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四十話
しおりを挟む「や……嫌っ‼︎」
リュークの手が脚の間に差し入れられた瞬間、余りの嫌悪感にエーファは叫んだ。覚悟を決めたが、やはり嫌だ。だが身体を押さえつけられ動けない。リュークはそんなエーファを見ながらいやらしい笑みを浮かべ構う事なく愛撫を続けてくる。
(いや、嫌だ、誰か助けてっ……)
「マンフレット、さまっ……」
無意識に彼の名が口から洩れた。
泣いたらダメだ。リュークに絶対に屈したりしないと気を強く持つも、堪え切れずに涙が目頭から溢れ出た、その時ーー。
「エーファっ‼︎」
部屋に怒声が響き、扉が破壊される勢いで開いた。そして現れた人物にエーファは驚き目を見開く。リュークも余程驚いたのかダラシなく口を半開きにして呆然と彼を見ていた。
「マンフレット、様……」
何時も冷静沈着で取り乱す事もなく、声を荒げるなど想像すら出来ない彼が怒っているのが分かる。髪だけでなく着衣すら乱れ、だがそんな事を構う事なく彼は足音を立てながら此方へと向かって来た。未だエーファの上に跨るリュークを見下ろす翡翠の瞳が恐ろしく、けれど美しいとぼんやりと思った。
手には上着に包まれたエメを抱えており、そっと床へと下ろすと次の瞬間リュークの胸倉を乱暴に掴む。己と大差ない身長のリュークを簡単に持ち上げたかと思えば、そのまま床に叩きつけた。リュークは混乱した様子で抵抗する間もなく「うっ……」と唸り声を上げ床で悶える。
「これまでは血を分けた弟だと思い多少の事は目を瞑ってきたが、どうやらそれがいけなかった様だ。よくも私の大事な妻を手籠にしたなっ」
馬乗りになりマンフレットはリュークの顔を勢いよく拳で殴り付けた。その衝撃で口の中が切れたらしく、リュークの口元から血が流れた。
「エーファっ‼︎ 遅くなってすまない、すまなかった」
「マンフレット様……」
マンフレットはベッドへと駆け寄るとエーファを掻き抱いた。
「上着は白いのにやったから、今はこれで我慢してくれ」
そう言って彼はシャツを脱ぐとエーファの肩から掛けてくれた。彼の逞しい身体が露わになり、こんな時なのに気恥ずかしさを感じ思わず視線を逸らした。
「何か誤解してるみたいだけど僕は悪くないから。そっちから誘って来たんだ」
「っーー」
「兄さんがいないからって彼女が僕を誘惑してきてさ、かなり積極的だったから正直参ったよ。でも義理の姉だし無下になんて出来ないからさ。そもそも兄さんが構ってあげないから欲求不満なんじゃないの?」
不貞腐れた顔で、負傷しているにも関わらず相変わらず饒舌だ。
しれっとエーファに責任転嫁してくるリュークにエーファは焦り直ぐに弁解をしようとしたがマンフレットが先に口を開いた。
「成る程。エーファから誘ってきたというのか」
「そう、だから僕は」
「リューク。これ以上彼女を侮辱する気なら、本気でそれ相応の覚悟を決めろ。エーファがそんな不埒な行為をするなどあり得ない」
「ほ、本当なんだ! 本当に」
「黙れ」
先程と違って冷静ではあるが、彼からは静かな怒りがひしひしと伝わってくる。
エーファは呆気に取られながらマンフレットを見上げた。意外だった。信じて貰えないと思った。だがそれどころか彼は何の迷いもなく言い切ってくれた。
「どうして」
ゆっくりと身体を起こすリュークに、マンフレットは身構え更にエーファを抱き寄せる。だがリュークは諦めた様子で力なく壁際まで身体を引き摺っていくと壁に凭れ座った。
「あの時は、全く庇わなかった癖に。あんなに簡単に赦してくれたじゃん」
「……」
「なのに何で? 何で今回はそんなに怒るの? ブリュンヒルデだって兄さんの妻だった。何が違うの?」
リュークは莫迦にする様に半笑いを浮かべるている。それに対してマンフレットは苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべていた。
「ねぇ、エーファ。良い事教えてあげるよ。君の姉、ブリュンヒルデは不倫をしていた……僕とね」
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