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第2章

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レーヴァン達は今宵開かれる城での舞踏会へ行く準備を整えていた。手に入れた招待状は全部で3通だ。故にレーヴァンだけでなくグラシアノやモデストも参加する為、正装をしなければならない。

事前に用意してあった衣装に着替える3人。レーヴァンが違和感がないのは当たり前の事だが、グラシアノとモデストは正装など今までする機会などはほぼなく違和感しかない。なんとなく落ち着かない。…しかも支度するだけでかなり手間取ってしまっている。

レーヴァンも普段は執事であるヨゼフに支度は任せていた為に少々手間取ってしまったが、そこは器用なレーヴァンだ。あっという間に要領を得て着替え終わっていた。

だがグラシアノとモデストは普段の簡単な作りの服とは構造が違う為に、未だに苦戦している。

「これは…なんだ。何故こんなにボタンがある…」

「確か…この襟元の…」

まだ時間は優にある為、レーヴァンは苦戦する2人を余所に高みの見物をしていた。店主にお湯を貰いお茶を淹れ優雅に飲んでいる。以前からレーヴァンは郊外などに出かける事が少なからずあった事で、自分である程度こなす事が出来る。お茶くらいならお手の物だ。

レーヴァンはお茶を啜りながら。あぁ、そうだ。アルレットを取り戻したら彼女にもお茶を淹れてあげようと思った。彼女が驚き喜ぶ姿が目に浮かぶようで、レーヴァンの顔は思わず綻ぶ。

「このボタンは何処に…穴がない…」

懸命にボタンを引っ張るモデスト。ボタンが取れそうだ…。

「それ飾りじゃないかな?そんな事も分からないの」

グラシアノはにやにや笑うが自身もまだ着替え終わった訳ではない。

「お前こそ襟元が可笑しいぞ。ボタンもズレている…」

「…分かってるよ」

レーヴァンは2人を放置して、アルレットとお茶を愉しむ様子を想像して1人笑みを浮かべお茶を啜っていた。






あれから、どうにか準備は整いレーヴァン達は馬車に乗り込む。流石に徒歩で城まで行く訳には行かないので、店主に頼み馬車を手配して貰った。



道中、レーヴァンは窓の外を眺めていた。果たしてアルレットを見つけ出す事が出来るだろうか。今までどんな場面でもレーヴァンは自信に溢れ不安などに囚われる事など1度として無かった。だが今この瞬間レーヴァンの心は不安に支配されどうしよもなく落ち着かない。

これまで考えないようにしていたが、今は最悪の事態ばかりが頭を過る。ようやく此処まで辿り着いたが…もしかしたら、彼女は既に殺されているかも知れない。もう2度とあの笑顔を見る事は叶わないかも知れない…。下らない妄想だ。彼女は、無事だ。絶対に。

『レーヴァン様』

レーヴァンは懐からハンカチを取り出すと、唇をそっとそれに寄せた。

アルレット…。

必ず君を連れて帰るからね。







程なくして馬車は城に到着すると、正門付近は沢山の馬車が順番待ちをしていた。

「今日は人が凄いですわね」

「それはそうですよ。何しろ『王の花嫁』を遂に妃に迎えるそうですからね」

「今夜の舞踏会は特別だ。皆挙って来ている。野次馬ばかりだ。かく言う私もだがな」

レーヴァン達が馬車から降りた途端、周囲からは似たような内容の話し声が聞こえて来た。

『王の花嫁』とは何の事だ。レーヴァンは訝しげな表情を浮かべた。グラシアノやモデストも聞きなれない言葉に眉を潜める。

そして舞踏会の会場である大広間へと入るとそこは。

「眩しい…」

多分初めて訪れる者は皆同じ感想を持つだろう。何しろ天井から床、壁、窓縁…無論玉座までもが全てが金、金、金…。

レーヴァン達は宿を思い出した。此処もか…。この国は一体どうなっている…。

宿で大分目は慣れていたが、それでもかなり眩しい。周囲を見ると皆特に気に留めていない様子だ。慣れているからか…いや寧ろこれが当たり前なのかも知れない。

郷に入れば郷に従え。これがこの国の常識なのだろう。慣れるしかない。複雑な心境ではあるが…。

「取り敢えず、喉を潤そうか」

レーヴァンは怪しまれない様に適当にグラスを手にして口を付ける。あくまでも招待客として振る舞わなくてはならない。グラシアノとモデストもレーヴァンに倣いグラスを手にした。

壁際に寄り周囲を観察する。舞踏会はまだ始まったばかりだ。数刻もすれば皆踊り疲れたり飽きたりしてバラけてくる。酒に酔う者達も増え、酔い醒ましに外に出る者もいるだろう。そうすれば大分動き易くなる。それまでは大人しく目立つ行動は慎むのが最良だ。

とレーヴァンは考えていたが、甘かった。

「ねぇ、あの殿方素敵だわ」

「何方かしら」

特に何をしている訳ではないが、女性達からの視線が熱い。皆一様にレーヴァンを見ているのが分かる。スラリとした立ち姿に銀色髪、蒼い瞳の美青年。何もしなくともかなり目立っていた。

その事にグラシアノは気付いてレーヴァンに耳打ちをする。

「レーヴァン様、かなり目立ってます。どうにかなりませんか」

「…グラシアノ。君僕にどうしろと言うの」

極力目立たない様に壁際に寄り立っているだけなのに、これ以上どうしろと言うのか。レーヴァンは複雑な顔をした。自分でも女性から好意を持たれ易い事は自負しているが…別に好き好んでモテている訳ではない。レーヴァンがモテたいのはアルレットにだけだ。

「何か、顔を隠せるものがあれば…」

「これならあるぞ」

グラシアノの言葉にモデストは懐からマスクを取り出した。グラシアノはこれだっと思いレーヴァンに差し出すが。

「君達ふざけてる訳?仮面舞踏会でもあるまいし逆に目立つし、こんな悪趣味なマスク付けたら変質者だと思われるよ」

モデストが出してきたマスクはかなり趣味が悪かった。一体いつ手に入れたのだろうか…。

レーヴァンは笑みを浮かべてはいるが、額には怒りで皺が寄っている。

「す、すみません」

そんなやり取りの中不意に声を掛けられた。

「レーヴァン」

声の方へ視線を動かすとそこにはあの時の…ローサが立っていた。その姿を確認したレーヴァンは一瞬目を見開くが直ぐに鮮やかに笑った。

「見違えたよ、ローサ」







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