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しおりを挟む夜会当日、夜に向けて朝から屋敷は騒がしかった。実はルヴィエ家の屋敷で夜会を開くのは初めてだ。そしてこれで最後になる。リゼットを無事送り出した後は、別の場所に移り住むと決めているからだ。
本当はこの屋敷は、彼女の実家代わりとして残しておく予定だった。昔は、嫁いでもたまに帰って来てくれたら……なんてつまらない事を考えていた。
「上手くいかないものだね」
リゼットがそれを聞いてどう思うかは分からない。だが結局それ以前にクロヴィスが、無理だった。耐えられない。彼女の幸せを心の底から願っているのに、自分じゃない男へ彼女か寄り添う姿を、彼女が自分じゃない男へ愛情を向ける姿を見たくない。
「君の兄であろうと努力したけど……無理だったよ」
誰もいない部屋で独り言つ。
結婚当初、兄を恋しがるリゼットを見て、自分が兄代わりになると心に誓った。それなのに、彼女と一緒の時間を過ごせば過ごす程に惹かれていった。愛おしくて仕方がなかった。これは兄妹愛なんかじゃない。気付けば一人の男として彼女を愛していた。
リゼットもそんな自分に良く懐いてくれて、たまに勘違いをしそうになった。彼女は自分を父や兄の様に慕ってくれている。自分とは違うと何度も言い聞かせて耐えた。ベッドの隣で安心しきった様子で寝息を立てる彼女に何度手を伸ばしたが分からない。
あのプックリとした赤い唇に自分のそれを押し当て貪ったら、彼女はどんな顔をするだろう。夜着を剥ぎ取り、柔らかな胸に顔を埋めて、彼女の中へと自分の欲望を突き立てたら彼女はどんな声で鳴くのだろう……下らない妄想ばかりが膨らんでいった。
こんな感情を知られたら、きっと彼女は自分を軽蔑するだろう。兄の様に思っていた男が、自分に欲情しているなんて気持ち悪いに決まっている。彼女に嫌われるなど耐えられない。ずっと自問自答を繰り返して来た。だがそれも……。
「今夜で、終わりだ……」
夜になり、招待客等がルヴィエ家の屋敷へと続々と集まって来た。クロヴィスが厳選に厳選を重ね選んだ人物等だけあって、家柄、容姿、人柄などどれを取っても優れた者達ばかりだ。
「叔父上、今宵はお招きありがとうございます」
「あぁ、レンブラント……」
そこに到着したレンブラントに挨拶をされた。そしてその後ろには招かれざる客がいるのを見つけてしまう。
「アルフォンス。僕は君を招待した覚えはないんだけどね」
「何故レンブラントは招待して、僕はされていないんですか?納得出来ません」
大人しく引き下がらないとは思っていたが、招待を受けていないのに来るとは、呆れた。だが自分も大人気ない事をしている自覚はある故、お互い様かも知れない。
「君が納得しようがしまいが、招待客は僕が確り吟味して選んだんだ。部外者の君から文句を言われる筋合いはないよ」
少し強めにそう告げて追い返そうとしたが、アルフォンスが一枚の紙をクロヴィスに差し出して来た。
「父上に一筆書いて頂きました」
受け取った書面を検めると、走り書きだが確かに国王の筆跡だった。内容は今宵のルヴィエ家主催の夜会に参加させる様にとの事だ。
クロヴィスは盛大にため息を吐く。差し詰めアルフォンスが子供の様に駄々を捏ね、国王に書く様に迫ったのだろう。あの人は何だかんだと言いながら息子等に甘い。所謂親馬鹿だ。
「やってくれるね」
苛つきながら紙を懐にしまい、アルフォンスを睨む。すると彼は勝ち誇った笑みを浮かべ、歩いて行ってしまった。本当に生意気な甥だ。
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