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五十三話
しおりを挟む「よし、出来た!」
昼間実家に帰った時に持って来た姉から貰った髪飾り。壊れてしまったが、どうしても捨てる事が出来ず、ずっと鏡台の一番したの引き出しに仕舞い込んでいた。それを持ち帰って来た。分解して使える飾りなどを取り外し、用意していたリボンへと縫い付けていった。
「エメ、おいで」
にゃあ。
手招きをするとエメはエーファの前に座った。相変わらずお利口だと感心をする。
エーファがエメの首に先程のリボンを巻くと不思議そうに首を傾げる。
にゃ?
「ふふ、エメ、よく似合ってるわ。……ごめんね、貴方は連れて行けないの」
にゃぉ……。
「大丈夫! エメの事はニーナやギーさん、皆さんに確りお願いしておいたから心配しないで。それにきっとマンフレット様も、大切にして下さるから……」
にゃ……。
元々大した荷物はないが、それでもこの一年でドレスやら小物やら必要最低限の物は増えた。ただそういった類の物は荷物になるので持ってはいけない。クローゼットを開ければ先日パーティー用にエーファの為に新調して貰ったドレスが目に入り、少し切なくなる。
ふと足元を見るとエメが足に擦り寄りピッタリとくっ付いてくる。普段から甘えん坊ではあったが、今日は一段とそれが目立つ気がした。
「マンフレット様……」
夕食時、彼の姿はなかった。ギーからの話では頭痛が酷く昼間からずっと寝たままらしい。夕食後、こっそり様子を見に行って見たがやはり眠っていた。最後にもう一度ゆっくり話がしたいと思っていたが諦める事にする。残念であると同時にに安堵もしている。多分きっと、今彼と顔を合わせたら泣いてしまいそうだ。先日、折角彼から立派な淑女になったと褒めて貰えたのに、このままではまた醜態を晒してしまうだろう。だからこれで良かったのだとと思う。ただ、せめて感謝の気持ちくらいは伝えたいーー。
「そうだわ」
以前マンフレットから手紙……一言だけだったが貰った事を思い出した。
手紙なら今からでも遅くない。それに面と向かって言い辛い素直な気持ちも伝える事が出来る。エーファはさっそく机に向かいペンを取った。さて何と書こうかと考えていたその時だった。
廊下から煩いくらいに足音が聞こえて来た。こんな時間に一体何事かと思っていると次の瞬間、破壊されんばかりの勢いで扉が開け放たれた。
「エーファっ‼︎」
息を切らし青ざめているマンフレットを見て、エーファは驚き立ち上がった。
「マンフレット様、どうされたんですか」
「それはこっちの台詞だ‼︎」
にゃ⁉︎
マンフレットの鬼気迫る様子に驚いたエメも飛び退きエーファにしがみ付いてきた。
エーファが戸惑っていると彼はズカズカと部屋の中へと入って来る。
「あの……」
「何故部屋がこんなに片付いているんだ⁉︎ あのトランクケースは何なんだ⁉︎ やはり屋敷を出て行くつもりなのか⁉︎」
興奮しているマンフレットに呆気に取られるが、一呼吸し気持ちを落ち着かせる。
「明日で丁度、私がマンフレット様に嫁いで来てから一年なんです」
「っ‼︎ーー」
その言葉に彼は目を見張り息を呑むのが分かった。少し冷静さを取り戻したのか静かになった。
「一年後、離縁すると仰られておりましたので」
「き、君は、私と離縁したいのか」
酷く動揺した様子で此方を見る彼に、エーファは胸が締め付けられる。
「いいえ」
「なら何故だ……。私は君に気持ちを伝えた筈だ。私の気持ちを知りながら去ろうと言うのか」
「あの時マンフレット様は熱に浮かされているとばかり……なので本気だとは思いませんでした」
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