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しおりを挟む「ねぇ、ヨーナス。さっき僕、笑えてたよね」
自室で外套を脱ぎ、ヨーナスへと渡した。
「はい、何時も通りの完璧な笑みでした」
「不思議だね……リゼットは昔からそうなんだ。普段は鈍いのに、本当に暴かれたくない時こそバレてしまう」
クロヴィスは暫く呆然と窓の外を眺めながら、立ち尽くしていた。
今朝、兄である国王にあの事を話した。淡々と平然を装い話しを済ませたが、内心は動悸が激しく心臓などまるで鷲掴みにされた様に苦しかった。そんな所にアルフォンスと出会し、本当にタイミングが悪い。
だがまさか、聞かれていたとは思わなかったー。
最悪だ。よりにもよって、アルフォンスに知られるとは……。
彼は昔から自分にやたらと突っ掛かって来る。その理由は単純で、彼はリゼットの事が好きだからだ。面と向かって言われた訳ではないが、彼の言動を見ていれば聞かずとも分かる。
しかも自分という伴侶がいると知りながら、アルフォンスは諦める素振りはまるでなかった。社交の場でも積極的にリゼットをダンスに誘ったりもしてくる。以前甥のレンブラントに聞いた話では、学院内でもクラスも学年も違うのにも関わらず、事あるごとにリゼットへと会いに来ていると聞いた。
きっと彼ならリゼットを誰よりも愛し大切にしてくれるだろう……。
だが、アルフォンスだけはダメだ。リゼットは渡せない。その理由は……自分にも分からない。だが彼にだけは、どうしても渡したくない。
部屋着に着替えたクロヴィスは、食堂へと向かった。
「最近お帰りが早いんですね」
席に着くと、リゼットが様子を伺う様に見てくる。先程の事をまだ気にしているのだろう。
「今は少し仕事か落ち着いているからね。リゼットとの時間を大切にしたいから、なるべく早めに帰る様にしているだ」
後何回、彼女と夫婦として会話をし、食事をして、一緒のベッドで眠れるだろうか……。そんな風に考えるだけで、息苦しさを覚える。
「そうなんですね。クロヴィス様と沢山一緒の時間を過ごせて嬉しいです」
そしてそれと同時に、頬を染め微笑む姿に、愛おしさが込み上げてきた。目を細めクロヴィスも笑みを浮かべる。
談笑しながら食事を済ませると、クロヴィスはリゼットを連れてテラスへと移動した。
◆◆◆
リゼットがクロヴィスに手を引かれテラスへと出ると、無数の光に包まれた。暗闇の中、沢山のランプがテラスを照らし出している。テーブルには花とお茶が用意されており、彼に促され椅子に座った。
「綺麗……。クロヴィス様、これは一体」
初めて見る光景に魅入られ、感嘆の声を上げる。神秘的で本当に美しい。
「ヨーナスに準備して貰ったんだ。リゼットと二人だけの時間を過ごしたくてね」
彼はそう言いながらリゼットに肩が触れる程の距離に座った。長椅子故境目などはない。使用人達も下がらせ、彼が言う様に本当に二人きりだ。
「まるで世界に僕達だけしかいないみたいだね」
「そうですね」
ランプの灯に照らされている彼の横顔に魅入る。何時もにも増して素敵で格好良くて、色っぽい。胸が高鳴るのを感じた。
クロヴィスは、ポットからカップへとお茶を淹れてくれる。リゼットも真似をして、彼のカップへとお茶を淹れた。それが何だか可笑しくて、二人で笑った。
その後、クロヴィスとリゼットは暫し昔話に花を咲かせた。
「リゼットが屋敷に来たばかりの時は、君はずっと僕の後ろをついて来たよね。流石に閑所にまでついて来た時は、僕が恥ずかしくなっちゃったよ」
「そ、そんな事、覚えていないですっ!」
恥ずかしくなり一気に顔が熱くなる。
「他にも僕が仕事を始めると寂しくなっちゃうのか、隣にしゃがみ込んで終わるのをずっと待ってたりしてね。しかもいつの間にか寝ちゃっててさ」
余り良く覚えて無かったが、クロヴィスに言われて記憶が蘇ってきた。
「もう、クロヴィス様意地悪です……」
「ハハッ、揶揄っているつもりはないよ。ただ、可愛かったなって話なだけで」
「今は、可愛くないですか……?」
過去形で話す彼にリゼットは少し落ち込む。するとクロヴィスはリゼットを引き寄せ抱き締めて、首元のチョーカーを何度となく弄る。癖なのか、何時もこうやって触れてくる。
「今も昔も君は変わらず、僕の可愛いリゼットだよ」
甘い言葉なのに、彼は苦し気に囁いた。その訳はリゼットには分からない。彼の顔を見たくて見上げようとするが、キツく抱き締められ身動ぎする事は叶わなかった。
リゼットはクロヴィスに抱かれながら、瞳を伏せた。クロヴィスの匂いに包まれ、酷く安心する。彼の温もりをもっと感じたくて、リゼットは自らも身体を擦り寄せた。ずっとこのまま彼の腕の中にいたいと思った。
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