の内を伝えたい。ルイスともちゃんと向き合って話をしなくてはならない。そう、まだ私は何もしていないのだから。帰らなくてはならない。
「逃げなくちゃ…」
アルレットは小瓶を取り出してぎゅっとキツく握り締め瞳を伏せた。
「レーヴァン様…私必ず帰ります」
意を決してアルレットはロープに手を掛けた。ロープにしがみつき感じた。私ってこんなに重いのね…思った以上に自身が重いと感じた。アルレットは普通より細身だが、非力の為体重を支える事が難しい。
ど、どうしようっ…宙に浮いた状態のままでこれ以上動けない。…早くも我慢の限界だった。手に力が入らない。震えてしまって…。
「え⁈あっ‼︎…きゃあぁぁぁぁー‼︎‼︎」
ロープから手を離してしまったアルレットは悲鳴を上げながら下へと落ちていった。目をぎゅっと瞑る。もうダメだ。死んでしまう。こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてだな。そんなどうでも良い事が頭に浮かびアルレットは衝撃に備えてたが。
ぼふっっ‼︎‼︎。
衝撃はあったが痛くない。アルレットは不信に思いゆっくりと目を開ける。すると…そこには驚いた顔をした青年がいた。
「サロモン様、そろそろ準備がございますので…」
朝からずっとアルレットの元を訪れているサロモンに、舞踏会の支度の為侍女が2人部屋へと入って来ると声を掛ける。
「あぁ、そうだね」
サロモンはまるでお気に入りのぬいぐるみの如く、自身の膝の上にアルレットを乗せ背後から抱き締めている。その様子に侍女は軽蔑する様な顔でサロモンを見遣る。
「名残惜しいけど行かないとね…でも楽しみだよ、アルレットの着飾った姿」
ちゅっ。
サロモンはアルレットの頸に軽く口付けを落とし、そっとアルレットを膝から下ろした。アルレットは頸を手で押さえて顔を真っ赤にしている。
「本当は僕の為だけに着飾って貰いたいんだけど。…今日の所は兄さんに譲るしかないよね」
少し寂しそうに笑うサロモンはじゃあまた後でね、と言いながら部屋を後にした。アルレットはため息を吐き、困った様に笑みを浮かべると丁寧にお辞儀をした。
「失礼致します」
サロモンが行ったのを確認すると、侍女達は早速アルレットの支度に取り掛かる。先ずは湯浴みからだ。続き部屋の鍵を侍女は開け湯の準備をする。その間もう1人の侍女はクローゼットから予め用意されたドレスを数着取り出した。
「アルレット様、どちらに致しましょう」
アルレットは取り出された数着のドレスを眺めて思った。やっぱり…。形こそ違うがどれも金色だ。かなり派手で目立つ。正直選びたくない。アルレットは眉を寄せ悩むが返事が出来ない。
アルレットの様子に気付き侍女は苦笑いを浮かべる。
「此方は如何ですか?控え目ではありますがお似合いになるかと思います」
確かにこの中では控え目だ…。奇跡的に白を基調としており金との割合で言えば6対4くらいだろう。因みに他のドレスは9割が金色だ。アルレットは侍女の勧めたドレスに決めた。形も悪くない。余計な装飾などもついていないのでそれなりに動き易い筈だ。
「では、それでお願いします」
もうすぐ舞踏会が始まる時刻だ。支度を整えたアルレットは椅子に座り静かに待っていた。先程1人の侍女が出て行き今この部屋にはもう1人の侍女とアルレットの2人だけだ。そろそろ頃合いだろうか。
「まだ、時間はありますか?」
アルレットは待機している侍女に声を掛ける。
「はい。舞踏会が始まりましても陛下からお声が掛かる迄は部屋で待機する様にとの事ですので」
アルレットの出番はきっと舞踏会の中盤と言った所だろう。ある程度賑わいを見せた所で本日の1番の見せ場を作る、そんな所だろう。
「では…お茶を淹れて貰えませんか?喉が渇いてしまって」
「かしこまりました」
侍女はアルレットの言葉を受け部屋を出ようとした。
「あ、後…少しお腹が空いてしまって。何か頂けますか?出来たら温かいものを。身体が冷えてしまうといけませんので…」
アルレットは申し訳なさそうに眉を寄せた。侍女はその姿に快く返事をして部屋を出て行った。
ガチャッ。
侍女が行ったのを確認したアルレットは内側から扉の鍵を閉めた。少しでも時間を稼ぐ為に温かいものを頼んだ。今頃厨房は舞踏会用の軽食の準備に追われている筈だ。その中で温かい物を用意するには時間がかかる。暫くは侍女は戻らない。今しかない。
アルレットはベッドのシーツを引っ張り、持てる力を使い割いていく。割いたシーツ同士を確りと結ぶ。
「まだ足りない…あ、そうだ、カーテン」
これではまだ長さが足りない。アルレットはカーテンに目を付け体重を掛け引っ張るとカーテンが取れた。それを先程のシーツと繋ぐと、簡単なロープの出来上がりだ。
やや耐久性に問題がありそうだが贅沢は言えない。今のこの状況で用意出来る精一杯だ。アルレットは窓を開けバルコニーに出ると、手すりに作った布のロープを縛り付けた。
アルレットは下を覗く。意外と風が吹いており暗闇に包まれ視界も悪い。…アルレットは思わず息を呑む。正直怖い。
此処は3階だ…落ちたとしても多分…死にはしないと、思う。いや打ち所によっては死に至るかも知れない…。
でも、今日正妃としてお披露目をされてしまったらもう自国へと帰れなくなってしまう。国に未練があるかと聞かれたら何とも言い難いが…。
「レーヴァン様…」
彼に逢いたい。逢って自分の胸の内を伝えたい。ルイスともちゃんと向き合って話をしなくてはならない。そう、まだ私は何もしていないのだから。帰らなくてはならない。
「逃げなくちゃ…」
アルレットは小瓶を取り出してぎゅっとキツく握り締め瞳を伏せた。
「レーヴァン様…私必ず帰ります」
意を決してアルレットはロープに手を掛けた。ロープにしがみつき感じた。私ってこんなに重いのね…思った以上に自身が重いと感じた。アルレットは普通より細身だが、非力の為体重を支える事が難しい。
ど、どうしようっ…宙に浮いた状態のままでこれ以上動けない。…早くも我慢の限界だった。手に力が入らない。震えてしまって…。
「え⁈あっ‼︎…きゃあぁぁぁぁー‼︎‼︎」
ロープから手を離してしまったアルレットは悲鳴を上げながら下へと落ちていった。目をぎゅっと瞑る。もうダメだ。死んでしまう。こんなに大きな声を出したのは生まれて初めてだな。そんなどうでも良い事が頭に浮かびアルレットは衝撃に備えてたが。
ぼふっっ‼︎‼︎。
衝撃はあったが痛くない。アルレットは不信に思いゆっくりと目を開ける。すると…そこには驚いた顔をした青年がいた。
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