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二十二話

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 目を開けると視界には見慣れた天井が映る。

「お目覚めですか」
「……はぁ。許可を出したのはお前か、ギー」

 額に腕を置き溜息を吐く。横目でお茶を淹れているギーを睨んだ。

「良いじゃありませんか。中庭の一角に畑を作るくらい」

 最早畑云々ではなく、問題はニンジン畑という所だ。収穫の時期になるのが今から恐怖で仕方がない。

「ニンジンは種まきから早い物で三ヶ月程で収穫出来るそうですよ」

 聞いてもいないのに不要な情報まで押し付けてくるギーに眉根を寄せる。
 それにしても今から三ヶ月後かーー丁度その頃マンフレットは屋敷にはいない。父からの引き継ぎなども含め領地へと視察に行く予定になっており、一ヶ月半は戻らない。そう考えるとエーファと過ごす時間は然程ないかも知れない。最後の一ヶ月は、父の五十歳の祝いと共にマンフレットの公爵就任などで茶会やら夜会などで人を集め挨拶などを行う。更にその準備を数ヶ月前かしなくてはならない。きっと忙しなく一緒に食事をする暇すらないだろう。

「別に興味ない」
「左様ですか。そう言えばご存知ですか? 来月はエーファ様のお誕生日だそうです」
「エーファの?」
「はい」

 ギーはまた聞いてもいないのに余計な情報を押し付けてくる。エーファが誕生日だから何だというのか。確かブリュンヒルデの時はギーや使用人等に適当に見繕った花束などを贈らせていたが、別段特別な事はしなかった。それに彼女の誕生日が何時だったかすら記憶にはない。そういった瑣末な管理は全てギーに任せていた。

「別に興味ない」



(何か欲しいものはあるか? いやこれではあからさま過ぎる。なら、好きな物はなんだ? いやダメだ。抽象的過ぎて、彼女なら的外れな返答をするに決まっている……)

 食事をしながらエーファの様子を窺い見た。遠慮しながらも笑顔でマンフレットに話し掛けてくる。最近はこれが普通になりつつある。

「まだ小さいですけど、先日蒔いた種から芽が出たんです。……マンフレット様?」
「あ、あぁ。すまない、少し考え事をしていた」

 小首を傾げ此方を見てくる彼女から思わず目を逸らした。何だか最近自分がおかしい。彼女から見つめられると妙に落ち着かない。疲れているのかも知れない……。

「今日のデザートはニンジンのマドレーヌなので、愉しみにしていて下さい!」

 食後、朝っぱらから気分が悪くなる報告をされたマンフレットはげんなりする。最近のお茶請けは専らニンジンを使用した物ばかりだ。もしかすると馬よりもニンジンの摂取量が多いんじゃないのか? そんな下らない事を本気で思う。食事だけでも耐え難いのに、何故そんなにニンジンに拘る⁉︎ マンフレットが無知なだけで、もしや世の女達は無類のニンジン好きなのだろうか……。
 
 結局それから数日経ってもエーファからは何の情報も引き出す事は出来ずにマンフレットは項垂れた。悩みは尽きない。
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