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第2章

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国境まではどんなに急いでも5日は掛かる。レーヴァン達が城を出て今日で7日目。ようやく国境付近まで到達した。

「本当なら5日で着く筈が、2日も過ぎてしまったじゃないか」

リアスは態とらしくため息を吐くとオスクを睨んだ。どうもリアスはオスクが気に入らないらしく、ずっとこの調子だ。

「すみません。僕の所為で遅くなってしまって…」

オスクはレーヴァンやリアス達に比べて馬の駆ける速度が段違いに遅かった。騎士団内では特に気にならなかったが、こうやってレーヴァン達と比べると如何に自分の実力が低いと言う事を思い知らされた。

これが、影の騎士団…。分かってはいたが、オスクはやはり1人だけ足手纏いと感じてしまい気落ちせざる終えない。

「途中雨に降られたし、しょうがないよ。リアス、余り意地悪言っちゃダメだよ」

2人のやり取りを見兼ねたグラシアノが割って入る。道中2日間程雨に降られ、足場が泥濘みその影響もあり余計に時間が掛かってしまったのは確かに事実だった。

「雨如きでこれじゃあ、先が思いやられるね。余り足を引っ張るような…痛っ⁈」

リアスが更に悪態を吐こうとした時頭を拳で殴られた。

「モデスト…」

「いい加減にしろ。お前が1番足を引っ張っているだろうが」

珍しくモデストが喋っている。しかも少しご立腹の様子。オスクは自分が言われている訳ではないのに、息を飲み怯える。

レーヴァンはその様子を少し離れた場所で見ていた。この面子ではやはり連携を取るのは厳しいかも知れない。人選を間違えたか…。本来ならばリアスは連れて来るつもりでは無かった。腕はそこそこ立つが性格に難があり過ぎる。

上流貴族出身であり気位が無駄に高い。レーヴァンの命令には絶対服従を見せるが、他の団員とは馬が合わない。

だが、ルイスの屋敷襲撃の時に何時も使っていた団員ら2人が負傷し連れて来るのは無理だった。他の団員達も元々の任に当たっている為外せない。故に手の空いているリアスしか居なかった。

「リアス、仲良く出来ないなら君には此処で外れて貰う事になるけど…どうする?」

レーヴァンは先を急ぎたいが、此れでは進まない。ならば実力行使に出るしかないな。痺れを切らしたレーヴァンの言葉にリアスは大人しくなり黙り込む。

「行くよ」

レーヴァンは笑みを浮かべてはいるが目は笑っていない。

「申し訳ございません」

囁く様にリアスは謝罪を述べた。レーヴァンに叱られた事でかなり落ち込んでいる様子のリアス。まだまだ子供だ。




程無くして着いた先はある屋敷だった。

「レーヴァン様、お久し振りで御座います」

物腰の柔らかい男性がレーヴァン達を出迎えてくれた。

「久しいね、ヘルマン」

ヘルマンと呼ばれた男性はこの屋敷の主人であり、この辺り一帯を統治する辺境伯だ。

「先日の失態、全く弁解の余地もございません。どんな処分も甘んじて受ける所存で御座います」

ルイスの屋敷の襲撃犯を取り逃がした事を言っているのだろう。レーヴァン直属の配下が追跡したが、無論それとは別に普段から国境付近を警護しているのが当たり前だ。ヘルマンは報告を受け直ぐに兵を向かわせたが上手く交わされ逃げられてしまった。

言い訳になってしまうが襲撃犯の手には少女がおり迂闊に攻撃をする事が出来ず、中々手出し出来ないまま取り逃がした。だが取り逃がした責務は国境域を任されている辺境伯であるヘルマンにある。

「良い心がけだね。…でも、今回は此方にも落ち度があるから必要ない」

レーヴァンの意外な言葉にヘルマンは深々とお辞儀をした。

「寛大なる御処置感謝致します」

「それで、お願いがあるんだ」

レーヴァンの唐突な言葉に、ヘルマンは快く了承をして部屋を出て行った。









「これって、傭兵の装備だね」

グラシアノはヘルマンが用意した装備品を身に付けた。数刻前、レーヴァンはヘルマンに「隣国に行く準備をお願いしたいんだ」と言った。

「こんな安物の装備で大丈夫なのか…そもそも傭兵などの格好をどうして僕が」

「でも良く似合ってるよ。自信を持って、リアス」

グラシアノの言葉に顔を赤くして奮起するリアス。隣では全く違和感のないオスクとモデストが立っている。

「皆良く似合ってるね。良かったよ」

この中で1番似合いそうもないレーヴァンだが、意外と着こなしている。美青年で爽やか風だが、違和感がない。何を着ても似合う所は素晴らしいとグラシアノ達は思った。

「皆様、如何でしょうか」

ヘルマンは部屋に入るなり次いで「ご清聴下さい」と話し、咳払いをした。

「主題を発表致します」

ヘルマンの意外過ぎる言葉に部屋は静まり返った。

主題…?なんだそれは…。


「主題は『旅する傭兵の5兄弟』でございます。
貧乏な家に生まれた5人兄弟は両親を早くに亡くし、肩を寄せ合い生きて参りました。
5人は生きる為に傭兵となり各地を転々とし生活をしておりまして…内乱が未だ続いております隣国へ傭兵の仕事を求め5兄弟は隣国へと参じます」

涙ながらに力説を終えるヘルマン。見掛けは紳士で穏やかな風貌だが、中身は少し難ありだと思う。

一体何の話だ⁈とその場の誰もが突っ込みたかった。そもそもその設定は厳しいし、設定を設ける必要などあるのだろうか。静まり返る中沈黙を破ったのは意外にもレーヴァンだった。

「成る程ね、良いねそれ。そうしよう」

レーヴァンの言葉にグラシアノ達は信じられないモノでも見る様な顔をする。やはりレーヴァンも変わり者だった。

モデスト、長男。グラシアノ、次男。レーヴァン、3男。オスク、4男。リアス、5男。

「兄が2人に弟が2人。賑やかだね。そう思うよね、グラシアノ兄さん?」

そう言うとレーヴァンは笑った。明らかに楽しんでいる。それにしてもレーヴァンの適用能力の高さには誰もついていけない。レーヴァンの凄さを感じた瞬間だった。…そして翌朝。

「ヘルマン、僕のを頼むね」

「お任せ下さい。確りとお世話させて頂きます」

レーヴァン達はヘルマンの屋敷で一晩泊まり、用意して貰った馬車に乗り込むと街へと向かった。 

「あの、シオンとはどなたなんですか?」

オスクはこっそりとグラシアノに尋ねてみた。

「あぁ、レーヴァン様の愛馬の名前だよ」

何だ、あの白馬の名前か…それにしても変わった名前だなぁとオスクは思った。




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