上 下
70 / 81

69

しおりを挟む
流石に普通サイズの馬車に、人間五人と獣二匹で乗ると少々狭く感じる。

「あ、あの……ヴィレーム様」

「ん?」

「恥ずかしいのですが……」

ヴィレームは、狭いからと言う理由でフィオナを自らの膝の上に乗せた。

「ほら、この人数だと狭いし。それにアトラスだってブレソールの膝に乗っているし。全然恥ずかしい事じゃないよ」

ヴィレームは、至極当然とばかりに満面な笑みで話す。
彼の言葉にブレソールを見ると、確かにアトラスを膝に乗せている。何故飼い主であるシャルロットではなく、ブレソールの上かと言うと、シャルロット曰くデカくて重いから潰れる、からだそうだ。ただブレソールは下に見られているのか、アトラスは偉そうにふんぞり返りながら座っている。

「アトラスは、鳥ですからっ」

それに、そもそもおかしい。正面を見ると、フリュイは一人分の席を占領しているし、その隣のオリフェオなど二人分の席を占領していた。その向かい側には四人と一匹で座っていると言うのに……この差は一体……。

「もしかして……僕にこういう風にされるの、嫌だった?」

眉根を寄せしゅんとなるヴィレームに、フィオナは言葉が詰まる。
そう言う聞き方も、その顔もズルい……。そんな風に言われたら、嫌なんて言える筈がない。

「嫌、じゃない……です」

きっと今顔は真っ赤になっていそうだ。フィオナは熱が一気に顔に集まるのを感じた。








「成る程。それはまた興味深いですね、ヴィレーム様?」

程なくして、屋敷に帰宅したフィオナ達は早速ことの経緯をヴィレーム達にも話した。するとクルトが眉を上げる。

「……心臓だけが抜き取られていたと聞いた時から、嫌な感じはしていたんだ」

ヴィレームは意味ありげに話している。何かを知っているのだろう。

「フィオナ、君の弟はきっと……」

そこまで言うと、言い辛いのか口を閉じてしまった。

「勿体ぶらないで、さっさとお話しなさいませ」

シャルロットが急かすが、ヴィレームは黙りだ。その様子を見たクルトはため息を吐く。

「フィオナ様の弟君は、古代魔法を使っているかと思われます」

「古代魔法?」

「はい。古い文献で見た記憶があります。魔力は生物の心の臓に集まるとされ、それを食らえば相手の魔力を自らの身体に取り込む事が出来ると。ただ、古代魔法は危ういものが多く、我が国でもそうですが、大半の魔法を扱う国々では、古代魔法は今は禁止されております。ただ、それをどの様な経緯で知ったのかは分かりませんが……」

魔法を実際に目の当たりにした今でも信じ難いのに、更に古代魔法?もう何がなんだか分からない……。フィオナは頭がついていかず困惑する。ただ分かる事は一つだけある。ヨハンが古代魔法なるものを使い、学院の生徒等の心臓を抜き取り……そして。

「心臓を、ヨハンが……食べ、た……?」

余りの事実に、目眩がする。全身が煩いくらいに脈打ち、冷たい汗が伝うのを感じた。

「フィオナ」

足元がフラついた。するとヴィレームに肩を抱かれ、引き寄せられた。何時もならばそれだけで安心が出来て、動揺や不安などは吹き飛ぶ。だが、今は無理そうだ。

「ヴィレーム、さまっ……弟が、ヨハンがっ、心臓をっ」

縋り付く様にして、彼に身を寄せる。

「フィオナ、落ち着いて」

落ち着かせる為に、彼が優しく背や頭を撫でてくれる。心地が良い……だが動悸は治まりそうにない。その為、フィオナが落ち着くまで暫し話は中断された。

ーもう直ぐ、手に入る予定だから……ー

ふと、あの時のヨハンの言葉が蘇る。フィオナはハッとした。あれは一体どういう意味だったのか……。また誰かを殺めるつもりなのか……肌が一気に粟立つ。そして、少し冷静さを取り戻した。

「ヴィレーム様……ヨハンが……もう直ぐ手に入るから大丈夫って、話してたんです。その時は何の事か分からなかったんですが、また誰かを殺めて心臓を……」

「彼は今何処に」

ヴィレームが眉根を寄せる。

「屋敷に帰ったんじゃないか?休校になったしな」

ブレソールが話すには、ヴィレームとブレソールが屋敷を出た時、丁度学院からの通達を受け取ったそうだ。だから今朝、幾ら何時もより早かったといえ生徒が誰も居なかったのかと、フィオナは合点がいく。そこで、そう言えば……と思った。

「オリフェオ殿下は、休校になった事は知らなかったんですか?」

フィオナ以外にいた生徒はヨハンを除けばオリフェオだけだ。

「最近はかなり早く登院していたからな。知らせは知らん。……犯人を見つけてやるつもりだったが、まさか自分だったとはな。笑えない話だ」

オリフェオは淡々と話し鼻を鳴らす。その言葉に、フィオナの心臓が跳ねた。気が動転していたとは言え、オリフェオに話す事ではなかった……。確かにオリフェオは、身体を乗っ取られていた。本来なんの責任も罪もない。だが、本人にしてみたらそんな簡単な話では済まないだろう。何しろ自分の身体を使い殺人をさせられていたのだ。しかもその中には、彼にとって大切な友人も含まれている……。その友人の無念を晴らそうと、犯人を自ら探していた結果がこれだ。

完全に配慮が足りなかった。自分の事ばかりで、なんて酷い人間だろう……フィオナは、唇を噛む。

「申し訳、ございません……私が、お話したばかりに……」

「乗っ取られたとはいえ、私の身体を使ったんだ。私には知る権利がある。お前の謝罪はいらん。寧ろ、知らせないで後から知る事になっていたら、ただでは済まなかったがな」

以前は王族なんて傲慢で我儘、人から指図される事が嫌いで、人の意見を聞かない、などと考えていた。確かに口も態度も悪い。だが彼は優しく思い遣りもあり、強い人だとフィオナは思い直し感嘆した。



しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~

岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。 本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。 別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい! そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる
恋愛
[完結] 北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。 ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。 アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。 森に捨てられてしまったのだ。 南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。 苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。 ※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。 ※完結しました。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

お城で愛玩動物を飼う方法

月白ヤトヒコ
恋愛
婚約を解消してほしい、ですか? まあ! まあ! ああ、いえ、驚いただけですわ。申し訳ありません。理由をお伺いしても宜しいでしょうか? まあ! 愛する方が? いえいえ、とても素晴らしいことだと思いますわ。 それで、わたくしへ婚約解消ですのね。 ええ。宜しいですわ。わたくしは。 ですが……少しだけ、わたくしの雑談に付き合ってくださると嬉しく思いますわ。 いいえ? 説得などするつもりはなど、ございませんわ。……もう、無駄なことですので。 では、そうですね。殿下は、『ペット』を飼ったことがお有りでしょうか? 『生き物を飼う』のですから。『命を預かる』のですよ? 適当なことは、赦されません。 設定はふわっと。 ※読む人に拠っては胸くそ。

処理中です...