43 / 81
42
しおりを挟む
挨拶も終わり、もうここには用はない。ヴィレームはフィオナに帰ろうと促す。すると彼女は、自室に取りに行きたい物があると言うのでヴィレームはフリュイと共に応接間にて待つ事になった。
彼女を一人にするのは心配だったのだが、彼女から「直ぐ戻りますから、大丈夫です」と言われたので大人しく待っている。
彼女の両親等は、花嫁代を約束した時点で、もうこちらには用も興味もない様子で早々に退室した。本当に非常識な人間達だったと、呆れながら息を吐く。
故にこの部屋に居るのは、一人と1匹だけだ。
フリュイはヴィレームの隣で丸まって座り、片目を開けてこちらの様子を伺ってくるが別段何をする訳でもない。時折欠伸をして退屈そうにしている。
暫しフリュイと冷戦状態で大人しく待っていると、扉がノックされた。
直ぐにと言っても随分と早いなと、思いながら振り返ると入って来たのはフィオナではなく、見慣れない青年だった。
だがヴィレームには直ぐ分かった。彼がフィオナの弟のヨハンなのだと。
「初めまして、ご挨拶がおくれましたが僕はフィオナ・ヴォルテーヌの弟のヨハンです」
彼は人好きのする笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀をした。
ヨハンはヴィレームの向かい側に腰を下ろした。
「本当に、姉さんと結婚されるんですか」
眉を上げ驚いた表情をする。その様子からまだ少し幼さが残る印象を受ける。一言二言挨拶を交わした後、直ぐに本題に入った。
「ご両親方には、許可は頂く事が出来ましたので、そのつもりです」
そう言ってヴィレームはニッコリと微笑む。
「姉さんは……貴方と結婚したいと言っているんですか」
「勿論。今日挨拶に来たのは、彼女の意思でもあります」
ヴィレームがそう告げた瞬間、スッと彼の表情が変わる。
「……本当に?本当に姉さんが貴方と結婚したいって言ったの?貴方が姉さんを脅迫でもしてるんじゃないの」
穏やかな空気は、張り詰めたものに変わった。彼の『裏』の顔が見え隠れしている。
「そんな事をする意味はないよ。僕達は、互いに想い合っているからね」
その言葉に更に目付きが鋭くなった。
「じゃあ、そもそも貴方が姉さんと結婚したい理由は何?」
「彼女の事を愛しているから、では理由にならないかな」
ヨハンは、下らないと言わんばかりに、鼻を鳴らした。
「嘘だ。そんなの口では何とも言える。貴方は見てくれも悪くないし、伯爵家出身ではあるが、お金は随分と持っているらしいね。そんな人間がわざわざ醜女と呼ばれる姉さんを選ぶ理由がない。何か裏がある筈だ。あぁ、もしかして姉さんを自国に連れ帰って見世物にでもしたいとか?」
姉に執着している割には、随分な物言いだ。見下している様にしか聞こえない。ヴィレームは無性に腹が立った。
「僕の大切な人を、侮辱する言い方はやめてくれないかな」
「別に侮辱なんてしてないよ。ただ、あの醜い醜い姉さんを理解してあげるのも、愛してあげられるのも、この世で僕一人だけなんだ……」
恍惚とした表情を浮かべそう話すヨハンに、ヴィレームは眉根を寄せた。
「お前には、到底姉さんの事は理解出来ない。姉さんの事を分かってあげられるのはこの僕だけだ。知らない様だから教えてあげるけど、僕と姉さんは深い絆で結ばれているんだよ。お前の入る隙なんて微塵もないんだ。残念だったね、わざわざ挨拶にまで来たというのに、無駄足になって。分かったら御託を並べてないで、さっさと帰れよ。勿論一人でね。僕はこれから、お前に捨てられた可哀想な姉さんを、慰めてあげなくちゃいけないから忙しいんだ」
まるで鼻歌でも歌い出しそうな程、機嫌よく話す。
ヨハンは勝ち誇り、話は終わったとばかりに席を立つと、扉へ向かう。扉の前で一度止まると振り返り「姉さんは、僕だけのものだ。誰にも渡さない」暗い笑みを浮かべそう言った。
彼女を一人にするのは心配だったのだが、彼女から「直ぐ戻りますから、大丈夫です」と言われたので大人しく待っている。
彼女の両親等は、花嫁代を約束した時点で、もうこちらには用も興味もない様子で早々に退室した。本当に非常識な人間達だったと、呆れながら息を吐く。
故にこの部屋に居るのは、一人と1匹だけだ。
フリュイはヴィレームの隣で丸まって座り、片目を開けてこちらの様子を伺ってくるが別段何をする訳でもない。時折欠伸をして退屈そうにしている。
暫しフリュイと冷戦状態で大人しく待っていると、扉がノックされた。
直ぐにと言っても随分と早いなと、思いながら振り返ると入って来たのはフィオナではなく、見慣れない青年だった。
だがヴィレームには直ぐ分かった。彼がフィオナの弟のヨハンなのだと。
「初めまして、ご挨拶がおくれましたが僕はフィオナ・ヴォルテーヌの弟のヨハンです」
彼は人好きのする笑みを浮かべ、丁寧にお辞儀をした。
ヨハンはヴィレームの向かい側に腰を下ろした。
「本当に、姉さんと結婚されるんですか」
眉を上げ驚いた表情をする。その様子からまだ少し幼さが残る印象を受ける。一言二言挨拶を交わした後、直ぐに本題に入った。
「ご両親方には、許可は頂く事が出来ましたので、そのつもりです」
そう言ってヴィレームはニッコリと微笑む。
「姉さんは……貴方と結婚したいと言っているんですか」
「勿論。今日挨拶に来たのは、彼女の意思でもあります」
ヴィレームがそう告げた瞬間、スッと彼の表情が変わる。
「……本当に?本当に姉さんが貴方と結婚したいって言ったの?貴方が姉さんを脅迫でもしてるんじゃないの」
穏やかな空気は、張り詰めたものに変わった。彼の『裏』の顔が見え隠れしている。
「そんな事をする意味はないよ。僕達は、互いに想い合っているからね」
その言葉に更に目付きが鋭くなった。
「じゃあ、そもそも貴方が姉さんと結婚したい理由は何?」
「彼女の事を愛しているから、では理由にならないかな」
ヨハンは、下らないと言わんばかりに、鼻を鳴らした。
「嘘だ。そんなの口では何とも言える。貴方は見てくれも悪くないし、伯爵家出身ではあるが、お金は随分と持っているらしいね。そんな人間がわざわざ醜女と呼ばれる姉さんを選ぶ理由がない。何か裏がある筈だ。あぁ、もしかして姉さんを自国に連れ帰って見世物にでもしたいとか?」
姉に執着している割には、随分な物言いだ。見下している様にしか聞こえない。ヴィレームは無性に腹が立った。
「僕の大切な人を、侮辱する言い方はやめてくれないかな」
「別に侮辱なんてしてないよ。ただ、あの醜い醜い姉さんを理解してあげるのも、愛してあげられるのも、この世で僕一人だけなんだ……」
恍惚とした表情を浮かべそう話すヨハンに、ヴィレームは眉根を寄せた。
「お前には、到底姉さんの事は理解出来ない。姉さんの事を分かってあげられるのはこの僕だけだ。知らない様だから教えてあげるけど、僕と姉さんは深い絆で結ばれているんだよ。お前の入る隙なんて微塵もないんだ。残念だったね、わざわざ挨拶にまで来たというのに、無駄足になって。分かったら御託を並べてないで、さっさと帰れよ。勿論一人でね。僕はこれから、お前に捨てられた可哀想な姉さんを、慰めてあげなくちゃいけないから忙しいんだ」
まるで鼻歌でも歌い出しそうな程、機嫌よく話す。
ヨハンは勝ち誇り、話は終わったとばかりに席を立つと、扉へ向かう。扉の前で一度止まると振り返り「姉さんは、僕だけのものだ。誰にも渡さない」暗い笑みを浮かべそう言った。
20
お気に入りに追加
2,239
あなたにおすすめの小説
冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します
みおな
ファンタジー
王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。
それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。
死んだはずの私が目覚めたのは・・・
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。
冤罪で山に追放された令嬢ですが、逞しく生きてます
里見知美
ファンタジー
王太子に呪いをかけたと断罪され、神の山と恐れられるセントポリオンに追放された公爵令嬢エリザベス。その姿は老婆のように皺だらけで、魔女のように醜い顔をしているという。
だが実は、誰にも言えない理由があり…。
※もともとなろう様でも投稿していた作品ですが、手を加えちょっと長めの話になりました。作者としては抑えた内容になってるつもりですが、流血ありなので、ちょっとエグいかも。恋愛かファンタジーか迷ったんですがひとまず、ファンタジーにしてあります。
全28話で完結。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる