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46話
しおりを挟む「邪魔をするな、レンブラント・ロートレックッ」
剣が打つかり合い擦れる音だけが部屋に響く。始めはレンブラントの剣を受け流していただけのユリウスも、次第に踏み込み自ら攻撃を仕掛けてくる。
距離を詰めギリギリッと互いの剣で押し合い睨み合う。
「ハハッ、仲間割れかい?」
視界の端にクヌートがこちらを見て笑っている姿が映った。彼は今は完全に油断しており、謂わば高みの見物といった所だろう。きっとレンブラント達が相打ちになると思っている。
レンブラントは興奮状態であると自覚しながらも、意識はユリウスだけでなく無論クヌートやティアナにも向いている。そしてそれはユリウスもまた同じと分かる。
「青二才は、血の気が多いねぇ」
そんな軽口をクヌートが叩いた時、気が緩んだのだろう。ナイフを掴んでいた手元が僅かに緩んだ。
(今しかない)
レンブラントはユリウスの剣を弾き一度後退すると、身体の向きを変えクヌートへと向き直り剣を構える。ユリウスも同じ事を考えていた様で、鏡の様に同じ動きをした。それはほんの一瞬の事だ。
「痛っ‼︎」
クヌートが身構える前に踏み込もうとしたが、ここで予想外の出来事が起きた。
「い、痛いっ! 離せっ‼︎」
カランッとナイフは音を立て地べたに転がる。彼の隙を突いたのはレンブラントでもユリウスでもなく、彼女だった。
緩んだ手元にティアナは思いっきり噛み付いた。クヌートは痛みに顔を歪ませてティアナを振り払い突き飛ばす。
レンブラントが足を踏み出そうとしたその瞬間、近くに風を感じた。
ユリウスが地面を勢いよく蹴り上げ、クヌートへと突っ込むのが視界に映る。そして素早く彼はティアナを抱きとめた。
「外すなよっ」
叫びながらユリウスはティアナを勢いよくレンブラントへと向かって放った。
「ティアナッ」
レンブラントはティアナを確りと受け止める。
元々小柄で細身の彼女の身体は、以前より更に小さく感じた。
(無事で、良かった)
彼女を失うかも知れないと思っただけで、気が狂いそうになった。彼女の温もりを確かめ酷く安堵する。ただ首元に滲んでいる血が痛々しく思えて、唇を噛んだ。
「よ、よ寄るなっ!」
クヌートへ視線を戻すと、彼は落ちたナイフを拾い上げ、それをユリウスへと無造作に投げつけた。だがそれも一瞬にしてユリウスの剣に弾かれ呆気なく終わる。それでも尚、蒼白になりながらも必死に逃げようとするが、慌て過ぎて足がもつれ情けなく尻餅をつく。喉元に剣先を突き付けられたクヌートは、観念したのか脱力した。
「彼女を誘拐した目的はなんだ」
クラウディウスが一歩踏み出し前に出る。そんな彼を一瞥したクヌートは、薄ら笑いを浮かべた。
「あんた、王子の癖に何も知らないんだね。 彼女は……」
ーーシュッ。
「っ‼︎」
一瞬だった。ユリウスの剣が何かを言い掛けたクヌートの喉を切り裂いた。血飛沫が飛び散り地べたを汚す。
「ティアナ、見るなっ」
レンブラントは、咄嗟にティアナの視界を遮る様にして自分の胸元に彼女の顔を押し当てた。
パタリと音を立ててクヌートの身体は倒れると、微動だにしなくなった。
「……ユリウス、どういうつもりだ」
「失敬。 手が滑った様です」
直ぐに分かる嘘を吐く彼に、レンブラントのみならず、クラウディウス達も困惑を隠せない。異様な空気が漂う。
「なぁ、流石に不味いだろう」
カミルが呆れた様に言うが、ユリウスは平然としながら踵を返す。
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ユリウスは後からやって来た他の部下に淡々と指示を出し終えると、レンブラントに向き直り早々にこの場から立ち去る様に言った。
彼は別にレンブラント達の上官でも何でもなく、故に指示に従う義務はない。それに色々と腑に落ちない。だが、確かに何時迄もこんな場所に留まる理由もないので大人しく従う事にした。
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