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十話
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「準備が出来たなら行くぞ。もたもたするな」
「は、はい……」
ロビーで待っていた彼は当然だが正装しており普段に増して更に素敵だった。
ライトグレーを基調としたシンプルで派手さはない装いだが、品がありとても美しい。凛とした佇まいの彼だからこそそう感じさせるのだと思う。そんな彼にエーファは見惚れてしまい暫し立ち尽くしていた。だがそんなエーファとは裏腹に、彼はエーファを一瞥すると直ぐに興味をなくしさっさと踵を返し行ってしまう。途端にエーファは我に返り慌てて彼の後を追って馬車に乗り込んだ。
馬車の中では互いに向かい合って座ると彼は直ぐに腕を組み目を伏せる。そして溜息を吐いた。
(私は何を期待していたのだろう……)
きっと彼は姉になら称賛と甘い言葉をくれていた筈だ。
鏡で自分の姿を映した時は、少しだけ姉に近付けた気になったが勘違いも甚だしい。彼から褒めて貰えるかもなんて、我ながら烏滸がましいにも程がある。
彼の態度からして、視界にすら入れたくないのは一目瞭然だ。それはそうだ。少し前までは彼の隣にいたのは女神とすら比喩されていた完璧な淑女のブリュンヒルデだ。それが今はこんな平凡な娘をエスコートしなくてはならず、尚且つ妻だと紹介しなくてはならないなど誰だって気も重くなるに決まっている。そう思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまい、先程まで浮かれていた自分が恥ずかしいとすら感じた。
エーファは今更ながらに夜会に出席する事が不安になってくる。冷静になって考えれば彼の隣に並ぶなど周囲からどんな目で見られるか……容易に想像出来る。
『あんなのが妹とか、ブリュンヒルデ様が可哀想』
『血を分けた姉妹なのに、ここまで違うと哀れだな』
『良く参加出来るわね~恥ずかしくないのかしら』
『身の程知らずとはこの事だな』
『くすくす』
『ブリュンヒルデの足だけは引っ張るな』
『こんな役立たずが、私の娘なんて思いたくもないわ。どうして生まれてきたのかしら』
これまでずっと家族からも周りからも疎まれ蔑まれ笑われてきた。それ故陰口など言われなれている。だから自分の事は何と言われようとも構わない。ただ彼に恥をかかせて迷惑など掛けたくない。せめてこれ以上彼から嫌われたくない……。
そんな事を延々と考えている内に馬車は今宵夜会の開かれる屋敷へと到着をしてしまった。
「君はただ私の隣で頷いて笑っていれば良い。余計な言動は控える様に」
馬車から降りる直前、追い打ちを掛ける様に彼から冷たく言い放たれた。
「は、はい……」
ロビーで待っていた彼は当然だが正装しており普段に増して更に素敵だった。
ライトグレーを基調としたシンプルで派手さはない装いだが、品がありとても美しい。凛とした佇まいの彼だからこそそう感じさせるのだと思う。そんな彼にエーファは見惚れてしまい暫し立ち尽くしていた。だがそんなエーファとは裏腹に、彼はエーファを一瞥すると直ぐに興味をなくしさっさと踵を返し行ってしまう。途端にエーファは我に返り慌てて彼の後を追って馬車に乗り込んだ。
馬車の中では互いに向かい合って座ると彼は直ぐに腕を組み目を伏せる。そして溜息を吐いた。
(私は何を期待していたのだろう……)
きっと彼は姉になら称賛と甘い言葉をくれていた筈だ。
鏡で自分の姿を映した時は、少しだけ姉に近付けた気になったが勘違いも甚だしい。彼から褒めて貰えるかもなんて、我ながら烏滸がましいにも程がある。
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エーファは今更ながらに夜会に出席する事が不安になってくる。冷静になって考えれば彼の隣に並ぶなど周囲からどんな目で見られるか……容易に想像出来る。
『あんなのが妹とか、ブリュンヒルデ様が可哀想』
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『身の程知らずとはこの事だな』
『くすくす』
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『こんな役立たずが、私の娘なんて思いたくもないわ。どうして生まれてきたのかしら』
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そんな事を延々と考えている内に馬車は今宵夜会の開かれる屋敷へと到着をしてしまった。
「君はただ私の隣で頷いて笑っていれば良い。余計な言動は控える様に」
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