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四十七話
しおりを挟む「美味いな」
更にあれから数日が経つとマンフレットは身体を起こし食事を摂れるまでに回復した。
病み上がりの彼の胃に負担を掛けない様にと、エーファはミルク粥を作ってみた。
「それは良かったです」
「だが、その……」
何故か視線を逸らし口籠る彼の頬が少し赤く見える。熱は下がった筈だが、もしかしてまた上がってきてしまったのだろうかと心配になる。
「マンフレット様、頬が少し赤い様ですが、お熱が上がってきてしまいましたか?」
「いやそれはない」
「?」
「……自分で食べられる」
◆◆◆
深皿とスプーンを手にしながら小首を傾げるエーファに、更に顔が熱くなるのが分かった。
ミルク粥を作ったと持って来てくれたまでは良かったが、彼女は粥を一掬いしそれに息を吹き掛け冷ますと当たり前の様にマンフレットの口へと運んで来た。そして「あ~ん、して下さい」と言う。始めは躊躇いながらも大人しく口を開け食していたが、ギーが部屋に入って来ると羞恥心に耐えられなくなり彼女に自分で食べると告げた。
正直こんな事は誰にも言えないが、エーファから食べさせて貰うのも悪くないと思った。寧ろ喜んでいる自分がいた。
マンフレットは、蒸したタオルと着替えを持って来たギーを睨み付けた。食べ終わるまで待てなかったのか、間が悪過ぎる。だがギーはしれとしており素知らぬ振りをしていた。確実に分かっていてやっていると分かり腹が立つ。
「ご馳走様、美味かった」
「お粗末様でした」
結局残りのミルク粥は自分で食した。当然味は先程と変わらないがどこか物足りなさを感じてしまう。
「では、エーファ様。交代致します」
「あの、宜しければ私がお拭きします。もうマンフレット様も、ご自分で身体を起こす事が出来ますから」
多忙なギーに彼女はそう申し出るが、ギーは丁寧に断った。
「エーファ様にはずっとマンフレット様の看病をお任せしてしまっておりますので、せめてこれくらいは私にお任せ下さい。食堂にお茶の用意をしておりますので、少し休憩なさって来て下さい」
マンフレットが寝着を脱ぐと、ギーは慣れた手付きで首や肩、背中と順番に丁寧に拭いていく。
「そんなにエーファ様にして頂きたかったのですか?」
「は……」
黙ってされるがままになっていたが、不意にそんな事を言われ間の抜けた声が洩れてしまう。
「不貞腐れたお顔をなさっております」
「そんな筈ない」
「そうですか? 私にはその様に見えますが……思い違いでしたか」
膝を曲げ、腿の付け根から脹脛へとタオルを滑らす様子を見て、思わず邪な想像をしてしまい生唾を飲み込む。もし今此処に居るのがギーではなくエーファだったら……いやいや、それはまずい。こんな事を彼女にされたら……反応してしまうかも知れない。胸を張って言う事ではないが、心身ともに回復してきた今、我慢出来ない自信がある。
「マンフレット様、お楽しみの所申し訳ございませんが、終わりました」
「なっ……」
「終始恍惚とした表情でため息混じりに「エーファっ」とお声を洩らしており些か不気味でした」
「……」
最悪だ……まさか声に出ていたとは不覚だ。だが仮にそれが事実だろうが、普通見て見ぬ振りをするのが常識ではないのか⁉︎ マンフレットは後片付けをしているギーを睨むが、やはりしれっとしていた。腹が立つ。
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