【拝啓、天国のお祖母様へ 】この度、貴女のかつて愛した人の孫息子様と恋に落ちました事をご報告致します。

秘密 (秘翠ミツキ)

文字の大きさ
上 下
44 / 96

43話

しおりを挟む


 郊外の林道を抜けると、屋敷が見えた。この辺りは民家はなく人気もない。
 
「一体何時まで待てば良いんだよ」

 草木に隠れ、屋敷の様子を窺っていると、ヘンリックが、げんなりした様子で不満を述べた。それもそうだろう。何しろレンブラント達は今朝からこの場所で待機していた。そして今、辺りは緋色に染まりもう夕暮れだ。

 ティアナが行方不明になり、あれから五日が経つ。あの後、ヴェローニカから聞き出した情報は余りにも乏しくお粗末なものだった。

『ティアナ・アルナルディの後をつけた事があって……その時にフードを被った男から話し掛けられましたの。 彼女を必要としている人物がいるから、協力して欲しい、謝礼はするからと持ちかけられまして……。 勿論、謝礼は頂いてませんわ。 だって、ティアナ・アルナルディを排除出来るなら私の目的は果てせますもの』

 何故か胸を張るヴェローニカに呆れつつも、登院中のティアナを予め準備された馬車に無理矢理押し込めたと聞いた時は、レンブラントは本気で彼女を殴りそうになった。
 そんな事で結局、ヴェローニカの話からは犯人の素性を掴む事は出来ずに、元々クラウディウスが目星を付けていた数人の人物を探る事にした。その内の一人が、この屋敷の主人であるオラル・ゴーベルという訳だ。

「まだダメだ」
「何でだよ。 ティアナ嬢が、この屋敷に居るって確認は取れたんだろう?」

 クラウディウスは首を横に振った。
 確かに、潜入させていた配下からまだ合図はない。ヘンリックの気持ちは分かる。正直もどかしくて仕方がない。レンブラントだって今直ぐにでも屋敷に突入して、ティアナを救い出したい。だがタイミングを見誤れば、彼女の身が危ない。時には忍耐強く待つ事も必要だと、自分に言い聞かせて耐えるしかない。

「クラウディウス。 合図があったら屋敷内には、僕とヘンリックだけで突入する。 君とテオフィルは、この場で待機していてくれ」

 本来ならば、王太子である彼がこの場にいる事自体おかしな状況だ。ただ今回、クラウディウスは自らの責任だと言って強引に一緒について来てしまった。だがこれ以上は流石に何かあったら不味い。
 それにレンブラントとヘンリックの二人と言っても、配下の者達は屋敷を囲む様にして配置している。無論彼女の安全を確保出来たら、その後は彼等に任せるつもりだ。

「いや、私も一緒に行く」
「それは幾ら何でもいけませんよ、クラウディウス。 危険過ぎます」

 何時も以上に頑ななクラウディウスを、三対一で諌めるが、彼は一歩も譲るつもりはない様だ。彼の長所の一つでもある正義感は、同時に短所でもあると、ヒシヒシと感じた。

 バリンッ‼︎ 不意にガラスの砕ける音が辺りに響いた。その瞬間、クラウディウスは動き出す。慌ててレンブラント達もそれに続いた。

「クラウディウス、合図ってまさかこれか⁉︎」
「いや、違う。 だが、何かあったのだろうな」

 予定では正面の出入り口にて、使用人に扮して潜入していた配下が現れ「旦那様、お客様がお見えです」と声を掛けてる手筈だったという。だがその前に、どうやら予期せぬ事態が起きた様だ。
 レンブラント達は警戒しつつ、扉から中へと突入した。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

【本編完結・番外編追記】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。

As-me.com
恋愛
ある日、偶然に「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言する婚約者を見つけてしまいました。 例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃりますが……そんな婚約者様はとんでもない問題児でした。 愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。 ねぇ、婚約者様。私は他の女性を愛するあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄します! あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 番外編追記しました。 スピンオフ作品「幼なじみの年下王太子は取り扱い注意!」は、番外編のその後の話です。大人になったルゥナの話です。こちらもよろしくお願いします! ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』のリメイク版です。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定などを書き直してあります。 *元作品は都合により削除致しました。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

【完結】二度目の恋はもう諦めたくない。

たろ
恋愛
セレンは15歳の時に16歳のスティーブ・ロセスと結婚した。いわゆる政略的な結婚で、幼馴染でいつも喧嘩ばかりの二人は歩み寄りもなく一年で離縁した。 その一年間をなかったものにするため、お互い全く別のところへ移り住んだ。 スティーブはアルク国に留学してしまった。 セレンは国の文官の試験を受けて働くことになった。配属は何故か騎士団の事務員。 本人は全く気がついていないが騎士団員の間では 『可愛い子兎』と呼ばれ、何かと理由をつけては事務室にみんな足を運ぶこととなる。 そんな騎士団に入隊してきたのが、スティーブ。 お互い結婚していたことはなかったことにしようと、話すこともなく目も合わせないで過ごした。 本当はお互い好き合っているのに素直になれない二人。 そして、少しずつお互いの誤解が解けてもう一度…… 始めの数話は幼い頃の出会い。 そして結婚1年間の話。 再会と続きます。

誰も残らなかった物語

悠十
恋愛
 アリシアはこの国の王太子の婚約者である。  しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。  そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。  アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。 「嗚呼、可哀そうに……」  彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。  その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

処理中です...