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十二話
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「ーー痛っ‼︎ いきなり何する……」
腕を捻り上げられた男は小さく悲鳴を上げると、自分を掴んでいる人物を睨み付ける。だが相手の顔を見た瞬間目を見開き固まった。
「すまない、手加減はしたつもりだが少し力み過ぎた様だ」
普段から無愛想で無表情のマンフレットは、今もまた変わらず無表情のままだ。そして掴んでいた男の手を乱暴に突き放すと男は後ろに大きく蹌踉めく。
「それでーー私の妻がどうした」
彼は鮮やかな笑みを浮かべた。口の端を吊り上げ鋭く射抜く様な眼差しを男達に向けている。確かに笑っている筈なのに、その笑みとは裏腹に彼が怒りに満ちている事がひしひしと伝わってくる。
「い、いや……その、お、俺は関係ないから」
「は? そもそもお前が嗾けたんだろう⁉︎」
「そうだ、言い出したのは君だった筈だ‼︎」
顔を青ざめ口籠る男達は言い訳にもならない言葉を吐きながら、今度は互いに責任の押し付け合いを始める。だがマンフレットからの威圧に堪えられなくなっただろう一人がその場から逃げだすと、他の二人も慌てて逃げて行った。エーファは予想外の展開に思わず脱力をしてしまう。
「レクス、手間をかけたな、礼を言う」
その様子を見届けた彼は今度は未だエーファに触れていたレクスの腕を掴むと少し乱暴に放させた。そしてそのままの流れでマンフレットはエーファの腰に手をやり抱き寄せる。余りの事態にエーファは呆気に取られ為されるがままとなり声すら出ない。
「流石だねー冷笑の貴公子殿」
茶化すレクスをひと睨みするとマンフレットは踵を返した。
「エーファ、少し早いが帰ろう」
「あ、あの……」
「行くぞ」
戸惑うエーファに有無も言わせず彼は歩き出す。その為、無作法だがレクスに挨拶すらする暇もなく軽く会釈をする事しか出来なかった。目が合ったレクスは大袈裟に肩をすくめ、笑ってくれた。相変わらず優しい。
「マンフレット様、申し訳ありませんでした……」
広間中の好奇の視線を浴びながら、ようやく馬車へと辿り着いた。そうでなくてもエーファは悪目立ちするのに、あれだけ騒ぎになれば当然だろう。結局彼には迷惑を掛けてしまった。
「……何故君が謝る?」
「え……」
「悪いのは向こうだろう」
「ですが、マンフレット様にご迷惑を掛けてしまい……」
「例えそうだとして、その原因を生み出したのは彼等だ。それに私は夫としての役割を果たしたまでであり、君から謝罪される言われはない」
その後、帰りの馬車でも彼は行き同様終始無言で腕を組み目を伏せエーファには目もくれずにいた。だが行きの様な息の詰まる感じは全くしなかった。
自邸に到着すると、やはり彼は何も言わずにさっさと行ってしまうので、エーファはその背中に声を掛け「マンフレット様、お休みなさいませ」見える事はないが深々と頭を下げた。
腕を捻り上げられた男は小さく悲鳴を上げると、自分を掴んでいる人物を睨み付ける。だが相手の顔を見た瞬間目を見開き固まった。
「すまない、手加減はしたつもりだが少し力み過ぎた様だ」
普段から無愛想で無表情のマンフレットは、今もまた変わらず無表情のままだ。そして掴んでいた男の手を乱暴に突き放すと男は後ろに大きく蹌踉めく。
「それでーー私の妻がどうした」
彼は鮮やかな笑みを浮かべた。口の端を吊り上げ鋭く射抜く様な眼差しを男達に向けている。確かに笑っている筈なのに、その笑みとは裏腹に彼が怒りに満ちている事がひしひしと伝わってくる。
「い、いや……その、お、俺は関係ないから」
「は? そもそもお前が嗾けたんだろう⁉︎」
「そうだ、言い出したのは君だった筈だ‼︎」
顔を青ざめ口籠る男達は言い訳にもならない言葉を吐きながら、今度は互いに責任の押し付け合いを始める。だがマンフレットからの威圧に堪えられなくなっただろう一人がその場から逃げだすと、他の二人も慌てて逃げて行った。エーファは予想外の展開に思わず脱力をしてしまう。
「レクス、手間をかけたな、礼を言う」
その様子を見届けた彼は今度は未だエーファに触れていたレクスの腕を掴むと少し乱暴に放させた。そしてそのままの流れでマンフレットはエーファの腰に手をやり抱き寄せる。余りの事態にエーファは呆気に取られ為されるがままとなり声すら出ない。
「流石だねー冷笑の貴公子殿」
茶化すレクスをひと睨みするとマンフレットは踵を返した。
「エーファ、少し早いが帰ろう」
「あ、あの……」
「行くぞ」
戸惑うエーファに有無も言わせず彼は歩き出す。その為、無作法だがレクスに挨拶すらする暇もなく軽く会釈をする事しか出来なかった。目が合ったレクスは大袈裟に肩をすくめ、笑ってくれた。相変わらず優しい。
「マンフレット様、申し訳ありませんでした……」
広間中の好奇の視線を浴びながら、ようやく馬車へと辿り着いた。そうでなくてもエーファは悪目立ちするのに、あれだけ騒ぎになれば当然だろう。結局彼には迷惑を掛けてしまった。
「……何故君が謝る?」
「え……」
「悪いのは向こうだろう」
「ですが、マンフレット様にご迷惑を掛けてしまい……」
「例えそうだとして、その原因を生み出したのは彼等だ。それに私は夫としての役割を果たしたまでであり、君から謝罪される言われはない」
その後、帰りの馬車でも彼は行き同様終始無言で腕を組み目を伏せエーファには目もくれずにいた。だが行きの様な息の詰まる感じは全くしなかった。
自邸に到着すると、やはり彼は何も言わずにさっさと行ってしまうので、エーファはその背中に声を掛け「マンフレット様、お休みなさいませ」見える事はないが深々と頭を下げた。
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