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四十六話
しおりを挟む「最近浮かない顔をしているな。」
マーカスが、王宮で話しかけて来た。
「イライザ夫人どうだった?」
「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」
「そうなのか?
イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」
「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。
さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。
今はそんな状況だ。
僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。
イライザには男がいる、多分。
僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」
「待てよ。
でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」
「誤魔化すためだよ。
僕は頭がおかしくなりそうだ。」
僕はたまらず頭を抱える。
「結論づけるのは、まだ早いぞ。
まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」
「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」
「なら、最後まで希望を捨てるな。」
「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?
いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。
でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」
「僕もそう思っていた。」
僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。
最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。
侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。
「ねぇ、聞いているの?」
「聞いているよ、母上。」
母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。
同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。
「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。
旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」
そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。
もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。
「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」
「何度も言わせないでくれ。
母上だって、父上に認めなかっただろ?」
「一緒にしないで。
私はあなたを産んだわ。
あの人とは違うわ。」
「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?
どうして、自分がされたくないことを人には求める?」
「仕方ないでしょ。
後継は必要なんだから。」
「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」
「嫌なものは嫌なの。
あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」
「すまないが、それは果たせない。」
父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。
いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。
大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。
感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。
僕は最近自分が嫌いだ。
「どうぞ、入って。」
執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。
「リカルド様、報告があります。」
「ああ、待っていたよ。
話してくれ。」
僕とライナスはその話に聞き入る。
「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。
こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」
「なるほど。」
「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。
後は使用人の出入りがあるだけです。」
「何と。
では、ノーマン医師との密会場所なのか?」
「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。
多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。
そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。
なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」
「なるほど。
イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」
母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。
「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。
旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」
ライナスは、思い出して微笑む。
「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」
「わかりません。
そうなると、やはり男かもしれませんね。
残念ですが。」
ライナスは諦め顔で首を振る。
「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。
いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?
下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」
「そんなことが?」
「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。
反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。
不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。
だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。
よく考えてみられたらいかがですか?」
「ああ、そうするよ。」
ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。
この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。
人生わからないものだ。
僕はいつ間違ったのだろう。
イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。
しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。
でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?
好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?
秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?
僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。
マーカスが、王宮で話しかけて来た。
「イライザ夫人どうだった?」
「それがどんどん疑惑は深まる一方だと言うより、イライザに秘密があるのは確実だ。」
「そうなのか?
イライザ夫人に限って、そんなことあるのか?」
「僕も信じたくないけれど、イライザは、昼間御者を木の下で待たせて、どこかへ行っている。
さらには、渡している給金も何かに注ぎ込んでいるし、医師とのことも認めない。
今はそんな状況だ。
僕が追求しようとすると、キスをして来て、それ以上は話してくれない。
イライザには男がいる、多分。
僕を誤魔化したいほどの大切な男が。」
「待てよ。
でも普通そんな感じなら、リカルドとキスしたり、色々しないだろ?」
「誤魔化すためだよ。
僕は頭がおかしくなりそうだ。」
僕はたまらず頭を抱える。
「結論づけるのは、まだ早いぞ。
まだ、浮気していると決まったわけじゃないだろ?」
「ああ、今邸の私兵に探らせているところだ。」
「なら、最後まで希望を捨てるな。」
「なぁ、僕達に子供ができなかったからだと思うか?
いや、今のは聞かなかったことにしてくれ。」
「子供がいてもいなくても、するやつはするし、しないやつはしない。
でも、イライザ夫人がする人とはまだ思えないんだ。」
「僕もそう思っていた。」
僕は、疑惑が大きくなればなるほど、不安だし、疑心暗鬼になっていく。
最近は、王宮に行っても、心ここにあらずで、何も言わないけれど、多分僕の異変に王子も勘付いている。
侯爵当主として情けないが、イライザを愛している分、僕はどんどん不安定になって行く。
「ねぇ、聞いているの?」
「聞いているよ、母上。」
母がいる棟の庭園で、日課の母のお茶に付き合っている。
同じ邸の中だけど、こちらは、父が亡くなってから、ますます静かになり、母のキンキン声だけが響く。
「もう、リカルドだけなんだから、私の話を聞いてくれるのは。
旦那様が亡くなってからは、あなたしかいないのよ。」
そう言うが、イライザを拒否したのは、母だ。
もし、子供ができなくともイライザを認めていたならば、こんなに一人寂しい思いをしなくても済んだのに、自分のせいだとは、母は気づいていない。
「ねぇ、そろそろ、第二夫人でも娶ったら?」
「何度も言わせないでくれ。
母上だって、父上に認めなかっただろ?」
「一緒にしないで。
私はあなたを産んだわ。
あの人とは違うわ。」
「そうだとしても、嫌な気持ちは一緒だろ?
どうして、自分がされたくないことを人には求める?」
「仕方ないでしょ。
後継は必要なんだから。」
「その話は、親族の者をもらうと言うことで、決着がついている。」
「嫌なものは嫌なの。
あなたにそっくりな孫が欲しいのよ。」
「すまないが、それは果たせない。」
父が亡くなってから、母はますます孫を欲しがるようになった。
いつもなら、それを受け流すこともできたが、最近は僕にも余裕がない。
大声で、無理なんだよ。と叫んでしまう日がいつか来そうで、自分でも怖い。
感情的になることは、貴族として、とっくに無くして来たのに。
僕は最近自分が嫌いだ。
「どうぞ、入って。」
執務室で仕事をしていると、イライザの尾行を頼んだべモートが入って来る。
「リカルド様、報告があります。」
「ああ、待っていたよ。
話してくれ。」
僕とライナスはその話に聞き入る。
「イライザ様が、馬車から離れ向かった先は、ある邸でした。
こじんまりとしてはいますが、誰かの別邸と言う感じで、建物は立派です。」
「なるほど。」
「そして、イライザ様がその邸に消えた後、邸に入った者は、ノーマン医師ただ一人です。
後は使用人の出入りがあるだけです。」
「何と。
では、ノーマン医師との密会場所なのか?」
「それがそうではなく、ノーマン医師も長くいたわけではありません。
多分、どなたかを診察してすぐに帰られたと思います。
そして、イライザ様以外、あの邸に出入りはありません。
なので、イライザ様は誰かの看病をしているのではないでしょうか?」
「なるほど。
イライザは、父の看病もしてくれていたしね。」
母は父が倒れてからは、お茶会だとか、友人と出かけるなどと言って、父に寄り付かなかったから、その隙にイライザは父を心配して、父のいる棟を訪れていた。
「はい、私がキャサリン様がいない時、イライザ様をご案内しておりました。
旦那様は、いつもイライザ様が来てくれるのを、楽しみに待っておられましたから。」
ライナスは、思い出して微笑む。
「だとしてただの看病なら、わざわざ僕に隠す相手とは誰だろう?」
「わかりません。
そうなると、やはり男かもしれませんね。
残念ですが。」
ライナスは諦め顔で首を振る。
「とにかく、イライザ様がもうあの邸に通わせないようにするのは、大変なことでしょうね。
いっそのこと、目をつぶったらいかがですか?
下手に追い詰めると、イライザ様がリカルド様に離縁を申し出るかもしれませんよ。」
「そんなことが?」
「その相手と無理矢理引き離すのですから、覚悟がいります。
反対に子供ができなかったから身を引くと言われたら、こちらとしても離縁を認めざるを得ないでしょう。
不貞の証拠を掴んでいれば、話は変わりますが。
だからと言って、イライザ夫人の不貞がキャサリン夫人に知られたら、大騒ぎでしょうし。
よく考えてみられたらいかがですか?」
「ああ、そうするよ。」
ライナスとべモートが、部屋を出た後、しばらく一人で強い酒を飲んだ。
この前までは、十年経っても新婚生活などと浮かれていたのに、あっと言う間にどん底だ。
人生わからないものだ。
僕はいつ間違ったのだろう。
イライザが、僕以外の男を求めるなど、今でも信じたくないし、受け入れられない。
しかも僕はこうなるまで、全く気がつかないほどの鈍感な男で、それでも、イライザを失いたくないから、動けない。
でも、それならどうしてイライザは変わらず僕を受け入れる?
好きな男がいるとしたら、普通は嫌なものでないのか?
秘密にするためなら、僕に抱かれても我慢するのか?
僕は沼にハマって動けないように、酒に溺れ、そのまま執務室で寝てしまった。
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