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ピッ、ピッ……。

弱々しく鳴きながら、必死に飛ぶムーム。身体には紐をつけられ、その先をシャルロットが確りと離すまいと握っている。しかも、尾っぽが少し焦げている……。可哀想だが、ムームにも落ち度がある故、見守る他ない。それに、興奮状態にあるシャルロットにこれ以上何か言おうものなら、ブレソールまで文字通り熱い思いをしそうだ……。ムームの様に尻に火をつけられたら堪ったもんじゃない。



「ほら、確りなさいませ!フィオナちゃんを探しなさい!」

ピ、ピ……。

フラフラと低空飛行するムーム。飛び辛そうだ……。

「お、おい、シャルロット……」

暫く黙って見守っていたが、やはり飼い主として可哀想で見ていられない。覚悟を決めて、口を開く。

「何かしらぁ?何かご不満でもあるのかしらぁ?」

振り返ったシャルロットは、未だ怖いくらいの笑みを浮かべていた。思わずゴクリと喉を鳴らす。

「あ、あのさ……ムームも反省してるし、せめて紐は外してやってくれないか」

「紐を外したら絶~対、逃げますわよね?先程、ちょっと油断した隙に逃げ出そうとしてましたわよねぇ?」

確かに、それはごもっもだ。ムームに探させようとシャルロットが一瞬ムームから手を離した。するとムームは目を輝かせ羽をバタつかせると飛び上がり逃走しようとした……。だが、シャルロットはそうはさせまいとボッ‼︎と尾っぽに火をつけたのだ。

「ど~こ~が、反省してるのかしらぁ?本当、どこかの飼い主にそっくりですわ」

ジト目で見られる。

「…………は、早くフィオナ嬢を探さないと、昼休み終わっちゃうぞ!ハハ」

乾いた笑いで誤魔化した。






◆◆◆


どうしよう……。

フィオナは前を歩いているオリフェオの背を眺めながらため息を吐く。思わずついて来てしまったが……どうすればいいのか分からない。


少し前。
フィオナの隣に勝手に座り黙り込むオリフェオは、聞いてもいないのにこれまた勝手に語り出した。

『私には……親友がいるんだ』

『え、あの……そうなんですね』

いきなり話し出した事にも驚いたが、彼に友人がいるという事実にも驚いた。オリフェオの事は全く知らないが、ダンスパーティーの時の彼の振る舞いを見れば、大方の性格は予想出来る。傲慢で我儘、人から指図される事が嫌いで、人の意見を聞かない……そんな所だろう。所謂フィオナが思っている王族のイメージそのものだ。王族などに嫁ぐ女性はきっと大変だろうと予々思っている。

そう言えば妹のミラベルは、あの時オリフェオと一緒にいたが、どういった関係なのだろうか……まさか、婚約などの話が出ているとか……。そこまで考えて、先日ミラベルがヴィレームと結婚すると言い出した事を思い出し、考え直す。

話は逸れたが、そんな人に親友と呼べる方がいらっしゃるんですね、と失礼な事を考えてしまった。

『その親友は、ニクラスと言うんだ』

オリフェオと会うのも二回目だと言うのに、更に彼の友人の名前を言われてフィオナは困惑する。こう言う場合、何と返すのが正解なのだろうか……相手は王子で、下手な事は絶対に言えない……。

『そうなんですね』

黙っている訳にもいかないので、取り敢えず当たり障りのない返事をする。

『ニクラスは、幼馴染でもあり長い付き合いなんだ』

『そうなんですね』

『気も合って、面白くて、凄くいい奴なんだ』

『そうなんですね』

フィオナは、思った。さっきからずっと「そうなんですね」としか言っていない。だが会話は成立している。ある意味凄い……。

『だが、今朝ニクラスが……』

先程からの彼の沈んだ様子を思うと、その友人とやらと仲違いでもしたのだろうかなどと、フィオナは呑気に考えたのだが……。

『死んだんだ』

『そうなん……え……』

予想だにしなかった言葉に俯き加減だった顔を上げ、フィオナはオリフェオを見た。



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