【拝啓、天国のお祖母様へ 】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
46 / 96

45話

しおりを挟む

 地下室へと急ぐレンブラントの行先には、ゴーベル伯爵の配下と思われる者達が地べたに転がっていた。

『地下には偽花薬の製造場所があるそうです』

 先程ユリウスの部下であるマインラートが話していた。そこにユリウスは一人で向かったそうだ。
 もう一人のユリウスの部下であるカミルからは地下以外の屋敷内は隈無く調べ上げたと聞き、ティアナの事を簡潔に説明して彼女を見ていないかを尋ねたが、彼は否と答えた。ならば、彼女は地下室にいる筈だ。
 
 地下へ続く薄暗い階段をランプの明かりを頼りに進んで行った。階段を降り切ると、少し気温が下がったのを感じた。
 長い廊下をレンブラント達は、警戒しつつ駆けて行く。先程同様、ここでも地べたには伯爵の配下が幾人も転がっていた。
 彼は一人でこの数を相手にしたのかと思うと、流石だと言わざるを得ない。

「レンブラント、気を付けろよ!」

 やがて数メートル先に明かりが漏れているのが見えた。先陣を切っていたレンブラントの直ぐ後ろのヘンリックが、声を上げる。



「ティアナッ‼︎」

 扉が破壊された部屋へと、飛び込む様にして入った。するとそこには細身で血色の悪い男が、ティアナを拘束し首元にナイフを突き付けていた。 
 思わずレンブラントは叫ぶ。
 その向かい側には、金を帯びた淡褐色の髪の青年が剣を構え、鋭い翡翠色の瞳で男を睨んでいる。彼がユリウス・ソシュールだ。

「これはまた、参ったなぁ」

 男はレンブラント達を一瞥すると、気の抜けそうな態度と声色、情けない表情を浮かべる。だがナイフを握る力を緩める様子はない。

「クヌート・メロー、観念しろ。 貴様に逃げ道はない」

 表情一つ変えないユリウスは振り返る事すらなく、レンブラント達に見向きもしない。その様子を見て、相変わらずだと思った。
 学院生時代からそうだった。己の興味の対象以外は彼にとっては空気も同然であり、どんなに周囲がレンブラントとユリウスが好敵手だと囃し立てようが、レンブラントの存在すら無視をする様な人物だった。

「それはどうだろうね。 君達が彼女を見殺しにすると言うなら、確かに逃げられないかな」

 クヌートはそう言いながらティアナの首筋に向けているナイフをゆっくりと滑らせた。

「さて、どうする?」

 身体を強張らせながらも声を洩らす事なく、静かに耐える彼女の首筋からは、赤い血が伝い流れる。その光景に血の気が引く感覚を覚えた。
 そんな中、気丈さを崩さない彼女と目が合う。その瞳の奥が、不安気に揺れていた。

「ユリウスッ、剣を下ろせ!」

 レンブラントは叫ぶが、彼は剣を構えたまま動く様子はない。視線はクヌートを見据えている。
 
(まさか、彼女を見殺しにするつもりなのか……⁉︎)

 そう思った瞬間、今度は一気に頭に血が上った。そして気が付けば剣を抜き、ユリウスへ振り下ろしていた。

 キーンッ‼︎ 部屋に剣と剣が擦れる音が響く。

「レンブラント、止めないか!」
「レンブラント! お前、何してるんだよ⁉︎」

 クラウディウス達がごちゃごちゃと喚いている声が聞こえるが、興奮し過ぎて言葉として認識出来ない。
 今は兎に角ユリウスをどうにかして抑え込む事しか考えられない。

「チッ……」

 カッカッカンッ‼︎ 剣で打ち合う中、ユリウスはレンブラントを睨み付け舌打ちをした。











しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...