愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)

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夜会までの数日、リゼットはずっと上の空だった。何時も通りに学院に通い、カトリーナ達と過ごした。だが、何を話したか何をしたか何も覚えていない。クロヴィスともあれから会っていない。屋敷には帰って来ている様だが、リゼットが起きている時間に彼は屋敷にいなかった。

「リゼット様、大丈夫ですか……」

カトリーナが、眉根を寄せ心配そうに話し掛けてきた。

「何がですか?」

目を細め、唇の端を上げる。大丈夫、ちゃんと笑えている。だが、カトリーナ達の表情はますます曇っていく。

おかしい、どうして?私、こんなにも完璧に笑っているのにー。


「レンブラント、お前明日の夜会に出るって聞いたけどそれ本当なの?」

中庭でリゼット達が話していた所に、アルフォンスとローラントが現れた。

「……叔父上から、招待を受けましたので」

「何故、断らなかった?」

アルフォンスが苛々しているのが伝わってきて、その場の空気が張り詰める。彼はレンブラントを睨みつけていた。

「断る理由が見当たらなかった、ただそれだけです」

だがレンブラントは意に介する事なく、冷静に淡々と返す。暫く二人は言い合いをしていた。と言ってもほぼ一方的にアルフォンスがレンブラントに当たり散らしている様に見えた。

その様子をリゼットはボンヤリと眺めていた。明日の夜会の事ならば、リゼットは当事者だ。だが、まるで他人事の様に興味が無かった。どうでもいい……。

「リゼット様?」

リゼットは、未だ二人が揉めている中、スッと立ち上がり踵を返すとフラフラと一人中庭を後にした。カトリーナの戸惑った声が聞こえたが、振り返る気分にはなれなかった。




◆◆◆



「お帰りなさいませ」

「あぁ」

真夜中にクロヴィスは屋敷に帰宅した。ヨーナスに出迎えられ、外套を乱暴に脱ぐと彼に放る。何時もならそんな事はしない。だがここ数日苛々が抑えられず、彼に当たってしまう。

「リゼットは?」

「もうお休みになられております」

その言葉聞き、クロヴィスは足早に寝室へ向かった。物音を立てない様に静かに、部屋の中へと入る。ランプを少し離れた棚の上に置いてから、ベッドで眠るリゼットに近寄った。

『他に愛する人がいて、その方と結婚したいから……私が邪魔になったんですか』

あの時、彼女の顔を見られなかった。見てしまったら、きっと決意が鈍る。

「ごめんね、リゼット……嘘だよ」

邪魔なんかじゃない。君がいて困る筈がない。君以外に愛する女性ひとなんて、いる筈がない……。でもきっと、彼女はそこまで言わないと納得しないだろう。

「クロヴィス、さま……」

彼女の唇から小さく声が洩れた。
広いベッドの端に小さく身体を丸めている姿に、あの日の彼女と重なって見えて唇をキツく結ぶ。


これで良いんだ……彼女の幸せの為だー。



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