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二十四話
しおりを挟むにゃ……。
隣で寝ていたエメが眠たそうに鳴きながら再びシーツの中へモゾモゾと戻る様子に苦笑する。
何時もよりかなり朝早くニーナに起こされたエーファは、外出用のドレスに着替えさせられ髪は綺麗に整え化粧を施された。その間エーファはなされるがままとなり、呆然と自分が変化していく様子を鏡越しに見ていた。
「奥様の本日のお戻りは夕刻となっております」
仕上げに甘い花の匂いがする香水を軽く振り掛けられると、ニーナから笑顔でそう告げられた。
(夕刻になっているとは一体……)
言葉の意味を直ぐには飲み込めず困惑を隠せない。それに本人への言葉ではない気がする。自分の予定を聞かされて妙な気分だ。
「でも夕刻だと食事の支度が……」
「問題ございません。本日は私共使用人で全身全霊を込めましてお作りする所存です! ですので奥様は外でゆっくりと過ごしていらっしゃって下さい!」
ニーナの勢いに押される形で半ば部屋から追い出された。外に馬車を待たせているらしいので、取り敢えず向かう他なさそうだと踵を返すが不意にニーナに呼び止められた。
「奥様」
「?」
「お誕生日おめでとうございます!」
エーファが嫁いで来てから外出するのはこれで二度目だ。予想外の出来事に少々驚きはしたものの、久々の外出に浮かれてしまう。ただ急な事で何処へ行けば良いのか全く分からない。ニーナの口振りでは、どうやら夕刻までは帰って来てはいけない様だが……。
「ねぇ、エメは何処か行きたい所ある?」
にゃ?
先程まで眠たそうにしていたエメだが、エーファの支度が終わる頃にはすっかり目が覚めたらしく一緒にくっ付いて来た。不思議そうに小首を傾げている。
「ふふ、分からないよね」
エーファは笑むとエメを抱き上げ屋敷の門前に停められていた馬車に乗り込もうとする。すると待機してた馭者が扉を開けてくれた。お礼を言って乗り込もうとするが……。
パタン……ーー。
「何故閉める?」
閉めた扉は今度は内側から開けられ、怪訝そうなマンフレットが顔を出した。
「あの、まさかマンフレット様がいらっしゃるなんて思わなかったので……つい。すみません」
驚いた事に馬車には既にマンフレットが乗っていた。エーファは驚き過ぎて思わず扉を閉めてしまった……。知らなかったとはいえ失礼な態度を取ってしまったと項垂れた。その光景に馭者は苦笑する。
「そんな所に突っ立ってないで早くしろ」
「は、はい」
相変わらず無愛想で、あからさまに顔を背けられる。もしかして怒らせてしまったかも知れないと益々気落ちしてしまう。だが次の瞬間目の前に手を差し出された。その事に目を丸くし彼の顔と差し出された手を交互に見る。エーファは少し躊躇いながらも恐る恐る手を伸ばした。
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