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四十九話
しおりを挟む広間の煌びやかな装飾に磨き上げられた床、テーブルに並ぶ豪奢な料理や飲み物、次々に訪れる招待客。厨房も特に問題なく回っている。今の所不足している物もない。
「奥様、余り動き回られますと髪やドレスが乱れてしまいます!」
エーファが廊下を歩いていると後ろからニーナが追いかけて来て声を掛けられた。
「でも心配で……」
「奥様のこれまでの準備は完璧です。後は私共使用人にお任せ下さい。皆、全身全霊で挑む所存です! なので奥様は旦那様の隣で支えて差し上げて下さい」
「ニーナ、ありがとう。頼もしいわ」
ニーナの言葉にハッとして、直ぐに反省をする。ニーナもギーも他の使用人達も皆、普段から確りと仕事をこなしている。元々心配など不要であり、また心配しているという事は彼等を信頼していないと言っているも同義だ。
「エーファ様、此方にお出でになられたのですね。マンフレット様が探しておりました」
ニーナと別れ踵を返すと今度は向かい側からギーがやって来た。広間に姿の見えないエーファを探しに来てくれたらしい。もうそんな時間かとエーファは焦った。どうやら一番心配しなくてはならないのは自分自身の様だと苦笑した。
感嘆してしまう。本当に彼は何を着ても似合う。歩いているだけなのにまるで絵画の様だ。
エーファが広間に入ると直ぐにマンフレットが気付いて此方へとやって来てくれた。そこで歩いて来る彼を見て思わず見惚れてしまった。
今日の彼はベージュを基調としたシンプルな装いだ。ポケットチーフの碧色が差し色となり予想以上に纏まりのある洗練された仕上がりになっている。因みにポケットチーフの色は始めは無難な白色の予定だったが、エーファのドレスを見たマンフレットが同じ色にしたいと言い出したので急遽変更をした。正直マンフレットは、服装に拘りがある様に思えなかったので意外だった。
「エーファ、探したぞ」
「遅くなり申し訳ありません」
「君の事だ、どうせ心配で厨房の様子など色々と見て回っていたのだろう」
「え……」
エーファが説明するまでもなくどうやらマンフレットには全てお見通しの様だ。流石だ……。だが感心している場合ではない。怒られるかも知れない……そう思いエーファは身構えるが杞憂に終わった。ただ彼の様子が少しおかしい気がした。
「それより……その」
「?」
「いや……」
「マンフレット様?」
「あー……に、に、に」
(ににに、とは一体……)
言い淀むマンフレットにエーファは首を傾げながらも大人しく待っていた。
「似合っている」
「!」
予想外の言葉に目を見開き彼を凝視する。早く何か返事をしなくてはと思うが言葉が全く出てこない。
「この広間の誰よりも、綺麗だ……」
そこまで話すとマンフレットは落ち着かない様子であからさまに視線を逸らした。
顔から火が出そうだ。きっと今、熟れ過ぎたトマトくらい顔が赤くなっているに違いない。
エーファが余りの出来事に呆然としているとマンフレットが踵を返すのが見えた。もしかしたらお礼一つ言えないエーファに呆れ返ってしまったのかも知れないと焦る。
「あ、あのマンフレット、さま……え」
行ってしまうと思われた彼の腕は確りとエーファの腰に回されていた。驚き過ぎて今度は間の抜けた声が洩れてしまう。
「行くぞ」
「はい、マンフレット様……」
エーファはマンフレットを見上げると、はにかんで返事をした。
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